こんにちは、ご訪問ありがとうございます。
ココロとカラダの調律師・パーソナルヨガトレーナーAyakoです
前回、ヨーガスートラに書かれている
「五つの心の動き」
についてお話しさせていただきました。
「五つの心の動き」とは、
「正知」
「誤謬(ごびゅう)」
「分別知」
「睡眠」
「記憶」
の五つです。
(こちらは2012年2月21日のコラムを加筆修正したものです。)
今回はその中から
「記憶」
について考えてみたいと思います。
ヨーガスートラの第1章10番に
この「記憶」について書かれています。
日本語では
「記憶とは、かつて経験した対象が失われていないことである」
と訳されています。
確かに「記憶」とは
「覚えている」ということですから
日本語での意訳としては
その通りです。
では、サンスクリット語の原文は
どのように書かれているか見てみましょう。
「अनुभूत-विषया।़सम्प्रमीषः स्मृतिः ।」
アヌブータ ヴィシャヤーサンプラモーシャハ スムリティヒ
「अनुभूत (アヌブータ)」＝経験する、感じる
「विषयः (ヴィシャヤハ)」＝対象、事柄
「असंप्रमीषः (アサンプラモーシャハ)」＝欠陥のないこと、損失のないこと
「स्मृतिः (スムリティヒ)」＝記憶
そのまんま、
「記憶とは、経験した対象に損失がないこと」
ですね。
ですがここで、とても大切な言葉があります。
「संप्रमीषः (サンプラモーシャハ)」
という言葉です。
この言葉に、否定の「ア」がついて、
「アサンプラモーシャハ」になっていて、
モトの言葉は「サンプラモーシャハ」なのです。
この「संप्रमीषः (サンプラモーシャハ)」を
詳しく見ていくと、
「सं (サン)」
「प्र (プラ)」
「मीषः (モーシャハ )」
の三つから成り立っています。
「सं (サン)」も「प्र (プラ)」も
「強調」を意味します。
（サンスクリットの「サン」、
プラクリティの「プラ」と同じです）
二重で強調しているのです。
つまり二つ重ねてまで、
「मीषः (モーシャハ )」
を強調しているのです。
では、
「मीषः (モーシャハ )」
の意味は何でしょうか。
そこまで強調される、
その言葉は何をさすのでしょうか。
それは、
「盗む」
という意味です。
ですから、直訳すれば、
先ほどの記憶についての文章は、
「盗む」の否定ですから
「経験した対象が『盗まれていないこと』」
となるのです。
では、それは誰が盗むのでしょう？
そして、盗まれるものは何でしょう？
私は始め、
「自分が覚えている記憶」
が盗まれるのだと思いました。
しかし、詳しい説明を受けると
そうではありませんでした。
ここで盗まれるものは、
「記憶すべき対象」
なのです。
その記憶すべき対象を、
自分が把握するまでもなく
盗まれるのです。
では、その「記憶すべき対象」を
盗むのは誰か。
それが、
「心」
なのです。
例えば、朝に嫌なことがあったり
気になることがあって、
心がざわついていたとします。
そうするとそのことばかりが気になって
周囲のことが目に入らなくなります。
学校に行って授業を受けていても
アタマに入って来なかったり、
人の話を聞いているはずなのに
中身が全然理解できなかったり、
誤って認識したりします。
それまでの心の状態によって、
その対象を正しく把握することが
できなくなっているのです。
記憶すべき対象を
把握できないということは、
その対象が「心」によって
「盗まれている」
のです。
正しく把握できたものは、
正しい記憶になります。
しかし、正しく把握できなかったものは、
正しい記憶になりません。
そもそも覚えるべきものが
失われているのですから
当然ですね。
私たち自身の心が、
その対象を記憶することを
邪魔しているのです。
つまり、
「それを記憶する瞬間の心の状態」
が大切なのです。
では、心にその対象を
盗ませないようにするには
どうすればいいでしょう。
そのためには、
対象を盗もうとする
「心の動きを止める」
こと。
そして、
「『今』『ここ』に集中する」
こと。
常に「今」「ここ」にあるものに
心を留めることができれば、
心に対象を盗まれることなく、
正しい認識となり、
正しい記憶となるのです。
しかし、常にそのようにできる人は
ほとんどいないと思います。
私たちの心はいつも慌ただしく動き回り、
記憶する対象すら簡単に盗んでしまします。
それだけ、正確にものを見ることは難しいのです。
ですから、大抵の人の認識は
曖昧でいいかげんなものです。
その曖昧でいいかげんな相手に対して
「期待をしないように」
と教わりました。
もちろんそれは、
相手から見た自分も同じです。
相手からしたら自分だって
曖昧でいいかげんなものなのです。
心は、記憶すべき対象を盗んでしまう大泥棒です。
しかも、「सं (サン)」と「प्र (プラ)」という、
最高の強調を受けている偉大なる泥棒です。
自分の心が大泥棒だということを忘れずに、
正しく記憶すべき対象を盗まれないよう
気をつけたいものですね。
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