再掲載:「ジェイムスブラウン、厚切りトーストバニラアイス乗せ、どうして16なの?」 | ハンサムブログ
過去にいくつかの3題小説を、皆様のご協力のもと書かせていただいたのですが、今、あらためて読み返して見て、自分なりに結構気に入っているのがコレです。
最後にお題をいただいたまま、未だ宿題を果たせずにいますが、今の自分に最も書けないであろうと思われるものが、こんな感じの馬鹿馬鹿しい小説です。
平和な未来を夢見つつ、リサイクル掲載いたします。
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お題を3つください#6「ジェイムスブラウン、厚切りトーストバニラアイス乗せ、どうして16なの?」



朝起きたらまず一番に、ゴワゴワと寝癖ったセミロングの髪をアイロンで無理やり伸ばしながら7:3に撫で付けガッチリ固める。
顔は洗わない。
自慢の歯を白く磨きあげたら、その大きく頑強な歯をむき出して、日に焼けた浅黒い顔を皮脂でぴかぴか光らせたまま鏡に向かってニッと笑いかけるのが一応の洗顔代わりだ。

仏壇の戸を開いて淹れたてのコーヒーを供え、16本の線香に火を点けて濛濛たる煙にむせ返りながらお題目を唱える。彼の地では十字を切って神に祈りを捧げ、ゴスペルを歌い踊るのが流儀なのだろうが、幼少の頃からおばあちゃんの隣で一緒に題目を唱え続けてきた俺には、やはりこのやり方が一番しっくりくる。

半斤の食パンをオーブンでカリカリに焼く。小鍋から大量の溶かしバターをかけてずしりと湿らせてから蜂蜜を無遠慮なまでにかける。とどめにバニラアイスを茶碗一杯ほども乗せたら、自家製厚切りトーストバニラアイスのせの出来上がりだ。
スカスカと頼りなく、食事と言うにはあまりにも軽すぎた食パンは、およそ16オンス程の高脂高糖高カロリーの塊に姿を変えた。
そのソウルフルな塊をバッファローナイフで正確に16分割し、舌をコーヒーで焼いたりアイスで冷やしたりしながら黙々とかつリズミカルに平らげる。
これがいつもの俺の朝食スタイル。

午後になれば更に、摂取した大量の乳脂肪が皮脂腺から滲み出し、俺の顔面を黒々とたぎらせることだろう。
やっぱり男はこうでなくちゃいけない。

出かける間際、今一度仏壇の遺影に向かい、拍手を16回打つ。神なんだか仏なんだか訳が分からんなどとは言ってくれるな。

仏壇の遺影の主は、もちろんジェイムスブラウン。

彼の音楽に出会い俺はとことんまでに打ちのめされた。
そのとき俺は、一度死んで生まれ変わったのだ。だから彼を俺のご先祖様として仏壇に祀っているのだ。そして同時に彼はファンクの帝王ファンクの神。だから拍手も打つ。これで理屈は間違っていないだろ?

タイトなスラックスにジャケットを羽織り、美容室へ出かける。
神と仏と崇めるジェイムスブラウンに一歩でも近づく為には、ソウルももちろん大切だが、外見だって決して疎かには出来ないのだ。
ピカピカに磨き上げられたシューズで、早足に街を行く。
行きつけの美容室で、数時間にも及ぶ格闘の末に、居酒屋の杉球のごとき見事なアフロが完成した。
美容師は今にも泣き出しそうな顔をしている。
このまま帰ってくれたら、私のポケットマネーで1万円進呈しますとさえ申し出てきたが、勿論これは却下した。また来ると一度美容院を出て、特盛牛丼を3個の生卵で流し込んだ後、また美容室へ舞い戻る。
今度はストレートパーマを施術する。美容師は本気の涙をぬぐいながら、出来立てのアフロを伸ばして行く。

掘った穴を埋めさせてまたそれを掘ってまた埋めてという、精神を破壊する一種の拷問が旧ナチスで行われていたと聞く。この美容師にとってはきっとそんな心境なのだろう。
だが、こうしなければ晩年のジェイムスブラウンの、あのヘアーの質感は再現できないのだ。
辛いだろうが、それが君の仕事なんだ。涙を堪えてがんばってくれたまえ。それがプロフェッショナルというものだろう?

アフロから無理やり引き伸ばされたセミロングの髪を7:3に分けて、またもやガッチリと固めたら、その足で依頼主の元へ急ぐ。

高級マンションの最上階、招き入れられた瞬間に、その部屋中は俺の獣じみた体臭で満たされているはずだ。体臭に更なるパンチを加える為に、麝香系の香水も抜かりなくまぶしてある。
今日も、金と暇と身体を持て余したマダムが依頼人だ。潤んだ目で俺を見つめるマダムだって、俺に負けず劣らず発情臭をプンプン放っているぜ。

そう、俺の職業はSex Machine。
Sexのプロフェッショナルだ。

ベッドの上にファンクビートを刻み、鋼の肉体でマダムを天国へ送り込むのが俺の仕事なのさ。
さあ日が傾くまで、たっぷりと時間はある。
プロフェッショナルの証明に、16回のヘブンを見せてやろう。いつものように。

ああ、分かってるよ、「どうして16なの?」って思ってるんだろ。
そう、みんなは俺に聞くぜ、「どうして16なの?」って。

そんなの決まってるじゃないか。

ジェイムスブラウンがその魂と肉体で築き上げたのは16ビートのファンク。
これだけで充分過ぎる理由になっているはずだろ。

Get Up! Get on it!