『ぼくはあまり桜の花は好きではない』
『朝日にすかされたのを木の下から見ると
『何だか蛙の卵のような気がする』
『それにすぐ古くさい歌やなんかを
思い出すし』
『また歌など詠むのろのろしたような
昔の人をかんがえるからどうもいやだ』
『そんなことがなかったら僕はもっと
好きだったかも知れない』
『誰も桜が立派だなんて云わなかったら
『ぼくはきっと大声でそのきれいさを
叫んだかも知れない』
宮沢賢治 『或る農学生の日記』
「一千九百廿五年五月五日」
より
※写真は、まだ肌寒い奈良(東大寺、氷室神社)で
撮りました