昔住んでいた家の近くに、的屋のおばちゃんが居た。
お祭りなどの時、露店でお面を売っていた。
おばちゃんは癌になり、手術をすれば助かるのに手術を拒んだ。
その理由は、背中の入れ墨に傷をつけたくなかったから。
背中にメスを入れなければならない手術だった。
おばちゃんは、自分の命よりも入れ墨に拘った。
他人に言わせれば「何故?」と感じる。
俺も、そう感じた一人だった。
しかし、今思うには、人にはそれぞれ代えがたいものが有る。
髪が抜けるのが嫌だと、抗がん治療を嫌がる。
火事の時、命がけで位牌を取りに行く。
他の人のために、自らの命を絶つ人も。
人は、それぞれの価値観で生きている。
人は、それぞれの意思で生きている。
それで良いと思う。
それで正しいと思う。
でも、生きていることが大切だと感じる。
徐風でした。