(1)福祉事業の人気は高かった。
私が大学の頃の話になるが、地方の大学に行っていたせいか、地方の出身者が多かった。そういう人の話を聞くと、実習なども受け入れてくれるところを探すのが大変だし、ましてや就職をするなど難しいという話だった。地方は施設の絶対数が少ないので、自然と採用人数も少なくなるというのは当然だが、老人ホームに就職するというのは大変なんだなと思った記憶がある。
実際に私も老人ホームで働いたことがあるが、退職者が出ればすぐに応募があり、倍率は10倍は下らなかったと思う。更にハローワークが行う就職フェアは入場制限がかかるほど人が溢れ、社会福祉法人の求人はおろか無認可の月給12~3万円の事業所でも少なくとも10人くらいは求職者はいた。
2000年に介護保険制度がスタートした。当時は不況という時代であったものの、新しい業界に期待する人は多かったと思う。社会では「社畜」という言葉が出始め、働くだけで自分がないという事が疑問視され始め、更に「過労死」などが問題視された時代でもあった。福祉という人を助けるという仕事は、今までの人間関係に疲れた人が、これからのライフワークとして関わっていきたいという思いを実現するきっかけにもなったと思う。そんな期待から介護保険事業は滑り出し好調だった。
(2)片目つぶって面接し、両目つぶって採用する
ところが景気が良くなるにつれて介護業界も見限られるようになる。その原因は2006年の「コムスンショック」だろうが、在宅・施設ともに「介護の仕事は生活が出来ない」「年寄りの世話は大変なのに待遇が悪い」などの悪評が広がり、一気に離れていった。
現在の状況はどういうことになっているかと言うと「片目つぶって面接し、両目つぶって採用する」が当たり前のようになってきているという。
今の介護事業所の採用は求職者1人に対して15事業所くらいが取り合いになっているという。その位人が足りない。人が足りないというだけでなく、事業所とすれば人員基準に満たなくなり事業が行えなくなる=倒産するというリスクも含んでいる。
とにかく人の好さとか関係ない。どんな人でも頭数を揃えなければ事業が行えないという状況まで追い込まれているというのが現状だ。
記事のような採用されやすい云々はその通りだろう。
事実、そんなことを言える人ならすぐにでも採用されると思う。しかし例えば介護の仕事に興味がなく、介護しか仕事がないという人も採用しないと頭数が揃わないで事業廃止になる。そんな事業所が山ほどあるというのが現実だろうと思う。
(3)常識にとらわれると
記事に採用されにくい人とあるが、募集をかけるとこちらが予想しないようなことを言う人もいる。在宅介護の仕事には資格がいるからそれを明記しているのに、それを見ないで文句を言ってくる人。ケアマネの募集をしたら、そもそも資格も介護経験もない人から応募があったことなど、色々ある。加えて「ジャージで面接に来た」とあるが、我が社にスーツで面接に来た人はほんの数人である。細かいことを言えば履歴書の証明写真がスナップ写真だったり、そういう常識的なことが出来ない人は意外と多いものだ。
しかし前述したとおり、そういう人でも採用しないと人員基準に満たさなくなり、事業が出来なくなる。それが事業主の責任だといえばその通りだ。逆に言えばそういう常識のない人が我が社に来て、生き生きと仕事をするようになるのを見ると嬉しくなったりもしたものだ。
それは実際に仕事をさせてからそうなるものだが、今の事業所はそんな悠長なことは言っていられない。だから人材紹介に多額の紹介料を払ってでも人材を紹介してもらわないといけなくなるのだ。この紹介手数料についても問題ありとなっているが、そもそも人が集まらないのに手段を選んでいられないというのが現状だろう。
他人から見れば色々と言えるものだが、当事者からすれば「そんな悠長なことは言っていられない」という事なのだ。