修道士カドフェル・シリーズの第2作。処刑された死体に隠された正体不明の死体。[??]

カドフェル:修道士
ヘリバート:修道院長
ロバート:副修道院長
スティーブン王:イングランドの玉位僣称者
女帝モード:スティーヴンの敵
フィッツ=アラン:女帝モードの支持者
ファルク・エイドニー:同
ゴディス:ファルクの娘
アライン・サイウォード:貴族の娘
ヒュー・ベリンガー:ゴディスの婚約者
プレストコート:スティーブンの副官
アダム・コーセル:スティーブンの衛兵長
テン・ヘイト:スティーブンの傭兵隊長
トロルド・プラント:フィッツ=アランの従者
エドリック・フレッシャー:肉屋の主人
ペトロニーラ:エドリックの妻
オズバーン:乞食



時は12世紀のイングランド。王位継承を巡っての戦乱にあっては、シュルーズベリ修道院もその火の粉から無縁ではいられなかった。この地の執政官たるフィッツ=アランはモード女帝支持を打ち出しており、今やシュルーズベリに迫るスティーブン王とは完全に敵対していた。そしてついに城が戦場となり、王が勝利を得たが、フィッツ=アランとその家臣エイドニーの所在は知れなかった。王は、敵方の重要な三名のうち、ヘスディン一人のみを捕らえることしかできなかった。ヘスディンは貴族として相応しい扱いを王に求めたものの、それが無理とわかると、潔く己の命への執着を捨て、そしてそれ以上のものを王に与えることを拒んだ。ヘスディンの口から得られたものは、フィッツ=アランとエイドニーは城が陥落するまで勇猛に戦い抜き、そしてからくも脱出に成功したという事実のみであった。そしてそれは王を悔しがらせる以外の何物でもないのである。ヘスディンと、他の捕虜たち、94名は処刑された。

助手が不足しているカドフェル修道士のところへ、ゴドリックという少年が連れられてきた。おそらくは王と女帝、どちらかの陣営に取られることを避けようと、新たに修道院に入ったばかりの者であろう。ゴドリックが修道院に入ってすぐにカドフェルのもとに送られてきたのはとても幸運だった。カドフェルにとってはそれは自明の理だったが、他の者に対してもそれを暴露するのは時間の問題だったであろう。ゴドリックは少年ではなく、少女だった。

ゴドリックの本名はゴディス。フィッツ=アランの重臣エイドニーの娘である。もし王が彼女を確保できれば、エイドニーに対しての――少なくとも持っていて損はない――武器となる。彼女がまだ脱出できずに街に隠れているらしいという情報は王も掴んでおり、いずれ捜索も考えられる情勢ではあるが、女人が居るはずもない修道院に、少年に扮して潜むというのは悪くないアイデアである。

処刑された者たちを埋葬することになり、カドフェルは城へと赴いた。仕事に対する献身さと慎重さを持ち合わせた彼は、どの死体もいいかげんに扱ったりはしない。そしてあるいは処刑の不手際で生き残っている者もいるかも知れないと、溝の中に乱雑に積み重ねられた死体を、一つ一つ丁寧に検めつつ取り出し、庭に並べていく。残念ながら生存者は居なかったが、おかしなことに気づいた。処刑されたのは94名のはずなのに、死体は95体だった。

王の副官・プレストコートには、死体が94だろうが95だろうが、気にすべき問題とは思えなかった。あんなに多数なら、士官が数え間違うことだってあろう。しかし、死体のうち、たった一つだけには処刑とは明らかに異なる痕跡が残っていた。それをカドフェルによって認めさせられると、決して不公正ではない彼は、この死体の身元をはっきりさせたいカドフェルに協力した。

アライン・サイウォードはその身を王に預けることを決めたが、兄・ジャイルズは女帝に忠誠を誓っていた。兄と妹で立場が別れてしまったとはいえ、兄は兄である。処刑された死体の中にもしやその姿があるのではないかと、心配するのも仕方ないことであった。不審な死体もあるので、その身元を確かめるためにも、城の庭に並べられた死体を街の者は自由に検めて良いと触れが出されたので、さっそく彼女は城を訪れた。不審な死体はジャイルズではなかったが、処刑された死体の中に兄の姿を見つかった。道を分かったときから覚悟はしていたとはいえ、やはりその衝撃は大きかった。

いつものように修道院で過ごすゴディスは緊張を覚えた。一瞬、自分のほうを見た男に見覚えがあったからである。それはヒュー・ベリンガー。今ではどれだけの意味があるのかわからぬとも、形式的には彼女の婚約者である。彼は特に反応を見せなかった。最後に顔を合わせたのはなにぶん幼き日ゆえ、おそらくこちらに気づかなかったのであろう。しかしその話を彼女から聞いたカドフェルは、ますます油断ならない事態になったと感じ取っていた。

負傷した男が川に流れ着いた。トロルドという名のその男を、とりあえず匿ったカドフェルとゴディスは、彼から驚くべき話を聞かされる。彼はニコラスという相棒とともに、フィッツ=アランの財宝を密かに女帝のもとへと運ぶ任務に当たっていたが、夜の闇に紛れた暗殺者に襲撃され、ニコラスは殺害されてしまった。トロルドもまた命を落とす寸前だったが、なんとかその殺害者に一撃を与え、倒した隙に、相手を確かめることもなく、とにかくその場を逃れたという。

カドフェルは、時間ができるとすぐにその現場へと向かった。トロルドの話を裏付ける痕跡を確認した彼は、犯人の短剣の一部だったと思われるトパーズも発見する。城の不審な死体の主がニコラスであることはもうわかっていた。犯人はニコラスたちが財宝を運んでいることを知り、それを奪うために彼らを襲撃する計画を立てた。しかし死体を残しておくと、その襲撃の理由を詮索され、財宝の存在が知られてしまうかも知れない。もしそうなったら、財宝を密かに自身のものとしておくことが難しくなる。だから木を隠すなら森の中とばかりに、処刑された大勢の死体の中に紛れ込ませてしまうつもりだったのだ。カドフェルでなければ、死体の数を細かくチェックしたり、その異状について徹底的に調べたりはしなかったであろう。

カドフェルはもちろん気づいていた。ベリンガーは明らかにカドフェルを好敵手と認め、ゲームを仕掛けていた。彼はゴディスに気づいており、財宝を狙っていることは間違いない。しかし殺人犯が彼なのかどうか、そこが判然としなかった。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



王位継承を巡っての戦乱、冷徹であっても誇りや公正さを重んじる王や貴族たち、そして決闘まで行われるという、中世英欧風味たっぷりな作品。男装の麗人・ゴディスや、その立場がはっきりせぬまま怪しい動きを見せるベリンガーという、狙いすましたかのような登場人物。ゴディスの正体がトロルドにバレてしまうお約束展開はサービスサービス(?)。殺人事件とはまた切り離された部分で、ベリンガーとカドフェルの対決が行われるが、ここもハイライトのひとつだろう。

結局最後は、都合良く目撃者の存在によって犯人を追い詰めることになるのだが、事件の真相を指し示す伏線は、序盤から書かれている。推理する材料というよりは、推論を補強する材料というほうが近いのだがw

処刑場面。アラインが死体をジャイルズと認めた際の衝撃。