【第2章】

前回のあらすじ

上手くマーラを救い出したと思った矢先、ミンシアが双剣の男に連れ去られる。とりあえず里へと戻ったヴァイト達は・・・

 

マーラが無事に戻ったことを里の皆は一様に喜んだが、ミンシアのこともあって、すぐにそれぞれの家へと戻って行った。
疲れを癒すためにその日は皆、早めに床に就いた。
一夜明けてみんなで長老の家に集まっていた。

「あの双剣の男を俺は知っている。王国の近衛兵に襲われた時に一緒に居た男だ。」

ヴァイトが掛けている椅子を揺らしながら、右手で顎をさすりつつ、おぼろげになりつつある記憶を呼び起こしている。

「となると、ミンシアをさらったのはやっぱり近衛騎士団ということになるのか・・・。」

複雑な面持ちでネルセンが話を続けた。

「ここは皆の力を合わせて!」

エリオスが息をまいて発言するが、ヴァイトが落ち着かせるように手で制して言葉を繋ぐ。

「この里の人数で王国近衛兵を敵に回すってか? 逆に見せしめとして滅ぼされて終わりだろ。」

エリオスが行き場を失った勢いを発散するかのようにドスッと椅子に腰かけた。

「気持ちはありがたいけど。ここは少数で王都に侵入するのが得策だと思うわ。」

ヒューラが最もな意見を口にする。その言葉にエリオスがまたバタッと立ち上がり、ヒューラに近づいてくる。

「だったら! だったら私も行く。いいですよね。長老!」

訴えかけるような目で長老を見るエリオスに、うむと一言長老は頷いた。嬉しそうにしているエリオスを見て、ヒューラはわかりやすい奴とヴァイトに目配せしてきた。その視線を受けて、苦笑いしながらヴァイトが両手を広げてみせる。

「私も行きます!」

「マーラ!」

部屋の入口にマーラの姿があった。ヴァイトが駆け寄る。

「まだ寝て無くて大丈夫なのか?」

手を貸そうとするヴァイトを制しながら、マーラがこちらに歩いてきた。

「私のせいでミンシアが・・・だから私も。」

「お前のせいなんかじゃない。誰かのせいだと言うなら、あの時あの場にいたみんなが背負うべきものだ。お前が一人で背負うもんじゃない。」

そう言ってヴァイトはマーラの頭をくしゃくしゃと撫でた。ネルセンとヒューラも、優しいまなざしで見つめながらコクリと頷いた。マーラはみんなの心遣いが嬉しくて、照れくさそうにはにかんだ。

「じゃとしたら、これをお持ちなさい。」

そう言って長老は裏の部屋へと姿を消して、その手に一つの箱を携えて戻ってきた。ゆっくりと箱を開くと、その中には綺麗に飾られた首飾りが入っていた。

「これは?」

マーラが不思議そうな顔で長老を見つめる。

「これは恐らく、獣王の首飾り。」

「獣王の首飾り・・・ってもしかして!」

ネルセンが思わず大きな声を上げた。皆も一様に目を丸くしてその首飾りを眺める。

「どうして私が?」

マーラが最もな質問をした。

「これはの・・・ヴァイスがマーラと共にあの里から持ち帰った物じゃ。」

「親父が!?」

それにはヴァイトが驚きの声を上げた。

「里一番の戦士として様々な所に赴いていたヴァイスがの。ある時、儂にこう言ったのじゃ。『私はいつどこで命を落としてもおかしくない。だから長老。あの子が、マーラがもし大きくなってこの里を出ると言い出したら・・・これをあの子に渡してほしい』と・・・。」

「親父・・」

「お父さん・・・」

マーラが亡き父の思い出に触れるかのようにそっと首飾りを取り出した。そして、その想いを確かめるかのようにぎゅっと抱きしめた。気のせいかもしれないが、父の温もりを感じる気がした。ヴァイトがマーラの肩を優しく抱いて、首飾りを手に取ると、マーラの首に首飾りを付けてくれた。

「この窪みのあるレリーフは何ですか?」

ネルセンが首飾りを見ながらふと湧いた疑問を口にした。

「これは、その窪みに輝石をはめ込むのじゃ。勇気、知性、慈愛、悲哀、純真、憎悪を現わす6つの輝石とその中央に坐する獣王の輝石。そのすべての輝石が揃いし時、獣王の首飾りは、その真の力を発揮する。ゆめゆめ忘るるなかれ。」

そう言ってマーラを眺めた長老はその目を細めた。

「私にそんな・・・力なんて・・・」

「今は何も考えずともよい。ただ親の形見と思って受け取ってくれんかの?」

マーラを優しく見つめた長老は、ふぉっふぉっふぉと笑ってマーラの頭を優しく撫でた。

「そういう事であれば・・・」

渋々という感じでマーラも首飾りを受け取ることを了承した。ヴァイト、ネルセン、ヒューラ、マーラ、エリオス、5人はミンシアを救い出すために、決意も新たにお互いの顔を見合わせた。

 

 

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【第25話】

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前回のあらすじ

ミンシアを連れて男と交渉しようとした獣人族は、男の手によって惨殺される。囚われながらもマーラと再会できたミンシアだったが、男はマーラを手に掛けようとする。その時マーラを守ったのは母の形見の髪飾りだった。何とか間に合ったヴァイト達と、ヒューラの魔法により男は炎の渦の中に。二人を助け出したヴァイト達が里に戻る。

 

「この辺までくれば大丈夫か?」

 

ヴァイトがミンシアとマーラを縛る縄をほどくため立ち止まって、ゆっくりと二人を地面に下した。普通にほどこうとしたが、固く結ばれててほどけそうになかった。

 

「ああ、もう!」

 

 苛立った声を上げてネルセンが剣でぶちっと縄を切る。縄から解放されて二人は軽く伸びをした。

 

「ゆっくりしている暇はない。安全を考えてすぐ里へ向かうぞ。」

 

 そう言って衰弱したマーラを抱えるヴァイトの目には、信じられない光景が写ってきた!

 ミンシアの後ろの影からぬっと姿を現した双剣の男が、ミンシアの口元に布を押し付けてミンシアを気絶させていたのだ。

 

「お前は、炎に焼かれたはずじゃ!」

 

 ネルセンは自分の目を疑うかのように叫んだ。

 

「あの消し炭は僕の変わり身の丸太だよ。よく燃えていたねぇ。」

 

 そう言って男はケタケタと笑った。そして、急に表情を消して。

 

「ミンシアはいただいていく。」

 

 と言ってその姿を消した。

 

「ミンシア!」

 

ヒューラの呼び声にミンシアが応えることはなかった。すぐに辺りを探したが、ミンシアとあの男を見つけることはできなかった。それぞれに複雑な気持ちを抱えつつ、無事にマーラを取り戻しはしたものの、ミンシアを奪われるという失意の中、里へと戻ることしか残された道はなかった。何も知らずに途中で出会ったエリオスに一部始終を話し、マーラの無事を聞いて喜びを見せるが、ミンシアの事を聞いて何もできなかった自分に怒りを抑えきれないようであった。とりあえずエリオスたちも連れて里へと引き返すことにした。

 

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【第二十四話】

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前回のあらすじ

囚われの身のマーラの様子を楽しむように話しかける男。マーラを救うために一度里に戻ったが、嫌人派の獣人族にミンシアをさらわれてしまう。ネルセンたちは獣人族との溝を思い知らされた。

 

 

「;*+|¥#$&!」

 

ミンシアは口を塞がれ、手足を縛られながらジタバタと抵抗を試みるが、屈強な獣人族の男に抗う術などあるはずもなく、ただその肩に担がれているしかなかった。

 

「ちょっと大人しくしろ!」

 

「何て粗暴な女だ。これだから人間の女ってヤツは・・・」

 

 何か自分が人間の女性の格を著しく落としているみたいだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。獣人族の男が6人に女性が3人。恐らくこの人達が嫌人派と呼ばれる人たちなのだろう。これで全員・・・とは思えないが、皆屈強な身体つきをしている所を見ると、僕をさらうために選ばれた9人なのだろうか? そうこうしている間に、少し開けた所に出た。たくさんの木材が積み重ねられている。さすがに獣人族の人たちも周りを警戒しながら、ゆっくりと進んで行く。

 

「一人で・・・と伝えておいたはずだけどな?」

 

 どこからともなく声が聞こえてきた。

 

「この通りお望みのものは持ってきた。マーラは・・・マーラは無事なのか?」

 

ミンシアを高々と掲げて見せびらかせながら、声の主を探して皆、きょろきょろと視線を走らせる。競りにかけられる魚の気持ちってこんななのかな? と場違いなことを考えながら、ミンシアは風の調べにピクリと耳を震わせる。

 

(ひときわ大きな木材の影に一人、マーラは奥の待機小屋の中に・・・)

 

その声に応じるようにミンシアが小さくこくりと頷いた。彼女・・・と呼んでいいのだろうか? 物心ついたときから自分にだけ聞こえてくる不思議な声。それを知ったのは、預けられたおじさん夫婦に声のことを話した瞬間、二人の顔が気持ち悪いものでも見るかのように軽蔑の眼差しに変わったからだ。それ以来、この話は決して他人には話すまいと心に誓ったのだった。トレミテと自分のことを語ったその声は、何かとミンシアのことを助けてくれた。が、いつも来てくれる時は気まぐれで、ミンシアの呼びかけに応えてくれることはほとんどなかった。そのトレミテが、今、ミンシアに語り掛けてきたのだ。

 

「確かに・・・まあいいや。その娘を置いて後ろへ下がってくれるかな?」

 

「マーラの無事を確かめるのが先だ!」

 

「どちらが優位な立場にいるのかわかっていないのかな? あの娘の命など僕には関係ない・・・」

 

「わかった! 下がるから! 下がるからマーラには手を出すな。」

 

 ミンシアをその場に置いて、獣人族の人たちが離れて行く。

 

「これで・・・いいだろ。」

 

「ああ、それで・・・十分だ。」

 

 一番後ろにいた獣人族の男が突然倒れた。異変に気付いた女性が声をあげようとするが、その声は誰の耳に届くこともなくその女性も口から血を吐いて倒れ込む。さすがに気がついた獣人族の人たちが身構えるが、すでに相手のペースに飲まれていた。次々と訳の分からぬまま仲間が倒れていく様を見守ることしかできない。ついにミンシアを担いできた、一人だけが残った。圧倒的な力の差に全身の毛が逆立つのを感じる。ふと気配を感じて後ろを振り向きざまに爪で薙ぐ! が、何の手ごたえもなくその手は空を切った。その刹那、目の前に男の姿が現れる。と同時に腹部に激しい痛みを感じた。二つの剣が獣人族の男の腹を貫いていた。

 

「マ、マーラ・・・」

 

目の前の男にすがりつきながら、ずるずると崩れ落ちる獣人族の男。

 

「お掃除終わりっと。」

 

 二つの剣を引き抜きながら、男はミンシアの方へと近づいてきた。

 

「君の命は、今僕の掌の上にある。」

 

 右の剣をミンシアの顎先に突きつけながら、男は恍惚の表情を浮かべていた。ミンシアの口を塞いでいたものを切り落とし、剣を鞘に納めている。

 

「僕が来たらマーラは解放してくれるんだよね?」

 

「まあ、そう焦るなって。今会わせてあげるから。」

 

 男がミンシアを担ぎ上げて、マーラの居る小屋の方へと歩き出した。このひょろっちい男のどこにそんな力があるのかと思ったが、どうやらかなり鍛え上げた体をしているらしい。このまま背中に嚙みついてやろうかとも思ったが、マーラの無事を確認したかったので止めておいた。ほどなく、扉を開けてボンッと放り投げられると、そこには後ろ手に縛られたマーラの姿があった。

 

「ミンシア!」

 

「マーラ! 助けに来たよ! って感じじゃないけど・・・」

 

ミンシアの所にマーラがもぞもぞと近づいてくる。

 

「どうして・・・ミンシア。」

 

「だって、友達じゃない。困っている友達を助けるのに、理由なんている?」

 

「ミンシア・・・」

 

 二人の間にガッと剣を突き立てて、男が二人の話を遮った。

 

「さて、出逢えたことだし、おしゃべりはそのくらいでいいかな? 君は・・・もう用済みだね。」

 

「待って! 話が違う!」

 

 ミンシアが力の限り叫ぶが、止める術はミンシアには何もなかった。ただ手を下すだけで目の前の命を奪える優越感に男が浸りながら、凍り付いた顔をしたマーラの様子を楽しんでいるようにも見えた。ミンシアはマーラに寄り掛かるように庇おうとするが、無駄な抵抗であることは明らかだった。男が剣を振り下ろす。

 

「ダメー!」

 

小屋の中にミンシアの悲痛な叫びだけがこだました。が、次の瞬間、固く目を閉じたマーラに剣が当たると思われたその時、まばゆい光と共に男の剣は弾かれた。ミンシアの懐にしまわれていたマーラの髪飾りが、男と二人の間に光の幕を張って、一際明るく輝きを放っている。持ち主を守った・・・という事か? 輝きの消失と共に髪飾りはボロボロと崩れて無くなってしまった。どうやら命に係わる危険から守ってくれる魔力を秘めた品だったようだ。不意に攻撃を弾かれたことに、男が驚きの表情と共に立ち尽くしている。

 

「貴様・・・何者だ?」

 

先ほどまでのふざけた調子は男の声から消え失せていた。そして、その問いかけに対する答えをマーラ自身持ち合わせて無く、ただ目の前の恐怖に飲み込まれない様に男を見返すことしかできなかった。

 

「残念だけど、二度目はないね。」

 

そう言って不敵な笑みを浮かべる男。マーラを後ろ背に庇いながら、ミンシアとマーラはじわじわと男から離れようとする。そんなことに意味はないと知りながら、身体は男から離れようと必死に足を動かした。不意に男の顔から表情が消えた。

 

「気が変わった。お前も連れて行こう。」

 

 そう言うと男は鞘に剣を収めてマーラに手を伸ばしてきた。が、急に男は伸ばした手を素早く戻しながら剣を引き抜き、身体を反転させる。男の居た所を氷の礫が通り過ぎて行った。

 

「ちっ! 思いの外早かったね。」

 

「マーラ! ミンシア! 無事?」

 

「ヒューラ!」

 

 思わずミンシアが喜びの声を上げる。ネルセンが飛び込んできて、男に切りかかる。男は左の剣で受けながら、右の剣で突く。それを紙一重でかわしながら、ネルセンは後ろに転がり受け身をとった。

 

「ふぃ~、危ない、危ない。」

 

 ネルセンは額の汗をぬぐいながら、男から目線を外した。それに気がついた男が目線の先を追うと・・・。

 

「よくやったぞ、ネルセン。」

 

両腕にマーラとミンシアを抱えたヴァイトが立っていた。作戦成功だ。あとはこいつから逃げるだけ・・・。

 

「貴様ら!」

 

 男の顔がみるみる紅潮していくのが分かる。

 

「コールドバレット!」

 

 ヴァイトに切りかかりに行った男を、ヒューラの氷の礫が牽制する。ヴァイトは二人を抱えて走りだした。すかさず男が追ってくるが、ネルセンが行く手を阻むように横薙ぎに剣を振るう! 男はそれを二振りの剣で叩き下ろすと同時にネルセンの剣を飛び越え、ヴァイトに向かって駆け出した。ヴァイトには見覚えのあるその双剣の男は、二人を抱えたヴァイトよりもやはり動きが早かった。

 

「ヒューラ!」

 

ヴァイトの呼びかけに応えるように、ヒューラの呪文の詠唱はすでに終わっていた。

 

「万物を燃やし尽くす炎の精霊よ。我の呼びかけに応えよ。そして目の前の敵を燃やし尽くさん! スピリッツ・オブ・インフェルノ!」

 

自分の力を使う通常の魔法とは違い、自分以外の力を借りて行う詠唱魔法はそれだけ威力が大きく上級の魔法である。それを使いこなすヒューラは、かなりの魔法の使い手であることを意味していた。男の下から巨大な火柱が上がる。

 

「今のうちに!」

 

3人が森の中へと駆け込んでいく。ネルセンが後ろを振り返ると、巨大な炎に飲まれている影が見えた。このまま燃え尽きてくれればいいと思ったが、あの男の強さを考えるとしぶとく生きていそうな気もする。だが、少なからず足止めは出来るだろう。一刻もこの場を離れたい想いで3人はひたすら里に向かって駆け続けた。

 

 

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