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そもそも介護保険における訪問介護は集約型労働と言われ、資格を持った主婦を中心に仕事が回っていたように思う。例えば食事介助などは時間が集中するから、どうしても正社員だけでは回らない。そこでパートや登録ヘルパーに働いてもらうという仕組みだ。介護報酬も出来高だから人を一日雇うとなると、それなりの仕事量を確保しなければならない。訪問介護に一日のルーティーンで仕事を回すというのはやはり難しい。しかも利用者も入院や急な用事で仕事がなくなる時もある。そうした不安定で収入も保証されない状態で、ヘルパーというのは見限られてしまった。
つまりは介護という分野はこうした「みんながちょっと」手伝ってくれれば上手く回ることは少なくない。
更に言えば「シニアの仕事」として一つ確立しても良い。
例えば病院の掃除とか、スーパーの棚卸とか、年配の人が働いているところを目にすることが多くなった。介護で言えば「有料老人ホーム紹介センター」のルート営業も年配の方がいたりする。定年後、なんか働かなくちゃ、と思っても特に特技もやりたいこともないし、という人には記事のようなトライアル事業で介護の現場に入ってもらうことは有効であろうと思う。
(2)介護職の魅力よりも天下り団体の利権が大事
そもそもの根本問題は「介護職で働きたい」という人がいなくなったという事である。
かつてホームヘルパー研修は盛況の極みだった。受講したくても抽選になる。介護保険という新しい分野に活路を見出そうとする人、ちょっと興味があってカルチャースクール感覚で受講した人様々いただろう。その頃は不況という要素はあったにしろ、介護職は人気でもあったのだ。
しかし様々なことが明るみに出た結果、「介護職には就かない方がよい」という常識というか世論というかになってしまったという事である。
つまり「業」としての介護職は既に見限られた。
そこを追求しないで、こうした付け焼刃な方法というのはどうなのだろうか、と専門家として疑問に思わないでもない。
記事のようなスタイルで働くのであれば資格は不要である。そもそも人不足で仕事が回らないというのに、介護従事者になるハードルを上げるものだから当然だ。施設では資格はいらなかったが、2024年度からは「認知症介護基礎研修」以上の資格取得が求められる。
費用は数千円程度で受講できるのだが、この期に及んでハードルを設定しようとするという姿勢は、何としても研修事業による利益は確保したいという天下り団体の執念を感じる。
(3)無い袖は振れない
ただ記事の仕事内容は昔からあるボランティアと変わらない。給与がどのくらい出るのかは書いてないから分からないが、これからそれが最低賃金をクリアした仕事になるという事だ。
また、一般社会を経験した人が施設に来ることによって、今まで介護の中では常識だったことが世間では非常識だったという事が明るみになる事もあるだろう。
介護の仕事というのは何も身体介護だけではない。
例えば「話し相手」と簡単に言うが、場合によっては利用者の代弁者でにもなる。施設の相談員が持て余している人もうまく対応できる可能性もある。
それには資格やスキルだけではない、その人が持っているkyらくたーや経験からくる「空気の読み」みたいなものがあると思うのだ。
介護業界はとにかく「質」の問題を取り上げる。その「質」とやらの答えがないままに、現場でも便利に使いがちだ。そういう訳の分からないことを明るみにしてくれるかもしれない。
いずれにしても介護業界は人不足である。無い袖は振れないわけで、人不足を解消するのにこの方法を取るのは策の一つだ。
もしかしたら期待できるかもしれない。
