ある大手企業の役員がアルコール依存になり、依存症の専門クリニックである榎本クリニックを訪れました。
その人は同時にSNS依存でもあったそうで、診察中もスマホを手放せず、
「精神科なう」
と投稿。
さらに、処方された薬の名前をその場ですぐにアップします。
すると、それを見た人たちが、
「その薬にはこんな副作用がある!」
「その医者はヤブだ」
などとコメントする。
榎本クリニックの精神保健福祉士の斉藤章佳(あきよし)先生に実際に聞いた話です。
精神科の先生も、やりづらくて仕方ないでしょうね。
SNS依存について、斉藤先生に取材させていただいた記事がアップされました。
精神保健福祉士に聞く。SNS依存にならない方法とは?「自分でルールを決める」(マイナビウーマン)
http://woman.mynavi.jp/article/130823-086/
お話を聞いた中で、
「インターネットはもはや日常生活の中で切り離すことのできないツール。
むりやり遮断するのではなく、うまい距離の取り方を自分で見つけるべき」
とおっしゃっていたのが非常に印象に残りました。
そして思い浮かんだのが、少し前に世間を騒がせた漫画「はだしのゲン」騒動。
「小・中学生には刺激が強すぎる」として、図書館などで閲覧制限が行われました。
「ぼくたちはいいまんがも、悪いまんがも、ちゃんと自分でえらべます」
2010年に改正された東京都の青少年育成条例に対して、こんなコメントをしたのは、当時9歳だったタレントのはるかぜちゃんです。
とかく、大人たちは問題があると思ったものを隠そうとします。
それが一番ラクな方法だからです。
だけど――。
本当にそれが正しい「教育」と言えるのだろうか?
と私は疑問に思います。
インターネットは子どもには害だから、制限すべき。
そう言って取り上げても、また別の「害」が生まれるだけです。
なぜ悪いのかを教え、うまく使えるように導くことが大事だと思います。
それにはきっと、ものすごい労力がかかるのでしょうが、大人が手を抜いてはいけないところではないでしょうか。
6月末にLINEを使った殺人事件が起こったのは記憶に新しいですが、そのとき多くの中学校や高校で「LINE禁止令」が出ました。
それに対して、今年、中学1年生になったはるかぜちゃんは、こんなコメントをしています。
「LINEで殺人事件のログが見つかった事件のとき、LINEを禁止する学校とかが出てきたけれど、むしろLINEがあったからこそ、事件が明るみに出たのだとおもってる(ω)
ぼくの場合も、ツイッターがあるからテレビの向こうの悪口が可視化できて、ぼくにとっては、安全だとおもってる
LINEが殺人を犯したんじゃない、LINEが証拠を残したんだ
ツイッターでいじめが起きるんじゃない、ツイッターがいじめを記録したんだ
だから、つらいならツイッターやめれば?なんていうのは、単にいま起きていることをなかったことにするだけで、何の解決にもならないと、ぼくはおもう(ω)こっちから見えなくなったからって、悪意が消えてなくなるわけじゃないんだから」
LINEはうまく使えばとても便利なコミュニケーションツールだと思います。
それによって可能になったことはたくさんあります。
私は遠く離れた母と姉と同じグループで毎日のように会話をしています。
さまざまな種類のスタンプやタイムラグのない会話は、物理的な距離を軽々と越えてくれます。
その便利さの裏で、
「既読無視」…既読と表示されているのに、返事がない
「発言無視」…グループ内で自分の発言のあと誰からも発言がない
「強制退会」…勝手にグループから退会させられる
などとイジメにつながる問題が起こっています。
また、大学生の半数が読んだらすぐに返信しなきゃ!と既読表示がストレスになっていると言います。
なぜこういったことが起こるのか?
それを、斉藤先生は「自己肯定力」という言葉で説明をしていました。
自我の芽生えた人の大半は、自分で自分のことを肯定する力を持っています。
これが強すぎると「自意識過剰」ということになるのでしょうが、弱すぎると人の顔色をうかがい、自分の発言に対する反応を過剰に気にする、既読なのに返信しないことをプレッシャーに感じる、などということが起こるのです。
判断軸を他人ではなく自分にする「自己肯定力」は、成功体験を積み重ねること、そして他人から愛されることで身に付きます。
だから、親の役割は、子どもにしっかり愛情を注ぎ、「自己肯定力」を育むことだと思います。
まだ自我が芽生えず、自己肯定力の育っていないうちは、親がインターネットでのやりとりを見たり、管理したりすることが必要かもしれません。
でもそれは、頭から否定して取り上げることとは違います。
現実世界のいじめ問題でも頭が痛いのに、さらに目に見えづらいインターネットの世界でもいじめが起こるなんて、親にとっては難しい時代ですよね。
「自己肯定」で思い出したのが、2005年に栗山千明さんが出ていたACのCMのコピー。
「命は大切だ」
「命を大切に」
そんなこと何千何万回言われるより
「あなたが大切だ」
誰かがそう言ってくれたら生きていける。
あまり難しく考えすぎずに。
つまりこういうことなんだな、と思いました。