【第二十三話】

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前回のあらすじ

マーラを襲ったと思われる男たちの亡骸を発見したミンシア達。置手紙により別の者の犯行と分かる。ミンシアを要求する相手に一人で行くというが、一人で行かせるわけにはいかないとみんなで助けに行くことに。その算段を練る。

 

 新築の建物に入った時の様な木の香りが鼻を突く。うっすらと目を開けると、無骨な造りの飾りっ気のない壁が見えていた。つっ! 急に右腕の痛みに襲われマーラは顔をゆがめた。どうやら誰かが傷の手当てをしてくれたらしい。

 

(私・・・生きてる?)

 

誰が助けてくれたのだろうか? だが、後ろ手に縛られていることに気がつくと、善意で助けられたわけではないことを察して、気持ちが沈んだ。

 

「お目覚めのようだね。お嬢さん。」

 

 突然後ろからかけられた言葉に、ビクッと身体が反応してしまう。男性の声の様だ。きょろきょろと目を動かしてみるが、姿を確認することはできない。

 

「だ、誰?」

 

 震える声でマーラは聞きたくもあり、答えてほしくもない問いを声の主へとかけた。ゆっくりコツ、コツ、コツと頭の後ろに近づいてくる足音が聞こえてくる。が、恐怖のあまり振り返ることができない。右耳の後ろに男の気配を感じる。マーラは背筋がゾワッとするのを感じていた。冷汗が背筋をツツーッと流れ落ちる。男はマーラの耳元でゆっくりと口を開いた。

 

「だーれだ?」

 

 ゾワゾワとする背筋の寒さは最高潮に達し、顔中から冷たい汗が噴き出してきた。

 

「わ、わかりません。」

 

「だーよねー。」

 

 男はそう言ってクックックと気持ち悪い笑いを響かせた。どうしていいのかわからない状況に泣きそうになる自分を、マーラは必死に泣いてやるもんかとその気持ちを押し殺した。

 

「一つだけいいことを教えてあげよう」

 

「な、なんですか?」

 

「僕は野党や盗賊の類じゃない。ましてや、女性を襲うような下賤の輩とも違う。さーて、僕は・・・何だろうね?」

 

 男はマーラの様子を楽しむように高らかに笑い始めた。

 

(兄さま! ミンシア!)

 

ミンシアの名前が出てきたことに自分でも驚きを隠せなかったが、今はただ助けを願う事しかマーラにはできなかった。

 

 

 まだ時間があるから里の人たちの手も借りられないか? ネルセンの提案に賛否は別れた。少数で隠密に切り込むのがベストとも考えたが、相手が数十人で見張られているとかなり厄介だ。なので一度戻って長老に相談してみることに決めた。

 長老の家に戻って事の顛末を話した。長老は黙って目を瞑ったままふむふむと頷いていたが、一通り話を聞いた所で協力を快諾してくれた。エリオスが村の勇姿を募って、翌朝早くに発つといいと申し出てくれた。エリオスがいるのは心強いと、ヴァイトにも少しだけ笑顔が戻ったようだった。やはり持つべきものは親友なのか・・・とミンシアの頭にはヒューラと共にマーラの顔も思い浮かんできた。

 翌朝、ネルセンとヴァイトが支度を整えていると、バタバタと激しい足音と共にヒューラが飛び込んできた。

 

「ミンシア、ミンシアは来て・・・きゃ!」

 

 ネルセンが着替えの途中のまま固まっている。ヒューラが両手で顔を覆ったままで続ける。

 

「ミンシアが! ミンシアが居ないの!」

 

「何だって!」

 

 ヴァイトがバンッと立ち上がって扉の外へ駆けていく。ヒューラもすぐ後を追いかける。

 

「ちょっと待って!」

 

 ネルセンがズボンに引っかかってもんどり倒れながら、何とか着替えて二人の後を追いかけた。

 

手分けして近くを探してみたがミンシアの姿はどこにもなかった。

 

「ミンシア・・どうして。」

 

 ヴァイトが思わずぽつりとつぶやいた。

 

「昨日はみんなで助けに行くって言っていたのに。」

 

「とにかく私達も急いで出かける準備を!」

 

 ヴァイトの家に戻り、手早く準備を整えていると、エリオスが息を切らせて駆け込んできた。

 

「ミンシアが居なくなったって本当か!」

 

「ああ、探してみたがどこにもいない。」

 

「なんてことだ!」

 

 エリオスがチッと舌打ちをしながらうつむいて、ダンッ! と右足を踏み鳴らした。そして申し訳なさそうにこちらを見ながら口を開いた。

 

「人間を毛嫌いしている嫌人派の連中の姿が見当たらない。恐らく昨日の話を盗み聞きしていてミンシアのことを・・・すまない! 俺が目を光らせていれば!」

 

「え?」

 

「そんな・・・」

 

「今さらそんなことを言っても始まらない! エリオス、すぐに俺達も追いかけるぞ!」

 

 ヴァイトがエリオスの背中をバンと叩いて送り出す。

 

「本当にすまない! 用意が整い次第出発してくれ! こちらも整い次第、すぐに追いかける。」

 

そう言って深々と頭を下げてエリオスは駆け出していった。嫌人派の人たち・・・そんなに獣人族との溝は深いのか・・・。ヒューラとネルセンは人と獣人族の間の溝を、改めてまざまざと見せつけられる想いで一杯だった。

 

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【第二十二話】

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前回のあらすじ

ポントの咥えていた髪飾りを見て飛び出したヴァイト。ヴァイトを追って転移魔法で追いついたミンシア達。合流したミンシア達はマーラの行方を知るポントの後について、マーラを探しに行くことに。

 

 

 男が3人倒れている。すでに息はないようだ。

 

「こいつらは?」

 

「見るからにマーラを助けた・・・って感じはしないわね。」

 

 見た目で判断するのは良くないが、ボロボロの服といい。それに見合わない宝飾品といい。どう見ても盗賊の類だ。

 

「みんな一撃で倒されている。相手は相当の手練れだな。きっと。」

 

「金の腕輪や指輪がそのままという事は、仲間割れや物盗りでもなさそうね。」

 

 ヒューラが腕を組みながら、冷静に3人の男の亡骸を分析する。ヴァイトがサラリとその亡骸の様子を探っておもむろに立ち上がり周りの様子も見回す。そして、小屋の中を見るために扉をくぐって入って行った。3人もその後を追いかけた。

 小屋の中も荒らされた形跡はなく、変わった所と言えば、テーブルの上に置かれた紙きれにナイフが突き立てられていることだ。ネルセンが紙切れをのぞき込み読み上げる。

 

「女の身柄は預かった。生きて返してほしければ、ミンシアを一人で牙城山の木こり場まで来させろ。期限は明後日の蓮の刻までだ。・・・これって、どうするの!」

 

 ネルセンが顔を上げて、意見を求めるようにみんなの顔を何度も見回した。

 

「今すぐぶっ潰す!」

 

 バッと扉に向かって駆け出そうとするヴァイト。

 

「ちょっと待ってヴァイト!」

 

 今すぐにでも牙城山へ飛び出していきそうなヴァイトを、ミンシアが扉の前に立ちはだかって止めた。

 

「相手が何人いるか。どこの何者なのか。何もわから無いのに何の考えもなしに動くのは、相手の思うつぼよ。気持ちはわかるけど・・・ここは抑えて。」

 

 ヒューラが気持ちをなだめるようにヴァイトの肩に手を乗せた。

 

「チッ! そんなのわかってる!」

 

 ヒューラの手を避けるかのようにヴァイトは後ろを向いてテーブルに向かい、バンッ! と右拳でテーブルを殴った。その様子を眺めながら一つ頷くと、ミンシアは静かに、でも揺るぎない意志を込めて言い放った。

 

「僕が行くよ。」

 

「何言ってるの! あからさまな罠じゃない! 行かせられるわけないでしょ!」

 

 ミンシアの言葉にヒューラが激しく抗議した。

 

「俺も反対だな。ミンシアが行ったからって、相手がマーラを素直に返してくれる保証はどこにもないし。」

 

「だからって見殺しにはできないよ。」

 

「それはそうだけど・・・」

 

 ネルセンが言葉に詰まりつつも、ミンシアを心配そうな目で見つめる。その気配を察してミンシアが言葉を続けた。

 

「僕は大丈夫。大丈夫だから。もともと僕の問題だし・・・」

 

「ミンシア。」

 

 ヒューラが心配して近づいて来るのをミンシアが両手で押さえる。そして、ヒューラの両手を握りしめて。

 

「大丈夫だから。」

 

 と念を押した。

バンッ! ガタガタ! ゴロン!

 それまで黙って聞いていたヴァイトがテーブルを叩き上げた。

 

「オレも行く。マーラは俺の妹だからな。ミンシア、お守り代わりにもならんだろうが、これを持っていてほしい。」

 

 そう言ってヴァイトはマーラの髪飾りをミンシアに手渡した。ミンシアは無言でそれを受け取って小さく頷いた。

 

「ヴァイトが行くと余計ややこしくなるでし・・・」

 

「大丈夫だ。そのくらい俺にだってわかる。」

 

 ヴァイトはスーッと大きく息を吸って、フーッと思い切り吐いた。そして、両手でバシバシと顔を叩いて、ヒューラを真剣なまなざしで見つめて言った。

 

「俺を信じろ。」

 

ヒューラはヴァイトのまなざしを受け止めて、ふうと一つ息を吐いた。

 

「二人で行かせるわけにはいかないでしょ。結局みんなで行くことになるのよね。」

 

 そう言ってあきれ顔を見せながら、ミンシアに向かって両手を広げてみせた。

 

「作戦を練ろう!」

 

 ネルセンがヴァイトによってひっくり返されたテーブルを元に戻して、袋の中から地図を取り出して広げた。みんなでテーブルを囲み、お互いの顔を見合う。

 

「必ずマーラを救い出す!」

 

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【第21話】

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前回のあらすじ

マーラが戻ってこない事に異変を感じたヴァイトが探しに行くことに・・・。ポントの姿を見かけないネルセンも一緒に行くと言ったが、ヒューラがポントの存在に気がつく。怪我をしたポントをとりあえず治療に向かうヴァイトとネルセン。

 

 ヒューラが椅子に腰かけて本を読む中、ミンシアは椅子から立ち上がっては、ソワソワと辺りをうろつき周り、また椅子に座ったと思たら立ち上がり・・・を繰り返していた。

 

「よくそんなに落ち着いていられるね!」

 

「ミンシアはちょっと落ち着いた方がいいんじゃない?」

 

 ミンシアがドカッと椅子に腰を下ろす。そして、コツコツコツコツとつま先を鳴らす中、バーン! と扉を勢いよく開け放って、ネルセンと元気になったポントが飛び込んできた。

 

「わぁーっ!!!」

 

「びっくりするじゃない! ちょっとやめてよ!」

 

「ヴァイトが! はぁはぁ・・・ヴァイトが!」

 

「ヴァイトが何!」

 

 ミンシアが少しイラッとしながら聞き返す。ネルセンは少し息を整えながら口を開いた。

 

「マーラを探しに行くって・・・。」

 

「え? どういうこと?」

 

 ヒューラがいぶかしげな顔でネルセンを見つめる。ミンシアが悔しそうに顔をゆがめた。

 

「ポントが口にくわえていた髪飾りがマーラの物で、それを見たヴァイトが血相を変えて飛び出して行って!」

 

「どこに行ったの!」

 

 ミンシアがネルセンの肩をガクガク揺らしながら尋ねた。

 

「そんな事聞かれても・・・」

 

「とりあえず泉じゃないかしら?」

 

「ヒューラ! 泉まで転移!」

 

「わかってますって。みんな私に捕まって・・・って、ネルセンどこ触ってんの!」

 

「しょうがないだろ。」

 

「後で100回殺す! 行くよ! テレポーテス!」

 

 目の前が一瞬暗くなったと思ったら、森の泉へと着いていた。

 

「まだ、来てないみたい・・・ね。」

 

「そりゃあ、転移魔法に勝ったら、どんだけあいつ早いのよ! って話になるわよね。」

 

「その間に、何かマーラの痕跡を探せないかな?」

 

 手分けして探してみたが、それらしき痕跡は見当たらなかった。

 

「何か見つかったー?」

 

「何もー。」

 

「こっちも何もないや。」

 

「そもそも泉まで来たのかな?」

 

 激しく大地を踏み鳴らす音と共に、バサバサと草木を薙ぎ払う音がどんどん大きくなってきているのが、誰の耳にも聞こえて来た。

 

「ヴァイト・・・来たね。」

 

 ネルセンがはにかんだ笑顔を見せた。

 

「ヴァイト―!!」

 

ミンシアがありったけの声でヴァイトの名前を呼んだ。ガサガサと音がして茂みの中からヴァイトが姿を現した。

 

「お前ら・・・」

 

「魔法をなめんじゃないわよ!」

 

 ヒューラがフンと鼻を鳴らす。

 

「私達仲間でしょ? 一人で抱え込まないで。」

 

「そういうこと!」

 

 ミンシアとネルセンの言葉に、ヴァイトの心がじんわりと温かくなり、少し落ち着きを取り戻した。

 

「とりあえずここにはマーラは来てなさそうよ?」

 

「だとしたら、一体どこに?」

 

「でも、マーラも獣人族なんだし、いざとなったら・・・」

 

 そのミンシアの言葉にヴァイトの顔が曇って行くのが分かった。

 

「あいつは! マーラは・・・獣化できないんだよ。」

 

「え?」

 

「え・・・なんで?」

 

「両親を亡くしたショックか知らないが、家に来てからマーラが獣化した所を俺は見たことがない。」

 

「獣人族・・・なんだよね?」

 

「獣化できようができまいが、あいつは獣人族で・・・俺の大切な妹であることには変わりない。だから里からも出さずに大切に守ってきた・・・はずだったのに! クソッ!」

 

 ヴァイトが近くにあった大きな岩に拳を打ち付ける。

 

「ヴァイト・・・」

 

 キュー、キュー

 

「ポント。うるさいぞ。」

 

 ネルセンがいさめるが、ポントはキュー、キューと鳴いて、離れては近づいたりを繰り返している。

 

「ついて来い・・・と、そういうこと?」

 

「最後まで一緒に居たのはポントだ。ポントならマーラの居場所が分かるはず。今はポントを信じてついて行こう! マーラの居場所はどこだ? ポント!」

 

 勢いよく駆け出したポントの後を、ネルセンとミンシアを背負ったヴァイトが猛然と追いかける。ヒューラは浮遊魔法をかけてそのあと追いかけた。

 

 ガサガサ!

 

「うわっぷ! ちょっとヴァイト! もうちょっと枝! 避けれないかな!」

 

「自分らで何とかしろ。」

 

「ええ~。」

 

「ねえ、ヒューラ。僕達にもその浮遊魔法かけられない?」

 

「・・・今後のことを考えると、少しでも魔力は温存しておきたいのよね。」

 

「ソウダヨネー。」

 

 木々の間をすり抜けていくと、目の前にとても大きな木が姿を現した。

 

「これは・・・」

 

その隣をサッとポントがすり抜けていく。

 

「先を急ぎましょう!」

 

 見とれる暇もないまま、ポントの後を追いかけていく。すると一つの小屋が見えてきた。その手前でポントがちょこんと座っている。

 

「ここか?」

 

 用心深く小屋の方へと近づいていく。すると・・・。

 

最後までご覧いただきありがとうございます♪

 

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