FDAが迅速承認したアルツハイマー病の新薬アデュカヌマブ(くすり×リテラシー2021年6月8日)について、ロイター報道によれば、FDAの判断に抗議する意味で、直後に2人の諮問委員会の委員が辞任し(Reuters2021年6月10日)、さらにもう1人(ということは計3人)が辞任した(Reuters2021年6月12日)と報道しました。辞任した委員は、8日にワシントン大学の神経内科医、9日にメイヨー・クリニックの神経内科医、10日にハーバード大学医学部の教授とのことです(日経2021年6月12日)。前の記事で「ぬか喜びはできない」と書きましたが、その通りの展開になっています。

 

Reutersの記事によれば、諮問委員会は2020年11月に、アデュカヌマブの有効性の根拠が不十分だとして承認すべきでないという見解をほぼ全会一致で出していました。辞任した3人目の委員は「本件に関して諮問委員会の確固たる推奨が、(FDAの)意思決定に適切に組み入れられているとは思えなかった(I didn’t think that the firm recommendations from the committee in this case ... were appropriately integrated into the decision-making process)」とコメントしています。

 

前に紹介した論文を含め、Alzheimer's and Dementia誌2021年4月号の政策欄に、以下3本の論文(コメンタリー)が発表されていました。

・Kuller LH, et al. ENGAGE and EMERGE: Truth and consequences? 17(4):692-695

・Knopman DS, et al. Failure to demonstrate efficacy of aducanumab: An analysis of the EMERGE and ENGAGE trials as reported by Biogen, December 2019. 17(4): 696-701.

・Sabbage MN, et al. Open Peer Commentary to “Failure to demonstrate efficacy of aducanumab: An analysis of the EMERGE and ENGAGE Trials as reported by Biogen December 2019” 17(4): 702-703.

 

うち1番目の論文には、ENGAGE試験とEMERGE試験について以下のように書かれていました(抄録の一部を日本語訳)。「ENGAGE試験では有効性が認められず、高用量のEMERGE試験でも当初は有効性が認められなかったが、追跡期間が長くなるにつれて有意なプラス効果が認められた。最近、FDAの諮問委員会では否定的な見解が示されたが、FDAの神経学的薬剤担当部署では肯定的な見解が示され、統計担当者は否定的な見解を示した。」臨床試験の方法論やその解釈に議論があるのは確かなようです。

 

一方で、日本の条件付き早期承認制度(厚労省審査管理課長通知2020年8月31日くすり×リテラシー2020年10月5日)は、「検証的臨床試験以外の臨床試験の試験成績その他の情報により、一定の有効性、 安全性が示されると判断される」場合に適用され、かつ「製造販売後に当該医薬品の有効性、安全性の再確認等のために必要な調査等の実施」することが条件になっています。この「必要な調査等」が具体的にどんな調査(というか試験)でなければならないか、日本でももっと議論すべきと思います(厚労省医薬品医療機器制度部会(2018年12月14日開催)資料2)。