世に名高い17世紀英国を舞台とする“カトリック陰謀事件”を基にした歴史ミステリ。絞殺され、自身の剣で胸を貫かれたゴドフリー卿。それを好機と吹き荒れる、反カトリックの熱狂。[??]

チャールズ二世:英国王
ヨーク公爵ジェイムズ:王の弟
ダンビー伯爵:大蔵大臣
ヘンリー・コヴェントリー:国務大臣
サー・ジョゼフ・ウィリアムソン:同
ウィリアム・チフィンチ:王の寝室御用係
エリナー・グイン:王の愛人
ルイーズ・ケルアール(ポーツマス公爵夫人):同, “マダム・カーウェル”
シャフツベリー伯爵:グリーンリボン・クラブ首領
ペンブルック伯爵フィリップ・ハーバート:公爵夫人の義弟
バッキンガム公爵:グリーンリボン・クラブ幹部
ハリフアックス卿:同
モンマス公爵:王の庶子
ラルフ・モンタギュー:元駐仏大使
バリヨン:駐英フランス大使
サー・エドマンド・ベリー・ゴドフリー:治安判事
ヘンリー・ムア:判事の使用人
ジュディス・パンフリン:同
エリザベス・カーチス:同
マイクル:判事の兄弟
ベンジャミン:同
メアリー・ギボン:判事のいとこ
トマス・ウインネル:判事の友人
ジョージ・ウェルデン:同
クリストファー・カークビー:化学者
タイタス・オーツ:密告者
イズラエル・トング:同
ウィリアム・ベドロー:同
チャールズ・アトキンズ大佐:同
マイルズ・プランス:カトリック教徒, 銀細工師, ゴドフリー殺害事件の一味として投獄
スティーヴン・ダグデイル:情報屋
サムエル・アトキンズ:海軍省事務官
サムエル・ピープス:海軍次官, ヨーク公爵の支持者, アトキンズの上司
サー・ウィリアム・スクロッグズ:王座裁判所首席裁判官
サー・ジョージ・ジェフリーズ:シティ裁判官
サー・ウィリアム・ジョーンズ:検事総長, “雄牛づらのジョーナス”
サー・フランシス・ウィニントン:検事次長
サー・ウィリアム・ドルベン:判事
サー・ウィリアム・ワイルド:同
リチャードソン:ニューゲイト監獄所長
サー・ジョージ・ウエイクマン:王妃の侍医
エドワード・コールマン:カトリック活動家
ウィリアム・ステイリー:カトリック教徒
トマス・ホワイトブレッド:ジェズイット教団英国管区長
ウィリアム・アイアランド:同管区長代理
ジョン・フェニック:同サントメ教団ロンドン代表
ピカリング:カトリック神父
グローヴ:同, “正直ウィリアム”
スタッフオード卿:カトリック貴族
ウィリアム・マーシャル:修道士
ウィリアム・ラムリー:同
ジェイムズ・コーカー:同
リチャード・ラングホーン:弁護士
ロバート・グリーン:大工
ヘンリー・ベリー:門番
ローレンス・ヒル:ゴドウィン博士の使用人
ジラード:カトリック神父
ケリー:同
ジョン・ウォルターズ:死体の発見者
ウィリアム・ブロムウェル:同
フランシス・コラール:辻馬車屋
ジョン・ブラウン:警吏
ザッカライア・スキラード:外科医
ゴドウィン博士:会計主任
メアリー・ティルデン:博士の姪
アン・ブロードストリート:博士の家政婦
キャサリン・リー:同女中
ウォリアー夫妻:グリ-ンの家主
エリザベス・ミンショー:ベリー家の女中
ハウ:証人
レイヴンズクロフト:同
ウィリアム・コレット:衛兵隊伍長
トロロップ:衛兵
ライト:同
ハスケット:同



17世紀の英国。国王暗殺など、カトリックによる陰謀が囁かれる中、エドマンド・ゴドフリー判事が殺害された。彼は絞殺された後に自身の剣で胸を貫かれ、その死体は溝の中に置かれていた。その死の前の数日間、彼は何かに怯えていた。

ゴドフリーの死はカトリックの陰謀に関わるものとされ、それを機に反カトリックの機運は爆発し、陰謀の関係者として、多くの者が次々と裁かれた。その動きには反国王派のシャフツベリー一派も絡んでおり、タイタス・オーツという怪しげな人物はその弁舌で自身の権勢を高めていた。

英国王チャールズ二世は敵陣営の攻勢に押されつつも、策を練り、抵抗を続け、反撃の機を待っていた。


※以下反転表示部のネタバレ注意。



カーの歴史好きの趣味が結実した作品。17世紀の英国、カトリック陰謀事件、そしてその真相についての説を基にした歴史ミステリ。この事件は日本ではあまり馴染みのないものだが、英国史上で最も有名な部類に入る歴史的な陰謀事件らしい。本作に描かれていることが、どこまで“真実”なのか僕にはわからない。

推理小説として読むことも可能だが、作品の性格上、厳密な真相解明を望むのは厳しく、物語は個々の殺人事件ではなく、当時の英国全体を覆う陰謀へと広がっている。ゴドフリー卿を殺害した犯人を捜すという目的で読み進めることは苦痛でしかなく、17世紀の英国を切り取った普通小説として読むほうが良いだろう。まず登場人物の多さにうんざりしなくても済むしw

最後に語られる、考えられる一つの真相としての仮説も、推理小説として読むと肩透かしを食らう。

読み応えはあったが、少々がっかりだったw



[[殺人愛好倶楽部会員のための序章 ――概説――]]
[1](21) 作者からの序文。
[2](32) 17世紀の“カトリック陰謀事件”の背景。
[[第一章 「見よ、憎むべき一派」 ――陰謀――]]
[1](49) カークビー、国王暗殺の陰謀を知らせる。
[2](61) チャールズは陰謀の知らせをあまり気に懸けていない。ゴドフリーについて思い出す。
[3](73) チャールズが軽んじていた陰謀が、予想以上に巨大化して行く。
[[第二章 「アブネルの愚かな死にざま」 ――殺人――]]
[1](89) チャールズはオーツを嘘つきと断じたが、その証言を元に、議員たちはカトリックを摘発する。チャールズはパーティーに出席。そこには彼の政敵であるシャフツベリーたちも来ているが、いわばここは中立地帯。シャフツベリー一派もオーツの証言を利用しようと画策している。
[2](107) オーツの弁舌により、陰謀の中心人物としてコールマンは監獄へ。オーツの権勢は増すばかり。彼を取り調べたゴドフリーは何かを恐れている。そして姿を消した。
[3](119) 絞殺され、自らの剣で胸を刺し貫いたゴドフリーの死体が見つかる。
[[第三章 「英国人は冷静な国民である」 ――恐怖――]]
[1](128) 検屍審問が行われ、ゴドフリーの死は何者かによる故意の殺人と断じられる。
[2](138) ゴドフリーの死はシャフツベリー巧みに利用され、チャールズが大嘘つきと断じるオーツの権威はますます高まった。カトリックと名が付くものなら、いかなるものも八つ裂きにされそうな熱狂の嵐が猛威を振るった。
[3](152) ゴドフリーの死に関する、上院調査委員会はシャフツベリー一派の支配下。犯人はカトリックでなければならぬし、彼らがコールマンを通じてフランスから賄賂を得ていたことは決して表に出してはならぬ。そして狙うはヨーク公爵の追放。彼らに都合の良い“犯人”を作り出す必要があった。
[[第四章 「暗いランタンのもとで――」 ――証言屋――]]
[1](161) ピープスはヨーク公爵の支持者であり、アトキンズはピープスの部下である。もしピープスとアトキンズがゴドフリー殺しに関わっているならば、それはすなわちヨーク公爵にも累が及ぶかもしれないというわけで、アトキンズがゴドフリー殺しの共犯者であるという情報に、シャフツベリーは一も二もなく飛びついた。そしてその情報の真偽はともかく、当然のようにアトキンズはニューゲイト監獄へと送られた。
[2](172) ニューゲイト監獄の紹介。アトキンズへの圧力は強まっていく。彼は否認するが、彼がゴドフリーの死体のそばに立っているのを見た者も現れる。
[3](180) 新たな告発者としてベドローが登場。目敏い者たちがそれを見逃すはずもなく、その証言の中にアトキンズについての話が紛れ込む。
[4](193) 偽証を強要され、かえってアトキンズは頑固に抵抗するようになった。その頃、チャールズはベドローの証言の弱点を掴んでほくそ笑む。
[[殺人愛好倶楽部会員のための幕間 ――証拠――]](202) 12の仮説の提示。【①ゴドフリーは自分の剣に身を投げて自殺した。②ゴドフリーは首吊り自殺し、それを発見した彼の兄弟たちは、財産の国庫没収を避けるために他殺として偽装した。③ゴドフリーは彼の兄弟たちによって殺された。④コールマンが不用意にゴドフリーに秘密を漏らし、その口封じのためにジェズイットの神父たちがゴドフリーを殺した。⑤秘密を知られたダンビーの教唆によって、ゴドフリーは殺された。⑥立場の危うかったオーツによって、ゴドフリーは殺された。⑦首吊り自殺したゴドフリーの死体を見つけたオーツが、カトリックによる陰謀の殺人として偽装した。⑧ゴドフリーは、期待通りの働きをしない彼を見限ったコールマンの一味によって殺された。⑨ゴドフリーは狂信者カークビーによって殺された。⑩ゴドフリー殺害の首謀者はシャフツベリー。⑪ゴドフリーは、実際に1969年2月10日に裁判に掛けられた3名の男によって殺された。⑫その他の者の個人的な理由で殺された】
[同時代人の目で見た事件のパノラマ](238) カトリック陰謀事件の記念品の一つである、当時の様子を描いたトランプの紹介。
[[第五章 「彼らは自らの神を食い、王を殺し、人殺しを聖者と崇める」 ――法律家の饗宴――]]
[1](252) 国王暗殺未遂事件の細々とした裁判が始まる。当時はカトリックであるというだけで、いかようにも処分される時代で、人々の熱狂は沸き返っていた。被告ステイリーはほとんど反論もせずに処刑された。
[2](264) コールマンを被告とする裁判。いくつも危ういところがあるオーツの証言だが、その威光は充分。オーツの増長は留まることを知らない。
[3](274) 陰謀に関する裁判が次々に行われた。チャールズは、問題の陰謀などというのはシャフツベリー一派が自派の力の拡大のために利用しているにすぎないと見做しているが、ヘタな対応を取れば内乱を誘発することも理解している。死刑判決が出た者たちに恩赦を与えることはできない。敵の攻撃に対して、ギリギリの抵抗の日々が続く。
[4](290) ベドローはその証言の信用を失いかけており、権勢を誇るオーツには及びもしない。起死回生の一手が必要だった。チャールズはシャフツベリーの攻勢に押されっ放しで、孤立無援の状況に近づきつつある。
[[第六章 「白状してお慈悲を願え」 ――告発――]]
[1](301) ベドローはプランスこそがゴドフリーの死体のそばに立っていた人物だと断言。プランスは投獄され、ゴドフリーを殺害した人物として5人の名を証言する。
[2](308) プランスの証言は支持され、グリーン、ベリー、ヒルがニューゲイト監獄へと連行された。しかしプランスの期待は裏切られ、彼自身もまたニューゲイト監獄へと送り返された。
[3](320) プランスの精神状態は不安定になり、その証言を覆したり、また元に戻したりしている。チャールズはついに議会の解散を決断。ヨーク公爵支持のトーリー党とモンマス公爵を担ぐホイッグ党の対立は激化。
[[第七章 「さて、おまえの言い分を聞こう」 ――裁判――]](336) 被告側の証言はことごとく打ち砕かれ、グリーン、ベリー、ヒル、いずれにも有罪の判決が下される。
[[第八章 「己の葡萄といちじくの木の下で」 ――陰謀の消滅――]]
[1](387) 畳み掛けるシャフツベリー一派に対し、チャールズも策を用いて迎え討つ。スコットランドでは長老派が武装蜂起し、流血の惨事となる。カトリック陰謀事件は終息せず、それに関する新たな裁判も始まる。
[2](398) 陰謀事件についての風向きがやや変わり、無罪を勝ち取る者も現れ始める。議会はヨーク公爵排除法案などを抱えた、チャールズにとっては不利な情勢。そのためチャールズは議会を停会させていたが、財政窮迫のため、再開せざるを得ない。しかしグリーン・リボンクラブ幹部のハリファックスがヨーク公爵支持へと方向転換し、ヨーク公爵排除法案は否決された。それに先立ち、ベドローが死んだ。彼は臨終の床にあっても、カトリック陰謀事件に関する自身の証言を偽りとは認めず、すべて真実であると言い続けた。
[3](416) チャールズは密かにフランスからの財政支援を取り付け、議会を再開する。チャールズの罠を知らぬホイッグ派は、ついに彼が自分たちの圧力に屈したと、意気揚々として議会に乗り込む。しかしそこでチャールズは議会の解散を宣言し、ホイッグ派に強力な一撃を加える。不意を突かれた彼らは這々の体でその場から退散するしかなかった。
[[殺人愛好倶楽部会員のための結び ――事件の解明――]](434) 12の仮説の検討。①~⑪説を否定し、⑫説を有力としている。【自殺説の①②⑦は医学的に否定。③ゴドフリーの兄弟たちにとっては経済的な不利益にしかならぬのに、自殺として偽装するはずがない。これといった証拠は何一つない。④動機とされる「秘密」は当時においても秘密ではなかった。⑤ゴドフリー殺害事件の結果、ダンビーの立場は悪くなるばかりだった。⑥これという証拠がない上、犯行がオーツの性格にもそぐわない。⑧ゴドフリーは充分な働きをしており、コールマンを「裏切った」とは考えづらい。まるで拷問でも加えられたかのような傷や、2日間ほど監禁されていたのではないかと推測される殺害状況ともそぐわない。⑨カークビーなら、ゴドフリーが陰謀に関わっていると知れば、真っ先にそれを触れ回ったり、御注進するはず。⑩シャフツベリーの策略にしてはあまりにも稚拙で、殺害においてカトリックの仕業として見せかける工作すらしていない。⑪第七章で扱った証拠などからも彼らは無実。⑫ゴドフリーに怨恨を抱き、粗暴で自制心に乏しく、頑丈で力が強く、レスター・スクエアに住み、暴力的な、上流階級の人物を容疑者として挙げる】