そして、玄関に近かった叔父さん夫婦も無事であった。その時、叔父さんは、洋服タンスを一人で抱えて外に運び出した。そのタンスが今だに健在で、今は亡き叔父さんの家にあるのだ。タンスの中には物が入っていたのに、叔父さんもどうやってそのタンスを一人で運び出したかは全く覚えていないと、後日語っていたが。私はといえば、玄関から表に

逃げる時に、玄関にあった私が何時も履いていたスリッポンタイプの靴を履いて

逃げたのである。靴を履く余裕があったとはとても思えないが、何故か靴を

履いて外へ出たのである。他の人達は皆裸足で逃げ出したが。

私は、外から2階を見上げた。真っ暗闇の中で火が周りを煌々と照らし出していた。母が妹を抱いて2階のベランダに出ているのが見えた。すると母は2歳の妹を下に投げ出したのである。下にいた人が妹を受け取ってかすり傷一つなく無事に難を逃れた。母の後ろ手には火が迫っていた。中庭には大きな木があった。母は意を決したごとく、ベランダから木に向かって飛び移ったのであった。母もかすり傷程度で無事に難を逃れることが出来た。

話が少しそれてしまったが、火事の話に戻ろう。

お婆ちゃんと私は一階の8畳間に一緒に寝ていた、と話した。

その8畳間は廊下を隔てて、矢張り8畳間くらいの広さの板の間の台所と土間にお勝手があった。私は、何かパチパチという音で眼が覚めた。台所の方で聞こえてきたので、私は、襖を開けた。すると、お勝手と台所は、まさに火の海で真っ赤に燃え上がっていた。煙は廊下を伝わって、母親と妹が寝ている2階へと上がっていっていた。私は、大きな声で、“火事だ!”と言って、お婆ちゃんと叔父さん夫婦を起こして、2階の母親に向かっても叫んだのである。

私とお婆ちゃんは直ぐに家から飛び出し、表に出た。さて問題は、2階にいた母と妹である。廊下は煙で充満して下には降りてこれる状態ではなかった。