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「老人ホームに入ったら、1月20万円くらいかかるって話を聞いた。」と多くの人から言われる。確かにその位の金額がかかる施設というのはあるだろう。それがボリュームゾーンかと言えば何とも言えないが、「1月20万円」という数字はある意味常識として独り歩きしている。
では20万円の費用を払えるのかという問題。
単純な話、国民年金のみでは月々10万円ももらえないから、10万円の赤字となる。月々10万円とすると年間120万円。10年生きるとすれば1200万円の貯金が必要になる。
よく2000万円貯金しておけ、なんていう話もあったがあながち嘘でもない。しかし、随分高いハードルだと思う。
(2)費用の実際は
それですべての施設がその位費用がかかるのかと言えば勿論そんなことは無い。
一例をあげると某老人保健施設の場合。
費用の内訳は要介護度・利用者の負担段階・介護保険自己負担・食費・居住費・諸々の諸経費で計算される。ポイントは利用者の負担段階というもので、収入や貯金額に応じて4段階に分かれる。
その上で出すと、要介護5で費用負担が一番高い3割の人で約24万円という金額になるようだ。
しかし同じ要介護5でも段階が低い人は6万円台となる。そして多くの人は10万円台ということのようだ。
つまり介護老人福祉施設、いわゆる特別養護老人ホームや例に挙げた介護老人保健施設での金額はこのようなものになるというのが実際だ。
しかし当然だが、こういう所は競争がある。
特別養護老人ホームは制度上、要介護3以上であれば申し込みは出来るが、私の区では区内ホームは役所に申し込みをすることになる。そこで緊急性の高いA判定、それ以外のB判定と判定され、当然A判定の人が優先的に入所種る事になる。
つまり要介護3になったからと言って申請は出来るものの、余程の緊急性が無いと区内ホームは難しい。
さらに、特別養護老人ホームに入っても医療費は別で、という事になれば「1月20万円」という数字が出てきたというのが実態だろうと思う。
(3)ランニングコストは年金で賄うしかない
財産、という事になると動産、不動産をフル動員して、という事だが、高齢者にすれば出来れば年金だけで回して、動産、不動産は子供に残してやりたいという気持ちはあると思う。私が受ける相談でも「出来るだけ安い金額で」という話は多い。
親の費用が足りないから、その不足分を子供が補うという事もありうるのだが、そこまで余裕はないだろう。
制度に欠陥があるとか、みんな今の生活に大変だからとか言うつもりはない。しかし財産処分とも言えるこの支払の実態は、考えさせられてしまうのだ。
勿論、施設に入ったおかげで子供も楽になり、親も喜んでいて、という結果になれば、その費用負担も納得のいくものになるだろう。人生の最後に良い施設には入れて、本人も幸せだったと思いますくらいには言って貰える。
しかし何かあった場合、施設の過失を問う裁判が多い。そして大体において施設が敗訴し、遺族に多額の賠償金を払う羽目になる。そうなるとお互い不幸だ。
介護施設には個人が毎月20万円払う価値があるのか、という問いにもつながるのかもしれない。