雨のあとに虹 その11
「急に電話をしてすまないね。」
天門は電話の向こうで言った。
「僕なら大丈夫です。」
俊之は場外馬券の売り場のざわめきを避けてから電話に出たのだった。
「実は例のテレビの件だけどね。」
天門が言った。
「はい。」
俊之が言うと
「漫画家の桑田先生がテレビの内容を本にしたいそうだよ。」
天門が言った。
「本ですか?」
俊之は言った。
「うん。」
天門が言う。
「それは凄いですね。」
俊之は嬉しそうに言った。
「高村さんにも取材を受けて貰えるとありがたいけどね。」
天門が言うと
「天門先生のご依頼なら何をおいても協力させていただきますよ。」
俊之は言った。
「あの有名な桑田先生が開運法に興味を持ってもらえたよ。」
天門が言った。
「僕は自分事のように嬉しいです。」
俊之が言うと。
「高村さんの運気アップにも拍車がかかるといいね。」
天門は言った。
「千晴。」
純一に言われて
「何か用なの?」
千晴は言った。
「何処かに行くのか?」
純一に言われて
「友達の所よ。」
千晴は言った。
「本当か?」
純一が言うと
「本当だよ。」
と千晴が言って石井園と書かれた玄関を出て行こうとした。
「俊之さんと会うのは止めろよ。」
純一は言った。
「どうしてなの?」
千晴は言うと
「どうしてもだめだ。」
純一は言った。
「私がおじさんに会うと困る事でもあるの?」
千晴は言った。
雨のあとに虹 その10
「高村ちゃん!」
と後ろから声がした。俊之が見ると服警備員の前田恒夫が笑顔で立っていた。場外馬券売場の最上階である。他の階とは違って常連がいつも同じ位置に立っているのが最上階の特徴である。
「今日は荒れていますね。」
俊之が言うと
「朝からずっと荒れているよ。」
前田が言う。
「今日の馬券は当てられそうもないですよ。」
俊之が言った。
「こういう時はメインあたりで硬く収まるパターンが多いよ。」
前田は大きな声で言った。相変わらず元気が良いのが前田の特徴である。
「そうですね。適当に配当が良いのを買って楽しんでみますよ。」
俊之が言うと
「高村ちゃんはいつも冷静だね。」
と前田が言う。
「ギャンブルってそういうものですよ。」
俊之が冷静に言ったので
「俺だったらそうはいかないなあ。」
と前田は言った。
「適当に遊んでみますよ。」
俊之が言うと
「ゆっくり楽しんでよ。」
と前田は言う。
「もちろんそうさせてもらいますよ。」
俊之が言うと前田は
「これから下のを見回らなくてはいけないのでね。」
と言って歩き出した。前川はゆっくり周囲を見てとエスカレーターへ向かった。そこにタイミングよく俊之の携帯にメールの着信が入った。俊之はその着信を見た。
「高村さんに今日の予想を送ります。」
と前置きして京野育子の予想が書いてあった。その予想を見て俊之はさすが育子だと思った。直感とでしっかり当ててくるのが育子の凄いところである。今日も育子のおかげで馬券が当たりそうである。俊之は育子の予想のとおりに人気騎手が騎乗するのに注目を浴びない馬が絡んでいる馬券をしっかり購入したのである。
「これから休憩に入ります。」
久美子は言った。
「お疲れ様。」
ひとみが声をかけてくれた。
「そう言えばね。」
と小百合言った。昼休みというには時間が遅いのだが久美子はやっと休憩に入った久美子と入れ替えに小百合の休憩が終わるのであるが時間にはまだ余裕がある。
久美子は時計を見て
「何ですか?」
と返事をした。
「堀川さんは彼氏いるの?」
小百合は唐突に言った。
「いないですよ。」
久美子が言うと
「今まで付合った人はどれくらいいるの?」
小百合が言った。はさらに質問がきつくなってきた。
「友達という人はいたけど特に彼氏という人はいなかったです。」
久美子が言うと
「堀川さんは私と違って美人なのにね。」
小百合が言うと横に居たひとみが
「早く休憩をとった方が良いわよ。」
と言った。店が少し込んできたようだ。
「はい!」
と言って小百合がカウンターに戻って行く。久美子は小百合の背中を目で追った。
「経営状態は大丈夫なの?」
姉の石井寿子に言われて弟の石井純一は
「春頃から資金繰りがうまくいかなくてね。」
と言った。喫茶店はお客の数が多いが静かであった。
「それで銀行の融資は受けられそうなの?」
寿子に言われて
「担保物件が無いから何とも言えないよ。」
純一は言った。
「俊之さんの事では迷惑を受けたばかりなのにね。」
寿子が言うと
「俊之さんとは縁を切りましたよ。」
純一はと言った。
「純一は7代目当主だからもっとしっかりしないよ。」
寿子が言った。
「ひとつだけ良い事がありましたよ。」
純子が言った。
「良い事って?」
寿子が言うと純一はビデオテープを鞄から取出して
「金づるだよ。」
と言った。
雨のあとに虹 その9
「お忙しいところお時間とっていただいてすみません。」
桑田清純は天門に言った。
「桑田先生もテレビをご覧になられたそうですね。」
天門が言った。天門の事務所でふたりは向かい合って座っていた。
「特に最後の運気を上げられた男性が印象的でしたよ。」
桑田が言うと
「高村俊之さんと言って運気がどん底の状態でした。」
天門が言った。
「いつからどん底の状態だったのでしょうか?」
桑田が言った。
「5年くらいまえからですね。」
天門は資料も見ないで言った。
「それで高村さんの運気はいつ頃に上がる予定ですか?」
桑田が言うと
「年明けくらいからですね。」
天門は言った。
「年明けくらいですか?」
桑田と言ってメモを取った。
「桑田先生も最近は運気が落ちていませんか?」
天門が言うと桑田は驚いて
「ここ3年ばかり停滞気味で困っています。」
桑田は言った。
日本を代表する5代総合商社のひとつ三友商事本社ビルがそびえ立っている。ラーメンからミサイルまでほぼ全ての分野を取り扱う巨大商社らしく威厳がありそうな見事な外壁である。その経営企画部で先ほど俊之の後をつけていた沢田秀樹が上司の榊原和馬に報告をしていた。
「そうか高村は元気そうだったか。」
「元気そうでした。」
沢田は言った。
「元気に今は経営コンサルタントをしていると言うのか?」
と榊原が言った。
「そのようです。」
沢田が言うと榊原は
「それで喫茶店で会っていた女子高生は高村とどんな関係があるのだ?」
と聞いた。
「そこまではまだ解かりません。」
沢田は正直に答えた。榊原は
「慌てなくてもいい。近いうちに高村に会えるだろうからね。」
と言って窓から見える夜景を見ながら沢田は俊之の顔を思い浮かべた。
「お父さんは?」
千晴は帰って来ると言った。
「町内の会合で遅くなるって言っていたわよ。」
石井静江は娘の千晴に言った。
「それはちょうどよかった。」
石井園と書かれた玄関から奥の座敷に入って来た千晴は言った。
「お父さんに何か用でもあるの?」
静江は言うと千晴は
「お母さんにね。」
と言って俊之から預かった封筒を出した。
「これは何?」
静江が言うと
「おじさんからよ。」
千晴は言った。
「兄さんに会ったの?」
静江がびっくりして言ったが
「さっき会ったよ。」
千晴はあっさりと言った。
「こんな事がお父さんに知れたら大変じゃない。」
静江が言うと
「会うくらいはいいじゃない?」
千晴が言った。
「この中身は?」
静江が言うと
「迷惑料だって言っていたよ。」
千晴は言った。