ヘンリー・メルヴェール卿シリーズの長編第6作。バーウィック・テラスの家に十客のティーカップが現れると書かれて奇妙な手紙。かつて同様の手紙が警察に届き、その指定先で死体が発見されたことがあったため、今回は警察は指定された家を外から見張らせ、内部にも警官を忍び込ませた。その家の一室に一人の男が入り、銃撃されて死んだ。部屋の扉と、外部へ唯一開いた窓は警官が見張っていた。被害者は至近距離から狙撃されたと断定されたが、室内にはほかに誰もおらず、逃亡する者も目撃されなかった。[???]

ヴァンス・キーティング:冒険好きの金持ちの青年
フィリップ・キーティング:その従兄弟, 株式仲買人
フランシス・ゲール:女性ゴルファー, ヴァンスの恋人
ロナルド(ロン)・ガードナー:ヴァンスの親友
アルフレッド・エドワード・バートレット:ヴァンスの従者
ホーキンズ:ヴァンスの給仕
ジェレミー(ジェム)・ダーウェント:バーウィック・テラスの前の住人, 老弁護士
ジャネット・ダーウェント:美貌のその妻
ベンジャミン・ソア:父親の跡を継いだ美術商
ウィリアム・モリス・ダートリー:ペンドラゴン・ガーデンズの住人, 最初の被害者

アラベラ:ダーウェント家の女中
アリス・バークハート:ジャネットの未婚の叔母
ラヴィニア・バークハート:同

ヘンリ・メルヴェール卿(H・M):イギリス政府高官, 犯罪捜査の天才
フォリオット:H・Mの秘書, “ロリポップ”

ハンフリー・マスターズ:ロンドン警視庁主席警部
ボブ・ポラード:部長刑事
コトリル:L分署の警部
ホリス:L分署の巡査部長
ポーター:警官
ライト:私服刑事
バンクス:巡査部長
ミッチェル:巡査
サグデン:警官
マカリスター:指紋係
ブレーン:警察医



「午後5時、バーウィック・テラスの4番地に十客のティーカップが出現するでしょう」

その手紙はポラード部長刑事にとっては、笑い飛ばす類のものだった。ところが、それを見たマスターズ警部の反応は違った。彼は真剣な表情を浮かべており、その緊張感は、決してそれが笑い事ではないと告げていた。

それがなぜなのか、さっぱりわからないポラードにマスターズは説明した。以前にも同様の手紙が届いたことがあり、そのときには指定された家で他殺体が発見されたのだと。そしてそこには十客のティーカップが並んでいた。

その事件の被害者には、特に恨みを持つ人物も見当たらず、現場には高価なティーカップが残されたままになっており、金銭的な目的とも考えづらい。捜査は行き詰まり、未解決のままになっていた。

以前の轍は踏まぬとばかり、マスターズはさっそく動いた。指定されたバーウィック・テラスの家の周囲に警官を配置し、ポラードを家の中に忍び込ませた。人の出入りを完全に監視し、もし何かがあればすぐに対応する構えである。


問題の家は空き家となっていたが、すでに新たな家具が運び込まれていた。そこに大きめの帽子を被った一人の男がやって来た。裕福な青年のヴァンス・キーティングだった。彼は屋根裏の一室の鍵を開け、中に入った。それからしばらくして、2発の銃声が響いた。

屋根裏の別の部屋に潜み、キーティングが入った部屋を外から監視していたポラードはすぐにそこに飛び込んだ。室内には、至近距離から2発の銃弾を後頭部と背中に受けたキーティングの死体があった。ほかには誰もいなかった。通りに面した窓が開け放たれていた。ここは地上から13メートルの高さにある部屋だが、殺人者が逃げるとすればそこしかない。ポラードは外にいる同僚に向かって叫んだ。

「犯人は窓から逃げた!」

ところが、窓の外から見張っていたホリス巡査部長は言った。

「そこからは誰も出なかった」


※以下反転表示部のネタバレ注意。



遠距離からの射殺を至近距離からのものとして偽装するというトリックに極めて高い比重が置かれており、たまたま即座に読者が真相に感づいたら目も当てられない、結構危険なバランスの上に立っている作品だろう。

とは言え、作者はそのトリックを成立させるために、かなり特殊な状況を作り出しており、それが判明しない序盤では簡単には気づかせないようになっている。


作品の出来もなかなかだが、もう一つ印象的なのが解決編の作り。H・Mが手掛かりを細かく指摘(作中では該当するページの数字が記載されている)しながら説明し、読者が彼の推理の道筋を辿れるようになっている。綺麗にまとめられているため、カーの手掛かりの出し方も理解しやすく、ミステリを作者との対決として捉える読者にとっては、以後の対戦においても大きな武器となるだろう。もちろん、そうではない、作者に喜んで騙される“善良な”読者にとっても楽しい読み物となっている。

終盤での新たな死体の登場もサービス満点。カーが敬愛するチェスタトンを彷彿させる隠し方が微笑ましいw


十客のティーカップがその存在をほのめかす秘密結社という設定がまったくと言っていいほどに機能していないが、カー作品のオカルティックな設定は、大抵は形ばかりの妙に軽いものなので、今さら大した減点材料にはなるまいw

しかし後頭部に焼け焦げがあるだけで、警察の調査を経ても至近距離からの狙撃と見做されるのかなぁ?とは思う。前日に受けた傷を判別したり、おかしな点は発見できないのだろうか。それはともかく、狙撃手の腕が素晴らしいw



[1 孔雀の羽根](8) 午後5時ちょうどにバーウィック・テラスの家で、十客のティーカップが出現するという予告状が警察に届く。一見ちょっとした冗談のような手紙だが、マスターズ主席警部は鋭く反応した。2年前にも、指定の場所こそペンドラゴン・ガーデンズだったものの、同様の手紙が届いていた。そのときには、至近距離から銃撃された死体がその部屋の中で発見されたのだった。そこには壊れたものも含め、十客のティーカップが並んでいた。被害者はダートリーという名の裕福な男だった。殺人者は彼を罠に掛けて呼び出したのであろうと思われるが、目的がまったくわからない。並べられたティーカップは高級品で、ダートリーの所有物であるが、それすら盗まれておらず、金銭的な目的とは考えづらい。それどころか、犯人はこの部屋を準備するために大枚をはたいているのだ。かと言って、彼にはこれという敵も見当たらず、怨恨の線も薄い。この事件はすべてが謎で、糸口すら掴めぬまま、未解決となっていた。マスターズはすぐにH・Mに手紙を見せた。
[2 警察官の任務](22) バーウィック・テラスの家には家具が運び込まれていることがわかった。ペンドラゴン・ガーデンズの事件の再現はさせまいと、家の周囲に2名の警官を張り付かせ、さらにポラード部長刑事も派遣された。【バーウィック・テラスには幅20メートルほどの通りの両側に家が並び、窓や扉が向かい合っている。問題の家の向かいの家にはホリスが張り込んでいるが、その窓には埃が積もり、中はよく見えない】
[3 殺人者の予告](36) ポラードは購入するために家を見るふりをして中に入ろうとしたが、金持ちの青年のキーティングはその場で契約をまとめて家を購入してしまい、閉め出されてしまった。そこでポラードは家の中に忍び込むことにした。隠れ潜んでいると、キーティングが家を出たので、その隙に各部屋を調べた。屋根裏部屋の一つは施錠されていた。しばらくすると、キーティングが帰って来たので、ポラードは空っぽの部屋の一つに隠れた。扉の隙間から、施錠された部屋が見える場所だ。キーティングがやって来た。彼は鍵を開け、例の部屋の中に入り、扉を閉めた。その動作は素早かったが、その間にポラードは室内にティーカップが並んでいるのを見た。キーティングが部屋に入る際、彼が帽子を脱いだのもポラードの目に留まった。そのとき時刻は午後4時15分。ポラードは扉を見張り続けた。そして午後5時となった。キーティングの悲鳴と銃声が聞こえた。二発目の銃声が聞こえて、すぐにポラードは走り出した。硝煙の匂いをはっきりと感じた。キーティングがいる部屋の扉を開け、中に入った。十客のティーカップのうち、二つが砕けていた。キーティングは後頭部と背中に銃弾を受け、死んでいた。拳銃が落ちていた。室内にはほかに誰もいない。窓が開いていた。通りは13メートルも下だが、殺人犯が逃げるとしたらここしかない。犯人は窓から逃げたぞと、ポラードは叫んだ。ところが家の周囲を見張っていたホリス巡査部長は言った。「その窓からは誰も出なかった」【バーウィック・テラスの家を訪れた際、キーティングは頭をすっぽりと隠す大きな帽子を被っていた。1発目の銃声は2発目よりも不明瞭な音。天気は荒れ模様で外は暗くなっていた。キーティングは左脇を下にして、頭を扉のほうへ向け、身を伸ばして倒れていた。彼の背中側のほうの床に拳銃が落ちていた】
[4 弁護士の旧居](49) 警察医により、キーティングは至近距離から撃たれたと断定される。部屋にあった帽子には、彼の従兄弟のフィリップ・キーティングの名前が記されている。キーティングが単に取り間違えたのか、何らかの理由で彼はそれを被ってこの家に戻って来たらしい。死体の下から「J・D」の頭文字入のシガレットケースが見つかる。ジェレミー・ダーウェントという人物は、ペンドラゴン・ガーデンズ、バーウィック・テラス、どちらの家にも住んでいたことがある。【拳銃の重量は軽め。すり減って黒っぽくなっている。もし狙撃が遠距離からのものだったなら、開いた窓から簡単に行えた】
[5 死人の目](62) 殺される前のキーティングの行動、殺されたときの様子について検討。割れたティーカップは飛び散っているわけでもなく、重い物が上に乗ったような印象。キーティングが倒れた際に押し潰したのか? 室内に運び込まれた調度品は高級品ばかりだが、ティーカップは安売り店のありふれた品。
[6 拳銃をめぐる六人](75) キーティングの婚約者のゲールがやって来た。キーティングとガードナーとの間に何らかのいさかいがあったらしい。キーティング殺害に使用されたらしき拳銃は、ガードナーの所有品。パーティーの際の“殺人ゲーム”に使用され、出席者の誰かが持ち去った可能性もある。出席者はガードナー、キーティング、フィリップ、ゲール、美術商のソア、弁護士のダーウェント、彼の妻のジャネットの7名の予定だったが、キーティングは出席を取り止め、ジャネットは出席してすぐに引き上げた。ゲールは明らかにジャネットに反感を抱いている。事件の少し前にバーウィック・テラス付近でゲールとその車が目撃されているが、彼女はその一切を否定。
[7 レディ用箱型自動車](93) マスターズはジャネットの車に同乗して立ち去り、H・Mとポラードはダーウェントを訪ねた。ジャネットは殺人現場の遺留物のシガレットケースが自分のものであると認めた。ダーウェントはキーティングの遺言書について語った。それによると、彼の遺産はジャネットに渡ることになっているという。
[8 蛾がとまらない男](109) ダーウェントはジャネットとキーティングとの関係は知っていた。ダーウェントは金遣いの荒いジャネットとの婚姻関係に少々嫌気が差しており、もしジャネットがキーティングとの結婚の約束を取り付ければ、ダーウェント夫妻は円満に別れられると考えていた。【ジャネットの旅行は2週間も前から計画されていたもので、アリバイとしては固い】
[9 株式仲買人の良心](124) H・Mのもとにフィリップが訪れた。フィリップはキーティングとガードナーの喧嘩について語った。その際、キーティングは例の拳銃を手に取り、発砲までした。それは家具を壊す程度で済んだ。フィリップによると、キーティングは火器を恐れているが、それを隠しているらしい。その拳銃はガードナーが持ち帰ったという。【バーウィック・テラスの家に運び込まれた家具はどれもあまり重くはなさそう。キーティングの背中の銃弾は下方から斜め上方へ向けて撃ち込まれていた。キーティング殺害現場の部屋の窓は縦1.3メートル、横1.65メートルの大きさ。キーティングは火器を恐れ、それを他人に知られることを恐れている。フィリップは発砲の音を聞いただけで、その瞬間を目撃してはいない。バートレットも同様。その室内は薄暗かった。ガードナーはクリケットが上手かった】
[10 じゅうたんの焼け跡](138) マスターズはジャネットと彼女の叔母たちとの会談結果をH・Mに報告した。ジャネットのアリバイを確認し、シガレットケースは彼女からキーティングの手に渡ったものだと、彼女から聞いた。シガレットケースに残された女の指紋は彼女のものではない。マスターズはH・Mも知らぬ事実を一つ気づいていた。殺人現場の部屋の天井からガス管が出ており、それはちょうど拳銃の銃口と同じくらいの太さだった。そこには鉛が詰め込まれていたが、その真下の絨毯に火薬による焦げ跡があった。【絨毯の焦げ跡】
[11 持ち主のない帽子](151) ゲールはシガレットケースの指紋が自分のものであろうと認めた。フィリップを追及すると、拳銃をガードナーが持ち去ったとは断定できなくなった。殺人現場にあった帽子は自分のものではないとフィリップは言う。キーティングがその帽子を被っていたのはわかっているのだから、それは殺人犯の遺留品とは思われず、フィリップが嘘をついてそれを否定する理由は見当たらない。【シガレットケースは鏡代わりになるほどにぴかぴかしたもの】
[12 従者の災難](168) ガードナーがキーティングとの喧嘩について説明する。彼らは“殺人ゲーム”のリハーサルをしていただけであり、銃が暴発しただけなのだと。キーティングは終始上機嫌だった。なぜ彼がパーティー出席を取り止めたのか不明。【ガードナーの拳銃の引き金は軽く触れただけで作動するほどに敏感。“殺人ゲーム”のリハーサルをフィリップが見ていたと知ったとき、ガードナーはそれについて彼に問い返した】
[13 金襴のテーブル掛け](185) ソアを尋問。犯行現場にあったテーブル掛けはソアが売ったもの。キーティングを名乗る人物からの注文で、ジャネットに送った。ソアがキーティングに確認してみると、キーティングは注文したことを否定したが、ジャネットへの贈り物を取り消すのも嫌だということで、そのまま彼女のもとへ送ることになった。【ソアはガードナーに対してやや反感を持っている。ジャネットへの贈り物について、ソアが彼女に話しかけたとき、奇妙な雰囲気になった。ガードナーには異国の奇妙な風習などについて書いた著作があることをソアが指摘】
[14 この章には、重要な記録が読者の前に提供される](203) バートレットの証言。キーティングが殺された水曜日、正午に彼が部屋を出るときには帽子を被っていなかった。ところがエレベーターで降りて来る彼を見た管理人は、彼が帽子を被っていたのを見ている。その後、彼は一旦家に戻ったのだが、その際には彼が帽子を被っていたのをバートレットも確認している。これらの証言が正しいなら、キーティングは部屋を出てからマンションの出口に辿り着く間に帽子を被ったことになる。同じマンション内にはフィリップの部屋もあり、そこでキーティングが帽子を入手した可能性については、フィリップはその帽子は自分の所持品ではないとして否定。キーティングはその帽子について、魔力を持っているとか何とか語っていた。十客のティーカップについての例の手紙がまたもや警察に届く。今度の指定先はランカスター・ミューズの家で、すでに家具が運び込まれた。【バートレットの両手には特に異常はない。誤発砲事故の後、キーティングと会ったのはバートレットとダーウェントだけ。ダーウェントが訪ねた際、キーティングは濡れタオルを頭に巻き、ベッドに入って唸っていた】
[15 暗い窓](222) H・Mやマスターズたちがランカスター・ミューズの家に入ると、そこにはダーウェントとソアがいた。あの手紙はダーウェントが書いたもので、警察をおびき寄せるためのものだったという。ダーウェントはダートリー殺しの犯人を、今はもう故人となっているソアの父だと指摘した。
[16 青い水差し](236) ダートリー殺害事件の真相が解明される。“ティーカップ結社”なる秘密結社は存在しない。
[17 容疑者の集合](252) ジャネットがやって来た。彼女はマスターズを煙に巻く。家の中からは拳銃と手袋、そしてまだ新しい血が付いたナイフが見つかった。マスターズたちがこの家に入ったとき、ダーウェントとソア、そしてもう一人の人物の存在を見て取ったが、家の中には、そこにいることがすでに判明している人物以外は見当たらない。
[18 魔術師の椅子](270) キーティングとゲールはすでに密かに結婚していた。それ以前の遺言書は自動的に無効となり、ジャネットには遺産は渡らないようになっていた。H・Mはソアを立たせた。彼が座っていた椅子に掛けられたカバーの下にはバートレットの死体があった。
[19 H・Mの法法](283) H・Mは説明した。密室殺人にはいくつかの理由があるが、その一つは殺害方法さえ判らなければ有罪にはならないということであると。彼はジャネットを追及した。そのとき、ごく自然な様子で一人の人物が部屋に入って来て、ナイフを手に取った。
[20 人はかならずしも、あらゆることを考えない](298) H・Mは手掛かりとなったものを指摘しつつ、真相を知るに至った経緯を説明する。事件解明の最大の障害となっているのは、被害者が至近距離から撃たれたという点。もしそれさえ否定できれば、捜査は一気に進展できる。そしてついにH・Mは、ポラードが聞いた1発目の銃声は殺害現場の部屋ではなく、その向かいの部屋から響いたものであることを納得させるのだった。H・Mはバートレットが共犯者である可能性も検討したが、彼が犯人にアリバイを与える機会をまったく利用しなかったことから、それは薄いと考えた。
法月綸太郎シリーズの長編第3作。西村頼子殺人事件の犯人を殺したという内容の手記を書き残し、彼女の父が自殺未遂。手記には柊という教師が頼子を妊娠させた挙句、彼女を殺したのだと書かれていた。それは頼子が通っていた斉明女学院の評判、そして警察の面目にも関わる話だった。手記の内容に不審を抱いた綸太郎が事件の調査に乗り出す。担当刑事は頑なに通り魔犯人説を採っている。(「・ω・)「にゃおー [???]

西村頼子:斉明女学院高等部の生徒, 殺人事件の被害者
西村悠史:頼子の父, 手記の筆者, 大学教授
西村海絵:頼子の母, 童話作家, 昔の交通事故により半身不随
森村妙子:海絵の付添い
ブライアン:頼子の飼い猫
矢島邦子:海絵の担当編集者
高田満宏:悠史の研究室の助手
水沢エリ子:斉明女学院の理事長
内海:斉明女学院高等部校長
永井:斉明女学院の教師, 頼子のクラス担任
柊伸之:斉明女学院の英語担当教師, 頼子の昨年度のクラス担任
今井望:頼子の同級生
河野理恵:同
松田卓也:頼子の交際相手とされる、元同級生
松田麻子:卓也の母
冨樫:<週刊リード>の記者
水原徳一:エリ子の兄, 衆議院議員
油谷:徳一と同選挙区のライバル政治家
高橋:油谷の広報担当, 悠史の高校時代の同級生
長谷川冴子:柊の元婚約者
村上:産婦人科の医師
吉岡:悠史の担当医
中原:緑北署の刑事, 頼子殺害事件の担当者
佐伯:同, 中原の後任
法月綸太郎:小説家
法月貞雄:警視, 刑事部捜査課主幹, 綸太郎の父



愛娘を殺害された西村悠史は事件を独自に調べ始めた。そして警察が隠していた娘の妊娠を知った。それを担当刑事に問い質すと、妊娠の事実は認めたものの、それは事件とは無関係と言い張る。犯行は通り魔による偶発的なものであると、頑として譲らない。

悠史の警察への不信は強まった。彼は頼子を妊娠させた相手が、彼女を殺したのではないかと疑っていた。悠史は娘の相手を捜した。そこで浮かび上がったのが娘の担任だったこともある斉明女学院の教師・柊だった。

しかし事は慎重に運ぶ必要がある。万が一にも無実の相手を殺すわけにはいかない。そこで彼は計画を練り、ついに彼の口から頼子を殺したという自白を得た。

悠史は柊を殺し、復讐を遂げた。そして自らの命も絶つつもりだった。



悠史は命を取り留めた。彼の様子に不審を抱いていた、彼の妻の付添い・妙子の素早い処置のおかげだった。悠史は意識不明の状態だが、数日で意識は戻るとのことだった。


悠史が書き残した手記は各所に激震をもたらした。柊が頼子の殺害犯ということになれば、当然ながら警察の失態が問われる事態になり、斉明女学院にとっても大きな醜聞となる。

斉明女学院の理事長の兄は有力議員・水原徳一である。彼のブレーンたちは、この難局を乗り切るための奇策を進言した。それは名探偵として知られる、法月綸太郎に事件調査を依頼することだった。それによって、この事件には何か裏がある、斉明女学院を貶めるための陰謀であると、世間に印象付けようという策であった。


綸太郎はもちろんそんな役目はまっぴら御免だった。しかし手記を読むうちに、そこに不審な点があることに気づいた彼は、依頼者の思惑とは別の思惑を持って、事件調査に乗り出した。


※以下反転表示部のネタバレ注意。



題名からなんとなく淡々とした渋い内容を予想していた。

実際、次々と新たな死体が――などという内容ではなく、予想は半ば当たっていたのだが、残りの半ばは良い意味で裏切られた。基本的に綸太郎が事件の関係者の話を聞いて回るだけで、派手な動きはロクにない(せいぜい綸太郎が誘拐まがいに連れ去られる場面くらい)のだが、テンポ良く最後まで読めた。パズラーとしては詰め切っていないように思えるが、真相は充分に納得できるものだった。

このラストは後味が悪いとか、唐突さが否めないという批判もあるようだ。しかし陰鬱さの中に美しさを見せていた構図が脆くも崩れ去り、そこに新たな別の妖しい美しさを見せる展開の、不気味な空気が好き。無力感に打ちひしがれる探偵とは対照的に、弱者であったはずの者が余裕たっぷりに真実の姿を垣間見せる。立ち去る探偵の背後には、温かさと冷たさが、残酷なほどに淡々と同居した世界が存在している。

冷めた目で見れば、この“操り”テーマはなくても話は成立してるじゃないかとは思うが、それだと印象がちょっと弱かっただろうな。

「頼子のために」という題名も、たとえば英国の作家R・Hの某作品と同様に、読前と読後では解釈・印象が変わる、良い題名だと思う。


それにしてもなぜ猫は殺されてしまう役が多いのか…



[[第一部 西村悠史の手記]](7) 頼子が殺された。警察は通り魔の犯行と見ているようだが、彼女の父・悠史は娘を妊娠させた相手によるものではないかと疑い、その人物の正体を探る。その結果、彼女のクラス担任だったこともある教師・柊の存在が浮かび上がる。策を弄し、確信を得た悠史は、ついに彼を殺し、復讐を果たした。そこで悠史の手記は終わっている。
[[第二部 余波]](67) 自殺を図った悠史は命を取り留めた。発見された彼の手記は、その犯行の証拠品であるのみならず、警察や斉明女学院に対しても大きな一撃を加えるものだった。学院の理事長・水沢やその兄である議員は早急な対応を迫られる。
[[第三部 再調査Ⅰ]](77)
[1](79) 醜聞封じの奇策として、法月綸太郎に事件調査が依頼される。名探偵の彼が出馬するからには、事件には何かとてつもない裏があるに違いない、斉明女学院に対する陰謀が潜んでいるのだと、世間に印象付けるのが狙い。実際のところ、事件はすでに解明された単純なものと考えられており、綸太郎が何か新事実を掴むとは、誰も期待していない。当然のことながらまったく乗り気ではない綸太郎だが、悠史の手記を読むうちに興味を抱いた様子。
[2](87) 綸太郎は事件担当刑事の中原を訪ねた。中原は、頼子を妊娠させたのは柊であることは認めたものの、彼女を殺害したのは彼ではなく、別の通り魔であるという説を曲げない。柊が犯行を告白したくだりなど、悠史の手記には思い込みや捏造が多く含まれているという。手記の内容を完全に信じないという点では綸太郎も中原と意を同じくするが、頑なに通り魔説を採る彼の姿勢が腑に落ちない。たとえば醜聞を避けたい学院側からの圧力など、何か彼の思考を妨げるものがあるのではないかと感じている。
[3](97) 綸太郎が冨樫と知り合う。冨樫も事件に興味を持っているという。冨樫自身は否定するが、彼は斉明女学院の息が掛かった人物なのではないかと、綸太郎は疑惑を抱いた。綸太郎は冨樫の運転する車に乗って、未だに意識不明のままの悠史の病室を訪ねた。
[4](107) 悠史の病室には高田と邦子が付き添っていた。邦子から悠史の過去について尋ねる綸太郎だが、斉明女学院のスパイ扱いの彼に彼女は冷たく、回答を拒絶される。情報を得られぬまま、綸太郎は病室を後にする。
[5](118) 手記の内容については、高田も気に掛かる部分がある様子。後日また話すことにして、綸太郎と高田は別れる。綸太郎は悠史の担当医・吉岡と話す。悠史の意識は数日で回復するとのこと。狂言自殺の可能性はないという。綸太郎は冨樫を駐車場に待たせたまま、タクシーを使って西村海絵に会いに向かった。
[6](127) 海絵は悠史の行為をすべて受け容れ、肯定した。手記の内容にまったく疑問を感じておらず、柊を憎み、頼子を殺したのが彼ではないという仮定さえ無意味だと、綸太郎に告げる。悠史のかつての級友の高橋については、知ってはいるが、今はまったく付き合いはないらしい。
[7](138) 綸太郎は頼子の部屋を見せてもらい、妙子と話した。妙子は、悠史の家族への愛情については信じているものの、彼の手記の内容や言動と、実際の彼の印象には微妙な差異を感じていた。頼子の部屋には、彼女の趣味にはそぐわないように見えるカセットテープが一つあった。そこに書かれた「クローサー/ジョイ・ディヴィジョン」という文字は彼女の筆跡ではない。
[8](150) 西村の家を出ると、そこには冨樫が待ち構えていた。車に乗せてもらい、柊のアパートへ向かった。ところが管理人が言うには、綸太郎を部屋に入れないようにと、警察から連絡があったという。綸太郎は仕方なく部屋の中を見ることは諦める。頼子殺害現場の公園に行くが、これといった収穫はなし。面会の約束のある、斉明女学院へと向かう。
[9](159) エリ子は自分の用意したシナリオ通りから外れた行動を取る綸太郎に不満な様子。冨樫について尋ねると、エリ子はその場であっさりと彼を解雇する。エリ子は頼子の相手も柊ではなく、卓也という少年だと主張。頼子の同級生の望と理恵には、エリ子のシナリオ通りのことしか証言させない。
[10](170) 綸太郎はケーキショップで望と理恵から話を聞く。頼子の相手が卓也だとは信じられないという。柊には、かつて別の生徒にも手を出したという不祥事があった。その件は結局は有耶無耶になっている。
[11](181) 綸太郎は卓也の家を訪ねた。彼の母・麻子が応対した。彼はバンド活動に夢中らしい。次に綸太郎は頼子を診た産婦人科医・村上を訪ねた。村上に悠史の手記を読んでもらうと、彼は自分についての記述には、特に疑問点や違和感はないという。
[12](192) 綸太郎は帰宅した。彼の行動はマスコミから注目を集めているらしく、コメントや出演依頼の電話が殺到していた。父・貞雄との晩餐後、自室に引き上げ、頼子の部屋にあったテープを繰り返し聴いた。
[[第四部 再調査Ⅱ]](197)
[13](199) エリ子が手配したレンタカーが綸太郎の家に届いた。なぜかそこには冨樫の姿。柊の元婚約者・冴子の情報を綸太郎に伝える。
[14](204) 冴子によると、柊の不祥事の噂は事実だという。さらには彼はエリ子とも肉体関係にあり、それが原因で彼と冴子の婚約は解消された。
[15](216) 綸太郎は卓也を訪ねた。卓也は彼女には父親についての愚痴などを聞いてもらっていた。彼女と疎遠になったのは、彼女のほうが彼から離れたから。卓也は街で頼子が中年の男と連れ立って歩いている場面に遭遇したことがあり、その際、「イガラシ」と名乗った男の態度は自然だったが、彼女は妙に慌てた様子だった。
[16](229) 綸太郎は海絵を訪ねたが、彼女は精神的な披露で体調が優れないという。代わりに妙子に「イガラシ」という名の人物について尋ねたが、まったく心当たりはないとのこと。引き上げようとする綸太郎が庭の不自然な部分に気づき、掘り起こしてみると、そこには猫の死体があった。
[17](237) 綸太郎は半ば以上強引に連れて行かれ、油谷に引き会わせられる。事件は斉明女学院を貶めるための油谷陣営の陰謀だとする、水沢陣営の画策に彼は神経を尖らせている様子。
[18](248) 高橋はかつて悠史とあっさりと、邦子とは親しくしていたが、今ではすっかり疎遠になっていた。昔、高橋は邦子に恋していて、結婚も何度も申し込んだが断られた。邦子は悠史に恋していたからだった。にもかかわらず、邦子は自身の恋心を隠したまま、麻子の恋を後押しして、彼女と悠史を結びつけた。彼女は親友だから。綸太郎が「イガラシ」について高橋に尋ねると、聞き覚えがあるような気もするが、思い出せないという。
[19](260) 綸太郎が高田との待ち合わせ場所へ戻ると、彼はまだ待っていた。綸太郎は、手記の不自然な点から、そこに柊が頼子を殺害したという説を補強するための作為があると。頼子を妊娠させたのは柊であるが、彼女を殺した人物はほかにいるのだ。綸太郎は、頼子の父を名指しした。
[20](270) 高橋は綸太郎の説はとても信じられないという。悠史という人物を知っている者からすると、その推理は腑に落ちない、と。綸太郎が帰宅すると、高橋から電話があったと告げられる。「イガラシ」について連絡してくれたのだ。14年前に海絵を撥ねた車の運転手の名が「イガラシタミオ」だった。
[[第五部 真相]](279)
[21](281) 綸太郎は冨樫に連絡し、「イガラシタミオ」の調査を頼んだ。そしてエリ子宛の報告書を作った。そこには彼女と柊の関係も触れられており、いわば綸太郎から彼女への脅しだった。
[22](288) 綸太郎は五十嵐民雄に面会し、彼が頼子と会った経緯、そしてかつての事故のことを訊き出した。
[23](300) 綸太郎は邦子と面会。麻子を事故に巻き込んだ頼子を、悠史は愛しているどころか憎んでさえいたと、邦子は語った。
[24](312) 綸太郎と悠史との二人きりの面会。第二の診断書について、悠史は素直に答える。
[25](318) 悠史はすべてを認めた。綸太郎は真相を明かさないと約束した。そして悠史の言う通りに窓を開け、病室を去った。
[26](328) 綸太郎は、悠史の自殺、そして彼の最期の言葉を麻子に伝えた。己の小ささを感じつつ、綸太郎は立ち去った。
世に名高い17世紀英国を舞台とする“カトリック陰謀事件”を基にした歴史ミステリ。絞殺され、自身の剣で胸を貫かれたゴドフリー卿。それを好機と吹き荒れる、反カトリックの熱狂。[??]

チャールズ二世:英国王
ヨーク公爵ジェイムズ:王の弟
ダンビー伯爵:大蔵大臣
ヘンリー・コヴェントリー:国務大臣
サー・ジョゼフ・ウィリアムソン:同
ウィリアム・チフィンチ:王の寝室御用係
エリナー・グイン:王の愛人
ルイーズ・ケルアール(ポーツマス公爵夫人):同, “マダム・カーウェル”
シャフツベリー伯爵:グリーンリボン・クラブ首領
ペンブルック伯爵フィリップ・ハーバート:公爵夫人の義弟
バッキンガム公爵:グリーンリボン・クラブ幹部
ハリフアックス卿:同
モンマス公爵:王の庶子
ラルフ・モンタギュー:元駐仏大使
バリヨン:駐英フランス大使
サー・エドマンド・ベリー・ゴドフリー:治安判事
ヘンリー・ムア:判事の使用人
ジュディス・パンフリン:同
エリザベス・カーチス:同
マイクル:判事の兄弟
ベンジャミン:同
メアリー・ギボン:判事のいとこ
トマス・ウインネル:判事の友人
ジョージ・ウェルデン:同
クリストファー・カークビー:化学者
タイタス・オーツ:密告者
イズラエル・トング:同
ウィリアム・ベドロー:同
チャールズ・アトキンズ大佐:同
マイルズ・プランス:カトリック教徒, 銀細工師, ゴドフリー殺害事件の一味として投獄
スティーヴン・ダグデイル:情報屋
サムエル・アトキンズ:海軍省事務官
サムエル・ピープス:海軍次官, ヨーク公爵の支持者, アトキンズの上司
サー・ウィリアム・スクロッグズ:王座裁判所首席裁判官
サー・ジョージ・ジェフリーズ:シティ裁判官
サー・ウィリアム・ジョーンズ:検事総長, “雄牛づらのジョーナス”
サー・フランシス・ウィニントン:検事次長
サー・ウィリアム・ドルベン:判事
サー・ウィリアム・ワイルド:同
リチャードソン:ニューゲイト監獄所長
サー・ジョージ・ウエイクマン:王妃の侍医
エドワード・コールマン:カトリック活動家
ウィリアム・ステイリー:カトリック教徒
トマス・ホワイトブレッド:ジェズイット教団英国管区長
ウィリアム・アイアランド:同管区長代理
ジョン・フェニック:同サントメ教団ロンドン代表
ピカリング:カトリック神父
グローヴ:同, “正直ウィリアム”
スタッフオード卿:カトリック貴族
ウィリアム・マーシャル:修道士
ウィリアム・ラムリー:同
ジェイムズ・コーカー:同
リチャード・ラングホーン:弁護士
ロバート・グリーン:大工
ヘンリー・ベリー:門番
ローレンス・ヒル:ゴドウィン博士の使用人
ジラード:カトリック神父
ケリー:同
ジョン・ウォルターズ:死体の発見者
ウィリアム・ブロムウェル:同
フランシス・コラール:辻馬車屋
ジョン・ブラウン:警吏
ザッカライア・スキラード:外科医
ゴドウィン博士:会計主任
メアリー・ティルデン:博士の姪
アン・ブロードストリート:博士の家政婦
キャサリン・リー:同女中
ウォリアー夫妻:グリ-ンの家主
エリザベス・ミンショー:ベリー家の女中
ハウ:証人
レイヴンズクロフト:同
ウィリアム・コレット:衛兵隊伍長
トロロップ:衛兵
ライト:同
ハスケット:同



17世紀の英国。国王暗殺など、カトリックによる陰謀が囁かれる中、エドマンド・ゴドフリー判事が殺害された。彼は絞殺された後に自身の剣で胸を貫かれ、その死体は溝の中に置かれていた。その死の前の数日間、彼は何かに怯えていた。

ゴドフリーの死はカトリックの陰謀に関わるものとされ、それを機に反カトリックの機運は爆発し、陰謀の関係者として、多くの者が次々と裁かれた。その動きには反国王派のシャフツベリー一派も絡んでおり、タイタス・オーツという怪しげな人物はその弁舌で自身の権勢を高めていた。

英国王チャールズ二世は敵陣営の攻勢に押されつつも、策を練り、抵抗を続け、反撃の機を待っていた。


※以下反転表示部のネタバレ注意。



カーの歴史好きの趣味が結実した作品。17世紀の英国、カトリック陰謀事件、そしてその真相についての説を基にした歴史ミステリ。この事件は日本ではあまり馴染みのないものだが、英国史上で最も有名な部類に入る歴史的な陰謀事件らしい。本作に描かれていることが、どこまで“真実”なのか僕にはわからない。

推理小説として読むことも可能だが、作品の性格上、厳密な真相解明を望むのは厳しく、物語は個々の殺人事件ではなく、当時の英国全体を覆う陰謀へと広がっている。ゴドフリー卿を殺害した犯人を捜すという目的で読み進めることは苦痛でしかなく、17世紀の英国を切り取った普通小説として読むほうが良いだろう。まず登場人物の多さにうんざりしなくても済むしw

最後に語られる、考えられる一つの真相としての仮説も、推理小説として読むと肩透かしを食らう。

読み応えはあったが、少々がっかりだったw



[[殺人愛好倶楽部会員のための序章 ――概説――]]
[1](21) 作者からの序文。
[2](32) 17世紀の“カトリック陰謀事件”の背景。
[[第一章 「見よ、憎むべき一派」 ――陰謀――]]
[1](49) カークビー、国王暗殺の陰謀を知らせる。
[2](61) チャールズは陰謀の知らせをあまり気に懸けていない。ゴドフリーについて思い出す。
[3](73) チャールズが軽んじていた陰謀が、予想以上に巨大化して行く。
[[第二章 「アブネルの愚かな死にざま」 ――殺人――]]
[1](89) チャールズはオーツを嘘つきと断じたが、その証言を元に、議員たちはカトリックを摘発する。チャールズはパーティーに出席。そこには彼の政敵であるシャフツベリーたちも来ているが、いわばここは中立地帯。シャフツベリー一派もオーツの証言を利用しようと画策している。
[2](107) オーツの弁舌により、陰謀の中心人物としてコールマンは監獄へ。オーツの権勢は増すばかり。彼を取り調べたゴドフリーは何かを恐れている。そして姿を消した。
[3](119) 絞殺され、自らの剣で胸を刺し貫いたゴドフリーの死体が見つかる。
[[第三章 「英国人は冷静な国民である」 ――恐怖――]]
[1](128) 検屍審問が行われ、ゴドフリーの死は何者かによる故意の殺人と断じられる。
[2](138) ゴドフリーの死はシャフツベリー巧みに利用され、チャールズが大嘘つきと断じるオーツの権威はますます高まった。カトリックと名が付くものなら、いかなるものも八つ裂きにされそうな熱狂の嵐が猛威を振るった。
[3](152) ゴドフリーの死に関する、上院調査委員会はシャフツベリー一派の支配下。犯人はカトリックでなければならぬし、彼らがコールマンを通じてフランスから賄賂を得ていたことは決して表に出してはならぬ。そして狙うはヨーク公爵の追放。彼らに都合の良い“犯人”を作り出す必要があった。
[[第四章 「暗いランタンのもとで――」 ――証言屋――]]
[1](161) ピープスはヨーク公爵の支持者であり、アトキンズはピープスの部下である。もしピープスとアトキンズがゴドフリー殺しに関わっているならば、それはすなわちヨーク公爵にも累が及ぶかもしれないというわけで、アトキンズがゴドフリー殺しの共犯者であるという情報に、シャフツベリーは一も二もなく飛びついた。そしてその情報の真偽はともかく、当然のようにアトキンズはニューゲイト監獄へと送られた。
[2](172) ニューゲイト監獄の紹介。アトキンズへの圧力は強まっていく。彼は否認するが、彼がゴドフリーの死体のそばに立っているのを見た者も現れる。
[3](180) 新たな告発者としてベドローが登場。目敏い者たちがそれを見逃すはずもなく、その証言の中にアトキンズについての話が紛れ込む。
[4](193) 偽証を強要され、かえってアトキンズは頑固に抵抗するようになった。その頃、チャールズはベドローの証言の弱点を掴んでほくそ笑む。
[[殺人愛好倶楽部会員のための幕間 ――証拠――]](202) 12の仮説の提示。【①ゴドフリーは自分の剣に身を投げて自殺した。②ゴドフリーは首吊り自殺し、それを発見した彼の兄弟たちは、財産の国庫没収を避けるために他殺として偽装した。③ゴドフリーは彼の兄弟たちによって殺された。④コールマンが不用意にゴドフリーに秘密を漏らし、その口封じのためにジェズイットの神父たちがゴドフリーを殺した。⑤秘密を知られたダンビーの教唆によって、ゴドフリーは殺された。⑥立場の危うかったオーツによって、ゴドフリーは殺された。⑦首吊り自殺したゴドフリーの死体を見つけたオーツが、カトリックによる陰謀の殺人として偽装した。⑧ゴドフリーは、期待通りの働きをしない彼を見限ったコールマンの一味によって殺された。⑨ゴドフリーは狂信者カークビーによって殺された。⑩ゴドフリー殺害の首謀者はシャフツベリー。⑪ゴドフリーは、実際に1969年2月10日に裁判に掛けられた3名の男によって殺された。⑫その他の者の個人的な理由で殺された】
[同時代人の目で見た事件のパノラマ](238) カトリック陰謀事件の記念品の一つである、当時の様子を描いたトランプの紹介。
[[第五章 「彼らは自らの神を食い、王を殺し、人殺しを聖者と崇める」 ――法律家の饗宴――]]
[1](252) 国王暗殺未遂事件の細々とした裁判が始まる。当時はカトリックであるというだけで、いかようにも処分される時代で、人々の熱狂は沸き返っていた。被告ステイリーはほとんど反論もせずに処刑された。
[2](264) コールマンを被告とする裁判。いくつも危ういところがあるオーツの証言だが、その威光は充分。オーツの増長は留まることを知らない。
[3](274) 陰謀に関する裁判が次々に行われた。チャールズは、問題の陰謀などというのはシャフツベリー一派が自派の力の拡大のために利用しているにすぎないと見做しているが、ヘタな対応を取れば内乱を誘発することも理解している。死刑判決が出た者たちに恩赦を与えることはできない。敵の攻撃に対して、ギリギリの抵抗の日々が続く。
[4](290) ベドローはその証言の信用を失いかけており、権勢を誇るオーツには及びもしない。起死回生の一手が必要だった。チャールズはシャフツベリーの攻勢に押されっ放しで、孤立無援の状況に近づきつつある。
[[第六章 「白状してお慈悲を願え」 ――告発――]]
[1](301) ベドローはプランスこそがゴドフリーの死体のそばに立っていた人物だと断言。プランスは投獄され、ゴドフリーを殺害した人物として5人の名を証言する。
[2](308) プランスの証言は支持され、グリーン、ベリー、ヒルがニューゲイト監獄へと連行された。しかしプランスの期待は裏切られ、彼自身もまたニューゲイト監獄へと送り返された。
[3](320) プランスの精神状態は不安定になり、その証言を覆したり、また元に戻したりしている。チャールズはついに議会の解散を決断。ヨーク公爵支持のトーリー党とモンマス公爵を担ぐホイッグ党の対立は激化。
[[第七章 「さて、おまえの言い分を聞こう」 ――裁判――]](336) 被告側の証言はことごとく打ち砕かれ、グリーン、ベリー、ヒル、いずれにも有罪の判決が下される。
[[第八章 「己の葡萄といちじくの木の下で」 ――陰謀の消滅――]]
[1](387) 畳み掛けるシャフツベリー一派に対し、チャールズも策を用いて迎え討つ。スコットランドでは長老派が武装蜂起し、流血の惨事となる。カトリック陰謀事件は終息せず、それに関する新たな裁判も始まる。
[2](398) 陰謀事件についての風向きがやや変わり、無罪を勝ち取る者も現れ始める。議会はヨーク公爵排除法案などを抱えた、チャールズにとっては不利な情勢。そのためチャールズは議会を停会させていたが、財政窮迫のため、再開せざるを得ない。しかしグリーン・リボンクラブ幹部のハリファックスがヨーク公爵支持へと方向転換し、ヨーク公爵排除法案は否決された。それに先立ち、ベドローが死んだ。彼は臨終の床にあっても、カトリック陰謀事件に関する自身の証言を偽りとは認めず、すべて真実であると言い続けた。
[3](416) チャールズは密かにフランスからの財政支援を取り付け、議会を再開する。チャールズの罠を知らぬホイッグ派は、ついに彼が自分たちの圧力に屈したと、意気揚々として議会に乗り込む。しかしそこでチャールズは議会の解散を宣言し、ホイッグ派に強力な一撃を加える。不意を突かれた彼らは這々の体でその場から退散するしかなかった。
[[殺人愛好倶楽部会員のための結び ――事件の解明――]](434) 12の仮説の検討。①~⑪説を否定し、⑫説を有力としている。【自殺説の①②⑦は医学的に否定。③ゴドフリーの兄弟たちにとっては経済的な不利益にしかならぬのに、自殺として偽装するはずがない。これといった証拠は何一つない。④動機とされる「秘密」は当時においても秘密ではなかった。⑤ゴドフリー殺害事件の結果、ダンビーの立場は悪くなるばかりだった。⑥これという証拠がない上、犯行がオーツの性格にもそぐわない。⑧ゴドフリーは充分な働きをしており、コールマンを「裏切った」とは考えづらい。まるで拷問でも加えられたかのような傷や、2日間ほど監禁されていたのではないかと推測される殺害状況ともそぐわない。⑨カークビーなら、ゴドフリーが陰謀に関わっていると知れば、真っ先にそれを触れ回ったり、御注進するはず。⑩シャフツベリーの策略にしてはあまりにも稚拙で、殺害においてカトリックの仕業として見せかける工作すらしていない。⑪第七章で扱った証拠などからも彼らは無実。⑫ゴドフリーに怨恨を抱き、粗暴で自制心に乏しく、頑丈で力が強く、レスター・スクエアに住み、暴力的な、上流階級の人物を容疑者として挙げる】