信濃譲二シリーズの長編第1作。学生バンドの合宿所、“長い家”での密室殺人。[???]

[ロック・バンド“メイプル・リーフ”のメンバー]
戸越伸夫:リード・ギター担当
山脇丈広:ベースギター担当
武喜朋:ギター/リード・ヴォーカル担当
三谷真梨子:キーボード担当
駒村俊二:ドラム担当
市之瀬徹:撮影担当
信濃譲二:前任ドラマー, 外国へ渡った

権上康樹:ゲミニー・ハウスのオーナー



もうすぐメンバーの大半は卒業し、学生バンド「メイプル・リーフ」は解散する。その最後のライヴに向けて、「ゲミニー・ハウス」で合宿を行うこととなった。「ゲミニー・ハウス」は上から見ると、カタカナの「コ」の底辺を長く伸ばしたような形状となっており、その長辺に長い廊下が伸び、奥に向かって突き当りと左手は窓のない壁で覆われている。そして右手には宿泊用の四人部屋が15あり、それぞれの扉が並んでいる。部屋番号には一般的に使われる数字ではなく、ギリシア文字が使われており、客にはわかりづらいと不評なのだが、それは天体観測を趣味とするオーナーに馴染み深いものであり、こだわりでもあるので、そこを変えるつもりはないとのことだった。

ホールに集まっていたメンバーたちのうち、戸越伸夫が眠気を訴え、早々に自室へと引き上げた。彼の部屋は廊下の最も奥にある、「ο(オミクロン)」の部屋だった。彼が部屋に入るのを市之瀬徹が確認している。ところが、深夜になり、麻雀をするために武喜朋が戸越を迎えに行くと、部屋の中に彼の姿がないという。そのときはどうせちょっと外にでも出てるのだろうと、皆は気にも留めなかった。しかしその後、隣の部屋の三谷真梨子が様子を確かめたところ、荷物もないことに気づき、訝しみ始める。

翌日、戸越を見掛けた者は居ないか、周辺地域を皆で手分けして尋ねて歩くが、収穫は路地で発見された彼のバッグだけ。しかし、「ゲミニー・ハウス」に戻ると、姿を消したはずの戸越は「ο」の部屋に戻ってきていたのだった。死体となって。

事件から数日が経ち、三谷にはどうしても気になって仕方ないことがあった。それは戸越が殺害された合宿のときの写真についてである。その2枚の写真は、彼女の自室に割り当てられた「ξ(クサイ)」の部屋で撮られたもので、どちらも窓を背に彼女が写っている。一枚は「ゲミニー・ハウス」に到着した直後のもので、もう一枚は戸越が姿を消した翌朝に撮られたものである。どう考えてもおかしいと、彼女はバンドのメンバーに相談してみることにした。

「メイプル・リーフ」のラスト・ライヴは、戸越の追悼ライヴともなった。しかし、そのライヴの最中に、またもや不可解な状況で、今度は三谷の死体が発見された。そして、それは「ゲミニー・ハウス」での事件の状況と妙に符合していた。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



歌野晶午のデビュー作。島田荘司のもとに最初に持ち込まれた段階では、すぐに仕掛けが露呈してしまい、島田のアドヴァイスによって、その後かなり工夫したらしいが、それでもバレバレという気がする。あるいはそれは、僕が最近こんな傾向のものを多く固め読みして、見方が偏ってしまったせいなのかも知れないw

プロローグはちょっとやりすぎじゃないかなぁ。明らかに誘導しようとしてるのを感じてしまう。戸越の自作曲の意味は最後までわからなかったが(暗号解読は苦手なので、手をつけないことすら多いです…)、戸越を消したトリックは事件が起きる前から想定してた。そうなると、第二の殺人事件はもう蛇足とも思えた。何せ、細部以外はまったく同一トリックなので。それでも、解決編でもう一捻りあるかと期待したんだけど…少々残念。部屋の鍵については、計画外の事態になってからの運びがあまりにも出来すぎ。そもそも消失トリックによる犯人にとってのメリットが疑わしい。別の所に隠しておいた死体を、機を見て「ο」の部屋に戻すことも充分可能と思うのだが、そうであるならばアリバイすら成立しないし。第二の事件では、現場の状況と第一発見者の行動を照らし合わせたら、警察もすぐにタネに気付きそうなものだ。

…と、まあ、なんか腐すようなことばかり書いてるが、はっきりさせておきたいのは、僕はこういう作品が好きだということだ。手がかりがまったく掴めないような作品なんてのは、作者の書き方がアンフェアなせいと思うことにしていますw

やっぱこういう「消失/出現」みたいな、中心となる大きな謎があるのは良いね。何の変哲もなく、変わった点は何もない平凡な事件じゃつまらない。このブログでもそういうのをいくつか扱ってるけど、それらはここに書いとかなきゃ、後で大筋を思い出すこともできないだろうw
修道士カドフェル・シリーズの第2作。処刑された死体に隠された正体不明の死体。[??]

カドフェル:修道士
ヘリバート:修道院長
ロバート:副修道院長
スティーブン王:イングランドの玉位僣称者
女帝モード:スティーヴンの敵
フィッツ=アラン:女帝モードの支持者
ファルク・エイドニー:同
ゴディス:ファルクの娘
アライン・サイウォード:貴族の娘
ヒュー・ベリンガー:ゴディスの婚約者
プレストコート:スティーブンの副官
アダム・コーセル:スティーブンの衛兵長
テン・ヘイト:スティーブンの傭兵隊長
トロルド・プラント:フィッツ=アランの従者
エドリック・フレッシャー:肉屋の主人
ペトロニーラ:エドリックの妻
オズバーン:乞食



時は12世紀のイングランド。王位継承を巡っての戦乱にあっては、シュルーズベリ修道院もその火の粉から無縁ではいられなかった。この地の執政官たるフィッツ=アランはモード女帝支持を打ち出しており、今やシュルーズベリに迫るスティーブン王とは完全に敵対していた。そしてついに城が戦場となり、王が勝利を得たが、フィッツ=アランとその家臣エイドニーの所在は知れなかった。王は、敵方の重要な三名のうち、ヘスディン一人のみを捕らえることしかできなかった。ヘスディンは貴族として相応しい扱いを王に求めたものの、それが無理とわかると、潔く己の命への執着を捨て、そしてそれ以上のものを王に与えることを拒んだ。ヘスディンの口から得られたものは、フィッツ=アランとエイドニーは城が陥落するまで勇猛に戦い抜き、そしてからくも脱出に成功したという事実のみであった。そしてそれは王を悔しがらせる以外の何物でもないのである。ヘスディンと、他の捕虜たち、94名は処刑された。

助手が不足しているカドフェル修道士のところへ、ゴドリックという少年が連れられてきた。おそらくは王と女帝、どちらかの陣営に取られることを避けようと、新たに修道院に入ったばかりの者であろう。ゴドリックが修道院に入ってすぐにカドフェルのもとに送られてきたのはとても幸運だった。カドフェルにとってはそれは自明の理だったが、他の者に対してもそれを暴露するのは時間の問題だったであろう。ゴドリックは少年ではなく、少女だった。

ゴドリックの本名はゴディス。フィッツ=アランの重臣エイドニーの娘である。もし王が彼女を確保できれば、エイドニーに対しての――少なくとも持っていて損はない――武器となる。彼女がまだ脱出できずに街に隠れているらしいという情報は王も掴んでおり、いずれ捜索も考えられる情勢ではあるが、女人が居るはずもない修道院に、少年に扮して潜むというのは悪くないアイデアである。

処刑された者たちを埋葬することになり、カドフェルは城へと赴いた。仕事に対する献身さと慎重さを持ち合わせた彼は、どの死体もいいかげんに扱ったりはしない。そしてあるいは処刑の不手際で生き残っている者もいるかも知れないと、溝の中に乱雑に積み重ねられた死体を、一つ一つ丁寧に検めつつ取り出し、庭に並べていく。残念ながら生存者は居なかったが、おかしなことに気づいた。処刑されたのは94名のはずなのに、死体は95体だった。

王の副官・プレストコートには、死体が94だろうが95だろうが、気にすべき問題とは思えなかった。あんなに多数なら、士官が数え間違うことだってあろう。しかし、死体のうち、たった一つだけには処刑とは明らかに異なる痕跡が残っていた。それをカドフェルによって認めさせられると、決して不公正ではない彼は、この死体の身元をはっきりさせたいカドフェルに協力した。

アライン・サイウォードはその身を王に預けることを決めたが、兄・ジャイルズは女帝に忠誠を誓っていた。兄と妹で立場が別れてしまったとはいえ、兄は兄である。処刑された死体の中にもしやその姿があるのではないかと、心配するのも仕方ないことであった。不審な死体もあるので、その身元を確かめるためにも、城の庭に並べられた死体を街の者は自由に検めて良いと触れが出されたので、さっそく彼女は城を訪れた。不審な死体はジャイルズではなかったが、処刑された死体の中に兄の姿を見つかった。道を分かったときから覚悟はしていたとはいえ、やはりその衝撃は大きかった。

いつものように修道院で過ごすゴディスは緊張を覚えた。一瞬、自分のほうを見た男に見覚えがあったからである。それはヒュー・ベリンガー。今ではどれだけの意味があるのかわからぬとも、形式的には彼女の婚約者である。彼は特に反応を見せなかった。最後に顔を合わせたのはなにぶん幼き日ゆえ、おそらくこちらに気づかなかったのであろう。しかしその話を彼女から聞いたカドフェルは、ますます油断ならない事態になったと感じ取っていた。

負傷した男が川に流れ着いた。トロルドという名のその男を、とりあえず匿ったカドフェルとゴディスは、彼から驚くべき話を聞かされる。彼はニコラスという相棒とともに、フィッツ=アランの財宝を密かに女帝のもとへと運ぶ任務に当たっていたが、夜の闇に紛れた暗殺者に襲撃され、ニコラスは殺害されてしまった。トロルドもまた命を落とす寸前だったが、なんとかその殺害者に一撃を与え、倒した隙に、相手を確かめることもなく、とにかくその場を逃れたという。

カドフェルは、時間ができるとすぐにその現場へと向かった。トロルドの話を裏付ける痕跡を確認した彼は、犯人の短剣の一部だったと思われるトパーズも発見する。城の不審な死体の主がニコラスであることはもうわかっていた。犯人はニコラスたちが財宝を運んでいることを知り、それを奪うために彼らを襲撃する計画を立てた。しかし死体を残しておくと、その襲撃の理由を詮索され、財宝の存在が知られてしまうかも知れない。もしそうなったら、財宝を密かに自身のものとしておくことが難しくなる。だから木を隠すなら森の中とばかりに、処刑された大勢の死体の中に紛れ込ませてしまうつもりだったのだ。カドフェルでなければ、死体の数を細かくチェックしたり、その異状について徹底的に調べたりはしなかったであろう。

カドフェルはもちろん気づいていた。ベリンガーは明らかにカドフェルを好敵手と認め、ゲームを仕掛けていた。彼はゴディスに気づいており、財宝を狙っていることは間違いない。しかし殺人犯が彼なのかどうか、そこが判然としなかった。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



王位継承を巡っての戦乱、冷徹であっても誇りや公正さを重んじる王や貴族たち、そして決闘まで行われるという、中世英欧風味たっぷりな作品。男装の麗人・ゴディスや、その立場がはっきりせぬまま怪しい動きを見せるベリンガーという、狙いすましたかのような登場人物。ゴディスの正体がトロルドにバレてしまうお約束展開はサービスサービス(?)。殺人事件とはまた切り離された部分で、ベリンガーとカドフェルの対決が行われるが、ここもハイライトのひとつだろう。

結局最後は、都合良く目撃者の存在によって犯人を追い詰めることになるのだが、事件の真相を指し示す伏線は、序盤から書かれている。推理する材料というよりは、推論を補強する材料というほうが近いのだがw

処刑場面。アラインが死体をジャイルズと認めた際の衝撃。
修道士カドフェルシリーズの第1作。聖女の遺骨探しに絡む殺人。[?]

カドフェル:修道士
ヘリバート:修道院長
ロバート:副修道院長
リチャード:副院長補佐
ジェローム:副院長書記
コロンバヌス:修道士
ジョン:見習い修道士
ヒウ:グウィネズ村の司祭
リシャート:村の地主
シオネッド:リシヤートの娘
アネスト:シオネッドの侍女, ベネッドの姪
カドワロン:村の地主
ペレドゥア:カドワロンの息子
カイ:リシャートの鋤男
エンゲラード:リシャートの牛飼い
ベネッド:鍛冶屋
パドリッグ:吟遊詩人



ここは12世紀の英国。シュルーズベリ修道院のロバート副修道院長にとって、聖遺物がないというのはとても歯がゆいことだった。しかも近隣の修道院、それもこちらよりも小さな修道院が、新たな聖人の遺骨を発見し、それを自らの祭壇に祀ることに成功したとなれば、誇り高く、野心的な彼にとって、それは耐え難い屈辱ですらあるのだった。そんなときにコロンバヌス修道士が啓示を得たとなれば、ロバートが飛びつかぬはずがない。コロンバヌスの夢に現れたという、聖ウィニフレッドの遺骨を得るために、ロバート率いる一行は、さっそくウェールズへと向かった。

カドフェル修道士はそのような話を真に受けてはいなかった。すべてがあまりにも出来過ぎた話で、おそらく事前にロバートやその意を受けた者が、条件に合った遺骨を探し出しており、それを当修道院に持ち帰るに相応しいストーリーを作ったのだろう。ともかくカドフェルもこの一行に加わった。こんな劇的な企みを見物する機会を、あえて逃さなくてもいいだろう。

さすがに下調べはしてあったのだろうか、ウィニフレッドの遺骨をシュルーズベリ修道院に移すことについて、その地を統治する王や司教の了承は簡単に得られた。しかしその遺骨が眠る土地、グウィセリンでは、当然のことながら、教区民たちは地元の聖女の遺骨を持ち去られることを心良くは思わなかった。さらに、王と司教の了承を得ている以上は、教区民の意向などまったく無視すべきものと考える、ロバートの傲岸な態度もまた大きな反発を招いた。劣勢を悟ったロバートは、重要なのは大地主のリシャートの意向とすばやく見抜き、彼一人との面会に持ち込むことに成功するも、その賢明さはここまでだった。愚かにも金銭をテーブルに持ち出した結果、リシャートを説得する機会を失ったのである。だが、リシャートは寛大な男であった。ロバートの謝罪(少なくともリシャートはそう思っていた)を受け入れると、翌日に再び面会する約束をしたのだ。

翌日、約束の時刻を過ぎてもリシャートは現れなかった。ロバートはそれでも構わなかった。リシャートは逃亡し、敗北を受け入れたのだろうと解釈し、それに疑念を挟むことなどない人物がロバートなのである。もちろん、事実は違っていた。リシャートは森の小道で、胸に矢が刺さった状態で倒れていた。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



TVドラマシリーズとして映像化もされた、人気シリーズ「修道士カドフェル」の第一作。作者は英国人で、本名であるイーディス・パージター名義での歴史小説も書いており、また、チェコ語の翻訳家としても著名らしい。

主人公であるカドフェル修道士は、若き日には十字軍に参加するなど、波乱に満ちた人生を送ったが、その後、引退生活として修道士の道を選んだ人物。薬草を育てる穏やかな生活に満足している。

物語は謎解きよりもストーリー重視。最後は自白頼みだし、結局は決定的な証拠は握れない。被害者に矢が刺さってしたことや、その周囲に不自然な乾燥状態が見られることは、まったくストーリー的な部分であって、それが犯人に結びつきはしない。

ミステリの軸となっているのは、ある人物に弱みを作り、それが勝手にアリバイを作ってくれるトリックに関する部分だろうか。

ストーリーテリングはさすがというもので、立場の異なる登場人物が、皆(ある意味、犯人も含めて)それぞれの幸福を得る結末も心地良い。