新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン開発(くすり×リテラシー2020年7月29日)が急ピッチで進んでいますが、本当にうまくいくのでしょうか。Lancetにワクチンをテーマにした新刊書の書評(Lancet. published Aug 1, 2020. DOI: 10.1016/S0140-6736(20)31640-8)が載っていて、とてもタイムリーなので興味を惹かれました。タイトルは『Stuck: How Vaccine Rumors Start-and Why They Don't Go Away』、直訳すると『立往生:ワクチンの噂やどうやって始まり、なぜなくならないのか』です。著者はLSHTMで「ワクチン信頼プロジェクト」を率いる人類学者のハイジ・ラーソン教授です。

 

 COVID-19ワクチンに限りませんが、ワクチンは健康な多数の市民が接種するのですから、社会に受け入れられるためには、研究開発、ライセンス、製造、販売、政策、実施に至るすべてで「信頼」が前提になります。本書ではそれに大いに影響すると思われるワクチンの「噂、尊厳、不信感、リスク、感情的な伝播(contagion)、選択、事実を上回る信念(belief)のパワー、データを上回るストーリーのパワー」が語られます。

 

 著者は本書で「情報の誤り(misinformation)の問題ではなく、関係性(relationship)の問題だ」と主張します。誤った情報は訂正したり削除したりすればよいけれど、不信感があれば問題はずっとなくならず“立往生(Stuck)”してしまうからです(この部分、日本のHPVワクチン(くすり×リテラシー2020年7月22日7月27日)を思い起こさせます)。以前の記事(くすり×リテラシー2020年6月25日)で紹介した政府(政権)への不信感の問題にも重なります。

 

 ワクチン政策を進めていく上で、こうした視点が欠かせないということに改めて気づかされました。とても面白そうな本です。

 

(2021年11月13日追記)

日本語訳が出版されました。『ワクチンの噂:どう広まり、なぜいつまでも消えないのか』(みすず書房、2021年11月10日発行