珈琲とスイカ | 風の通り道

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主にエッセイを発表します

 

 この季節、一日一回は、氷のタンクに水を入れる。水出しの緑茶を飲むことが多くなり、家でコーヒーを淹れる回数は少なくなった。

 

 買い物の後、スタバに寄ったら、平日だというのに満席だった。そうだ、世間は今、お盆だ、ということを思い出す。

 仕方なく、近くのカフェに入った。運良く座れたが、すぐに席は埋まったので、タイミングが良かったと、胸をなでおろす。

 

 嫉妬、という感情を、最近は抱いていないことに気が付く。人間が丸くなったのではない。生活が安定し、昔みたいに何かを叶えたくて、何かが欲しくて、がむしゃらに何かをすることがなくなったからだ。

 自分よりも若いのに、自分が欲しいもの、欲しかったものを手にしている人は、たくさんいる。その人が自分から遠ければ、嫉妬はしない。近くにいたら、たぶん嫉妬する。

 

 昔、とあるダンススタジオにおいて、結婚したばかりのご主人が、一晩帰って来なかったという人がいた。

「結婚していていいなあっていう人がいるけれど、どんな人にも悩みはあるんだからさあ」

 そういって彼女は、足をバーに乗せ、ストレッチを始めた。

 何もかも手に入れて幸せに見える人は、確かに幸せかもしれないが、言っていないだけで、何か悩みを抱えているかもしれない。

 言っていない言葉、見せていない顔が、誰にでもある。

 そんな風に、自分を手なずけてはいるけれど、いろんな条件が重なったら、嫉妬してしまうのだろう。

 

 嫉妬して、黒い感情に飲み込まれてしまっても、そんな自分を許したい、と、今は思う。

 

 帰宅して、夫と二人でスイカを食べる。今年は特に、カットスイカのお世話になっている。おフランスの「カルマグの塩」を振りかけて、おいしいねと言って食べる。そんな時間を、うらやましいと思う人もいるだろうし、いないかもしれないとも思う。