(1)昔よくあった話
介護サービス事業所が乱立を始めたころ、事業所からの引き抜きというのは良くある話だった。私も独立開業するときに「何人くらい利用者がいるの?」と聞かれたものだ。つまりどこかの事業所から何人も引き抜いたうえで事業を始めるという事は半ば常識と言わんばかりだったと思う。
その上での話だが、最近は居宅介護支援事業所で逆転現象が起きている。むしろ独立するなら、利用者をそのまま連れて行ってくれと言うものだ。
というのも辞めた後のケアマネの確保は難しい。だから独立するならそのまま連れて行って良いよというものだ。
だから利用者の引き抜きと、利用者を手放すというのは表裏一体にある。どちらが良いという話でもないのだ。
(2)契約の問題
どんな介護サービスでも、事業所の決定は利用者側にある。嫌なら契約を解除すれば良い。契約書には文書により解除できるとか書いてあるかもしれないが、もう来なくてよいとすればその時点で契約なんて簡単に解除することが出来る。
つまり文言なんて建前でしかない。
そんないい加減なものだから、引き抜き行為と言うのは簡単に行うことが出来るのが介護の特徴でもあろう。
しかしそもそもの話をすれば、利用者は個人と契約するのではなく事業所と契約するのだ。介護サービスを提供するのは事業所の責務であるから、本来であれば担当を定期的に変えるなりの対応が必要だったのだ。それを面倒くさがったり、利用者の希望という言いなりになったがゆえに引き抜きが行われてしまう。
だからこそ大手では定期的に人事異動が行われて、利用者との関係が薄くなるようにしている。こういう問題が起こるのは小規模零細の事業所である事から、やはり大手でないとこういう対応しなくても良い問題に振り回される事にもなるのだ。
(3)去っていく利用者は諦めろ
そんな事業所との関係より、個人との関係の方が深くなる介護サービスだから、去っていく利用者を止めることは出来ない。連れて行った職員を訴えることが出来ることではあるが、損害を賠償させるまでは至らないだろう。
つまり現実的には引き抜きし放題なのだ。
だから諦めるしかないという事になる。こんなことで良いのかと思うが、これが介護サービス事業所のリアルである。