虹の約束♪ -7ページ目

虹の約束♪

「いつも喜んでいなさい・・・」

(十)

 

アルは突然頬を叩かれ眼が覚めた。

 

「痛い、朝から何をするのよ?」眠い眼を擦りながらラーモセを睨む。

 

夜はまだ完全に明けていない。外は霧が降りていた。

 

 

 

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「起きろ、出発するぞ。お前の足が遅いから、今から出ないと間に合わない。さっさと支度しろ。おい、起きろ、眼を覚ませ」

 

朝の苦手なアルは思考がすぐには働かない。

顔を洗い終えると同時に、何が何だかわからないままラーモセに手を引かれ、家を出た。

 

「こんなに早く、一体どこに行くの?」

 

都会育ちのアルは、歩くのが苦手だ。しかも早朝となればなおさらだ。

 

 

 

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完全にふてくされている。それに比べ、ラーモセは爽快にそのものだ。

 

「前に言ったろう。アルが元気になったら連れて行きたい所があるって。今日そこへお前を連れて行ってやる」

 

アルはラーモセを上目遣いに睨む。

 

「だったら昨日の内に言ってくれればいいじゃない。心の準備というものがあるでしょう。いきなり叩き起こされて不愉快だわ」

 

恨めしそうなアルの視線にも、気分を害することなくラーモセは晴れ晴れとしていた。

 

「驚かせようとしたんだ。どうだ?びっくりしただろう?お前も楽しみだって言っただろう、だからわざと内緒にしていたんだ」

 

アルは思わず笑った。まるで子供のようにはしゃぐラーモセが可笑しかった。

 

確かに、ラーモセと遠出するのは初めてだった。遠足のような気分になる。風が気持ちいい。

 

「ねえ、どこに行くの?教えてよ」

 

 

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それには答えず、ラーモセは振り返るとアルに訊ねる。

 

「楽しいか?」

 

「うん、すごく、楽しい」

 

ラーモセは遥か遠くを見つめて言った。

 

「お前が楽しいって言うなら、俺も楽しい。お前が幸せなら、俺も幸せだ。こんな気持ちは初めてだ。自分でもすごく不思議なんだ」

 

アルは眼を伏せ、ラーモセはさらに言う。

 

「他には何もいらない。お前だけでいい」

 

アルは胸が締め付けられそうになった。ラーモセの言葉が死ぬほど嬉しいい。本当に幸せだった。

 

 

 

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泣きそうな顔でラーモセを見る。ラーモセはそっと手を出す。

アルはその手を握った。この手を二度と離したくなかった。

 

「迷子にならないように、俺について来いよ。でも、もしもはぐれても、俺が必ずお前を見つけてやる。俺がお前を捜し出してやる」

 

「うん」

 

二人は歩いた。どこまでも続く砂漠を。

 

 

 

 

「パピルスの詩」

 

 

 

 

・・・

 

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「マジで言っているんだ。ヨセフは今、外国人傭兵を集めている。

カリア人、ギリシア人、フェニキア人、ヌアビ人、スッキア人、リビア人。

それは現実に飢饉がひどくなっているせいだ。こぞってエジプト軍に志願している。

すでに宮廷の巷に王の船が二艘停泊している。太陽の船と月の船だ。騎馬隊も陸を行く用意をしているって話だ。

なぜそんなにアケトにこだわるのかわからないが、ヨセフはただ者じゃない。

気を付けろよ、お前の面は気に入らないが、ラーモセのような色男は二度と拝めないから、殺されるのは惜しい」

 

 

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「うるせえ、他人の顔のことをどうこう言えるご面相かよ。てめえの顔を鏡に映してみろ。

ヨセフだろうが、誰であろうが、アケトは何者も恐れたりしない。逃げも隠れもしないさ。

それはお前らも同じだろう」

 

「当然だ。ベドウィンはだ。どんな権力にも屈しない。たとえこの命が果てても。

だからアケトは眼の上のコブだ。俺たちより有名になりやりがって」

 

 

 

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二人は声を出して笑った。

 

「いいか、貸しは必ず返してもらうぞ」 サブが族長を人差指で指した。

 

族長も人差指を相手に向けた。「貪欲な奴だ、まだ俺から取るつもりか」

 

 

互いにラクダに乗る。

 

 

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背後に控えているベドウィンの群れやアケトの仲間は、自分たちの長が戻るのを見て、手綱を引いた。

双方走ることなくゆっくり離れて行く。

再び合うときは、敵側に回っていることもありうると充分に承知している。

だが、戦士としての魂は失わないと、自負していた。

 

 

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砂漠の地に日が照り返す。熱で視界が揺れる。

蜃気楼が見せる泉のように、あてもないオアシスを目指し彼らは旅を続けた。

 

 

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彼らの足跡は風が消していく。

あたかもその道は何者も通らなかったかのように。

 

 

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砂の海原を渡っていく彼らの足元に、動物の死骸が転がっている。

乾いた白い骨が地面から突き出して、側を小さな虫が這っていた。

 

 

 

「パピルスの詩」

 

 

 

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・・・

 

「盗賊の間であったという間に風聞が広がった。

何でも、魔女だとか、女預言者だとか、女神の一人だとか、

アヌビス(死者の神)の化身とも言われ、巷で恐れられている。

アケトは以前に増して有名になっているぞ。

その女が、相手に触れずして息を止めたとか、

あの指名手配者、殺人鬼の砂漠のハイエナを仕留めたとか、

様々な憶測が流れている。

実際に目撃したという奴が大勢いるとかで、

とうとうヨセフの耳にも届いたということだ」

 

 

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サブは薄く笑った。族長は眉をひそめる。

 

「なに呑気に笑っている?お前らのことだぞ。このままでいいのか」

 

「このままでいいも悪いも、俺の知ったことではない。

ラーモセはアケトを抜けた。

アルなんて女は、俺は知らないし会ったこともない。

単なる噂だろう。俺には関係ないね」

 

族長は肩をすくめ、口をへの字にする。

 

「勝手にしろ。俺はこの前の借りを返したぞ。

いいか、今度会ったときは無事で俺の前を通ることができると思うな」

 

 

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サブはふてぶてしい笑いを乗せた。

 

「ふざけるなよ。俺はお前に貸しを返してもらった覚えはないぞ。

今度会った時、きっちり返してもらうからな。

命の恩人に敬意を表しろ。

テーベのお偉方はお前らが気に入らない。

この辺をうろついていると、自分のケツに火がつくことになるぞ。

そっちこそ気を付けろ。他人の心配している場合かよ」

 

族長の顔から微笑みが消えた。

 

 

 

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「パピルスの詩」

 

 

・・・

 

まずは一発、族長が釘を刺した。自分の領域を守れという警告だ。

 

サブは無言で笑う。端から対抗意識を露わにする。

 

「流れ者の連中まで雇ったと聞いたが、随分少人数じゃないか、作戦変更か?」

 

 

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サブの冴えない顔色を見てさらに続ける。

 

「やはりアケトは蜂のように素早く飛び、その鋭い針で相手を一撃しなければ、その機能を果たせないだろう。元の形に戻ったか」

 

サブは仏頂面で答える。「余計なお世話だ。お前には関係ない」

 

「妙な噂を最近耳にした。ところで、あの気障で気取った美少年はどうした?ラーモセと言ったか、いつも一緒じゃなかったか」

 

サブは族長から顔を逸らし、鼻を鳴らす。「そんな奴記憶にねえな。アケトにはそんな男はいない。何かの間違いだろう」

 

族長は白い歯を見せ、眼を細めた。

 

「喧嘩したのか?それはいい。俺も奴は好かねえ。腕はいいかもしれないが、生意気な奴だった。ろくに挨拶もしねえし愛嬌もない。いつもつまらなそうにしていてむかついたぜ」

 

 

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サブの顔色が豹変した。「俺の前で二度とそれを言うな。ラーモセの悪口は俺が許さねえ。たとえお前でもな」

 

族長は意を得たように、にやりと笑う。「そんな奴しらないんじゃなかったのか」

 

サブは途端にバツの悪い顔をした。

 

「お前らは若いな、羨ましいぜ。まあ、ラーモセの剣を振りはまるで蝶のように美しかった。相手は初めからその可憐さに呑まれてしまい、戦闘意欲を削がれる。それにあの顔だろう、男にしておくのが惜しいくらいの美形だ。いけ好かない若造だったが、あんなしびれる奴は他にはいない。何故手放した?」

 

サブはふてくされて言う。「あんな奴いなくてもアケトは健在だ。俺が奴を追放した。もうあいつにはかまうな」

 

「さっきも言ったが、妙な噂を聞いたんだ。七年の飢饉やヨセフのことは聞いているだろう?今では下エジプトも変わった」

 

 

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サブは気のないつまらなそうな顔をした。「そんな話聞いたこともないな」

 

族長は呆れ顔で気にもしない。

「惚けやがって。まあいい。噂というのはもっと違うことだ。アケトのことだ」

 

それでもサブは話に乗ってこない。

 

「アルという女を知っているだろう?」

 

サブは無表情を作ったが、一瞬遅かった。族長はサブの眉が一瞬動いたのを見逃さない。

 

だがサブはあくまでも白(しら)を切った。

 

「ヨセフがアケトやラーモセ、アルを探しているって噂だ。それが本当ならかなりやばいぞ。今じゃヨセフはエジプト王より権力を握っている。本気で討伐されたら跡形も残らないぞ。アルという女は一体誰だ?」

 

サブは顔を伏せ黙っていた。

 

「ラーモセがアケトから抜けた理由も、その女のせいか?お前が関係ないと言うなら、それ以上は俺も干渉しないがな」

 

初めてサブが族長に詰問した。「アルの名何故知っている?」

 

予想はついたが訊かずにはいられなかった。噂の信憑性も知っておきたかった。

 

 

 

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「パピルスの詩」

 

 

 

・・・

 

サブとベドウィンの族長は肩を並べて歩いた。

互いに相手の腹の中を探ろうと、その気配を窺っている。

顔見知りといえども油断ならぬ相手には違いないのだ。

 

 

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しかしこの世界にあって、サブと族長は互いに相手を好敵手として認め合っていた。

人数においては比較にならないが、サブは盗賊の間で切れ者として有名だ。

統率力、観察力、判断力に優れていた。

 

戦いにおいて地の利を見極めた戦術は極めて重要だ。

少人数で素早く動き、標的を狙うその様は、あたかも鷲が空高く獲物を定め降下する姿に似ている。

 

ただ強引に進むのではなく引き際もわきまえており、過ぎた欲を張らず誰も傷付けず、疾風迅雷の勢いで去るのだ。

それにアケトは若い。

今やエジプト内で名が知られている。

 

 

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一方、相手もベドウィンの大きな群れを率いる族長だ。

決して侮れない。気を許せる相手ではなかった。

 

族長が先に切り出した。

「最近やたらと派手に活動しているそうだな。それはデルタ地方まで届いているぞ」

 

 

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デルタ地方とは、ナイル川が地中海に近付くにつれ、いくつもの支流に分かれて扇状に広がり、ギリシア文字のデルタのような三角形をした肥沃な土地を言う。

 

上エジプトの狭いナイル河谷と、北の広いデルタ地帯との違いから、本来は「二つの国」があったが、最初のファラオによってエジプトは一つの国家に統一された。

 

 

 

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「パピルスの詩」