めだか屋で奮闘しまっせ（１７－３）

めだか屋で奮闘しまっせ　（フィクションです）

第十七話　自分の殻の巻（３）

　召田輔（めだすけ）は、空いた時間を見つけては考えていた。

「夏の売り上げを伸ばすのか、冬でも売れる方法を考えるのか、どちらかやなあ。けど、冬に売ろう思たら、家の中で飼いなはれってするんかいな。それやったら熱帯魚なんかと変わらへんし、難しいやろなあ。ほなら、夏にもっと売る方法を考えろっちゅうことかいな。何ぼでも新しい奴を作って売れたら高うても売れるさかいにええかも知れへんけど、次に何作ったらええんやろ。いや、何ぼでも新しい奴作れる訳あれへんがな。それ考えるんやったら、めだかだけやのうて他の魚も並べて売るっちゅう方がええがな。せやったら何を売るんやっちゅう事やけど、それよりも角の養魚場で作れるんかどうかやがな。何か他にええ方法無いんやろか。」

何時もの如く、考えても考えても、答えの出ようが無かった。

翌日に次の打ち合わせが迫る中、召田輔は思い付く事をメモしていた。

そこへあかねが入って来て召田輔の横に座り「何やってはんの。」と聞いて来た。

召田輔は慌てて書きかけていたメモを隠して立ち上がった。

あかねは召田輔の顔を見上げて「何で。何で避けるの。」と聞くと、「いやあ、別に。」と視線を避けて横向いた。「せやかって、避けてるやん。あたいの事、嫌いになったん。」「そんな事あれへん。」「温室が出来た時、一緒にいてくれって言うてくれた、ほんまに嬉しかったし絶対に離れへんと思たんよ。」「わいも、一生あかねちゃんと生きて行こと思たけど、けどな、わいなんかに付いて来たら幸せになれへん。あかねちゃんの人生を狂わしてしもたらあかんのや。」「何言うてんの。」「東京へ行って、良う分かったんや。わいかって遊んどる訳や無いで、せやけど、小さいめだか屋やってて一人で生きて行くのがやっとなんや。結婚式どころか指輪の一つも買うてやられへんのや。」「そんな事で避けてたん。アホやね、ほんまにアホやね。あたいは何もいらへん。一緒にいられたらええねん。めだかを見て目を輝かせてる召田輔さんがいてくれたらええねん。」あかねの言葉を聞いて、召田輔は瞳を潤ませながら「おおきに。せやけどな、わいはあかねちゃんに後悔だけはさせとう無いんや。」と呟いた。

あかねは、それ以上、何も言わなかった。

そして、一日が矢のように過ぎ、打ち合わせの日が来て、同じメンバーが集まっていた。

オーナーが「どうです、対策を考えて来ましたか。召田輔さんから順に聞かせて貰えますか。」と聞いてきた。「エーッ、わいが最初でっか。そうでんなあ、めだかを冬に売るっちゅうのは難しおますさかい、来年の春に賭けるしかおまへんなあ。養魚場はんには新しいめだかをどんどん作って貰ろて、ちょっとでも高う買うて貰えるように綺麗に見せる事と、それから、めだか以外のもんも考えて行く事でんなあ。」と説明していると、隣に座っていた人が「そんな簡単に新しいめだかが作れるもんですか。」と聞いてきた。「難しいでっしゃろなあ。」と召田輔が笑って答えると、オーナーが「緊迫感が無いですね。それで続けていけると思うのですか。」と喝を入れた。「それでは、貴方は。」と隣の人に声を掛けた。「僕は、薄利多売でやるしかないと思うのです。今、うちのショップは、大阪、神戸、京都と名古屋にしか無いですので、もっと全国のペットショップへ営業展開していくべきかと思いますが。」と答えると、別の一人が「それぞれ地方にも養魚場があって、地の利を生かして地元のペットショップへ卸してますので、特殊なめだかで無ければ難しいのではないですか。」すると、別の一人が「いや、今、開発途中のめだかだったら勝負できるかも。」「けど、量産するまでに一年は掛かるんじゃないですか。」「それだったら、うちの機動力を生かして地方に召田輔さん所みたいなめだか屋をたくさん作って、良質なめだかを安く提供するのが良いんじゃないかと思いますが。」

皆、口々に意見が出て盛り上がって来たが、どれも実現性には少し欠ける様だった。

オーナーが「こんな案しか無いですか。それでは、私から提案を。」と持ち出そうとした時、ずっと黙っていた一人の若者が手を上げたのだった。

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（山梨限定）