在宅のケアマネの立場でこうした場面に出くわしたことは無い。
家族がいる人、遠方でも親戚がいる人、身寄りがいなくても生活保護で役所が関わっていた人ばかりだったので、こちらが何かを手配したことは無い。
ただ、残置物ということでは老人ホームに勤めていた時に思い出に残っている人がいる。
70代後半だったか、年始に初詣に行くバスで急に意識不明になりそのまま亡くなった男性がいた。
私が勤めていた老人ホームは役所からの措置入所なので、遺留金品の引き渡しは役所から家族に連絡が行き、引き渡すことになる。
その方には息子がいたが、随分前から音信不通になっていたようで、交流は勿論なく、葬儀にも呼べなかった。(私も役所から連絡があるまで息子がいることなど知らなかった)
息子が施設に来て遺留金品の話をした。その方は相当酒好きの人であったが、ビールは飲まずもっぱら日本酒を飲む人だった。そんな話をしたら「あっ!私も同じだ!」と息子が言う。そして遺留品である靴もサイズが同じとの事だった。息子は涙を流しながら、受け取って帰っていった。
息子からしたら施設に来るまで、とんでもない父親と思っていたかもしれない。どのような経緯で分かれたのかは分からないが、息子にすれば見捨てられたという印象を持っていても不思議ではない。最初にあいさつした時も顔はこわばっていたから。
それでも酒の話、施設での話をしていくうちに自分と重なる事もあったのかもしれない。
親子関係というのは複雑なもので、良い関係のままお別れできる親子は半数もいないという。いつかは和解できるのだろうが、この親子にとってみればこの場面が和解の場だったのかもしれない。