2022年1月に「健全な言論プラットフォームに向けて ―デジタル・ダイエット宣言ver.1.0」(くすり×リテラシー2022年3月3日)を公表した東大の鳥海先生と慶大の山本先生による『デジタル空間とどう向き合うか:情報的健康の実現をめざして』(日経BP/日本経済新聞出版、2022年)を読みました。宣言をまとめるに至った背景が書かれていて理解が深まりました。

 

内容の一部は日経BOOKPLUSでも読めます。この方法は今や販促手段として定着しているのかもしれません。『ニュースの数字をどう読むか』もそうでした(PRESIDENT Online)。これで本が売れるようになるのか、それともネットで一部を読んだだけで満足してしまって本は売れないのか、ちょっと気になります。

 

話を元に戻すと、著者らは現状を、アテンション・エコノミー(p20)に支配された状態と捉えています。ネット上の膨大な情報に晒されている現代人は、系統的に情報に触れてその中から取捨選択するだけの時間的余裕はありません(紙の新聞の時代には何とかできていた)。そのためシステム1(byカーネマン、くすり×リテラシー2021年4月21日6月4日7月15日2022年8月23日8月28日)で反射的に面白そうな情報を選ぶしかなくなり、それに対応する形で“釣り”タイトルを含むクリックベイト(くすり×リテラシー2022年8月31日)が横行しています。さらに、プラットフォームのリコメンドによるフィルターバブルや、気に入った人(だけ)をフォローすることによるエコーチェンバーから逃れられなくなっています(くすり×リテラシー2021年2月4日5月5日8月23日)。

 

宣言は、たとえアテンション・エコノミーが上記のような問題をはらんでいるとしても、情報の提供者も利用者もそこから離れる積極的な理由がない(p26)という認識に基づいています。利用者への情報リテラシー教育(くすり×リテラシー2022年5月8日)もよいでしょうが、そもそもアテンション・エコノミーの便利さ、楽しさを享受している人は教育を受けに来ないかもしれません。だからといってナッジを使うのは危険も伴います(くすり×リテラシー2021年4月21日)。だからこそ宣言では提供者、つまりプラットフォームを含む事業者や、今やアテンション・エコノミーに自ら吞み込まれかかっている(?)オールドメディア(≒プロのジャーナリスト)の果たすべき役割を重視しているのだろうと理解しました。

 

個別の記述でも覚えておきたい箇所が色々あったのですがそれはまた次回