7月25日、厚生労働省より2012年度の児童虐待の実態が発表されました。
2012年度の1年間で虐待によって死亡した児童は99人。
加害者の56.9%が実母、被害に遭った児童の43.1%が0歳児でした。
2012年度の「児童虐待」件数、過去最高の6万6807件--22年連続で増加(マイナビニュース)
http://news.mynavi.jp/news/2013/07/26/235/index.html
主な理由は、望まない妊娠による出産。
育児放棄をしたり、虐待をしたり、母親の未熟さは責められるべきでしょう。
しかし、虐待が増えている背景には現代社会が抱える問題が垣間見えます。
核家族化が進み、以前は家族や親せきぐるみ、あるいは地域全体で行われていた子育てが、親だけの責任にのしかかっている。
旦那がイクメンでなければ、母親の負担はさらに増します。
「少子化対策」がうたわれる世の中で、せっかくこの世に生を受けた99人もの子どもの命が絶たれているという実態を、どう受け止めればいいのか―。
とはいえ、正直ピンとこないのです。
私は北九州のいなかで、両親に愛されて育ちました。
しつけ程度に叩かれたり怒られたりした記憶はありますが、「虐待」とは縁のない環境ですくすくと大きくなったのです。
共感はできなくても、少しでも理解したい。
そう考えて見たのが、ドラマ「Mother」。
いま満島ひかりさんの名演技で話題になっているドラマ「woman」のスタッフが製作し、2010年に放送されたドラマです。
ギャラクシー賞や東京ドラマアウォードをはじめ、数々の賞を受賞しました。
芦田愛菜ちゃん演じる7歳の女の子の、実の母親を尾野真千子さんが演じています。
娘が幼いときに旦那と死別。
一人で子育てに奮闘しますが、疲れてしまい、やがて綾野剛さんが演じる恋人に溺れる。
恋人が娘を虐待するのを最初は黙ってみていたけれども、そのうち自分も加担するように。
真冬のある夜、極寒の北海道で、娘をゴミ袋に入れて放置します。
それを助けたのが、松雪泰子さん演じる小学校教師でした。
彼女は女の子を連れて東京へ逃げます。
かわいそうな児童を実の娘にしようとしたのでした。
すぐに見つかり、2人は引き裂かれる。
「誘拐罪」として彼女は逮捕されます。
彼女が見つけなかったら、女の子は凍死していたでしょう。
しかし、実の母親ではない彼女が女の子を育てることはできません。
「母性は女を狂わせる」
これがこのドラマのテーマです。
印象に残ったセリフがありました。
「母と子は、温かい水と冷たい水がまざり合った川を泳いでいる。
抱きしめることと傷つけることの間に境界線はなくて、子どもをうとましく思ったことのない母親はいない。
子どもをひっぱたこうとしたことのない母親なんていない。
そんな母親を川の外からののしる人たちが、またひとつ母親たちを追い詰め、溺れさせるんだと思います」
虐待は悪である。
そんな正論だけをかざしていても、何も変わらない。
自分だけは絶対にしない、などと誰が言い切れるでしょうか。
でも、どうすれば、増え続ける児童虐待を減らすことができるのだろう?
中脇初枝さんの『きみはいい子』は、虐待をテーマにした5つの短編集です。
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この小説の帯に書かれた文章に、一つの答えがあるような気がしました。
「家族でなくても、先生でなくてもいい。
傍にいる誰かが、気がついてあげられたら―。
世界は変えられなくても、目の前の子どもを救うことはできるかもしれない。」
--ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
実の親に虐待された子どもは、自分は世界で一番悪い子だと思い込みます。
親をこれだけ怒らせるのだから、自分はきっとすごく悪いことをしてしまったのだろう、と。
『きみはいい子』は、「虐待に気づく人」の目線で書かれています。
それは、学校の先生だったり、近所のおばあちゃんだったり、ママ友だったり。
そうか。
「きみはいい子だよ」
そう言ってあげることは、誰でもできるんだな、と思いました。
そして、虐待されている子どもと同時に、その母親にとっても、この言葉はきっと救いになるのではないでしょうか。
「虐待なんかして、私は人間失格だ」
自分を責めながらも、衝動を止められないのかもしれません。
子どもが死に至る前に、傍にいる誰かが、そんな母親たちを救うことができたなら―。
--いいえ、最初から完璧な母親はいません。あなたもいい子ですよ、と。
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