あんなふうに自分をも輝きたい。
常に同じ時間に同じ場所に現れ、精一杯太陽の光の光を反射させ、闇に光を放ち、人間を幸せにしてくれる星たち。
誉められるためではなく、自分の仕事を毎日変わりなく果たして行く彼らのようになりたい。
どんな小さな名もない星でもいい、力一杯輝いてみせる、そう鼓舞し激励した。
「パピルスの詩」
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話は、さらに二十年前にさかのぼる。
パレスチナ地方にヤコブというカナン人の遊牧民がいた。
彼は大きな集団を作り、四人の妻と使用人たち、家畜をたくさん引き連れて旅を続けていた。
ベテルを旅立って、エフラテに向かう途中の道程で、妊娠していた妻のラケルは突然陣痛を起こし、
ひどく苦しんでいた。
産婆が側でラケルを勇気付けた。
「心配はいりません。今度もあなたは男の子を産みます」
それを聞くとラケルは微かに微笑んだが、出血がひどく、激しい難産の末に男の子を産むとすぐに息を引き取った。
死が迫り、その魂が肉体を離れ去ろうとするとき、彼女はその子の名をベン・オニ(私は苦しみの子)と名付けた。
しかし父親はその子を祝福し、ベニヤミン(右の手)と名を変えた。
ラケルは容姿が非常に美しく聡明で、瞳に力のある女性だった。
ヤコブは他のどの妻たちよりも彼女を寵愛していた。
最愛の妻を突然亡くしたヤコブの悲しみは癒されることなく、その深い傷の故に心が歪んでしまう。
さてヤコブには十二人の息子がいた。
ラケルの実の姉であり、妻の一人レアの子は、長男ルベン、その下にシメオン、レビ、ユダ、イッサカル、ゼブルンである。
難産で命を落としたラケルには、ベミヤミンの上にもう一人ヨセフがいた。
最愛のラケルを失くしたヤコブが、その喪失感をヨセフに注いだ。
どの兄弟よりも彼を愛した。
「パピルスの詩」
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何を信じるべきかわからなくとも、少なくても今起きていることを考えれば、
あながち老婆の話が嘘とも思えない。
とするならば自分は必ず死ぬということだ。
確実に時間が限られてくる。
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以前は、即ち自殺を考えていた自分は、命は永遠に続くとばかりどこかで思っていた。
だからそんな命はいらなかった。
でも、限りある命だと知っていれば、おそらく死のうとは考えなかっただろう。
明日、あるいは一か月後、一年後、死ぬと宣告されていたら自殺する人間はいないはずだ。
放っておいても死ぬ命、きっと懸命に生きようとするだろう。
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今の自分がそうだった。
あと少しで終わるとなると一日一日がとてもいとおしい。
全てがキラキラと輝いて見える。
こんなに命は重く大切で切ないものだったのかと今さらながら気付いた。
涙が頬を伝って止まらない。
自分の使命が何かという以前に、生きて人を愛したい、ただそれだけだった。
それさえ叶うなら他には何もいらない。
アルは悔恨と自分の軽率さに声を押し殺し涙するしかなかった。
ラーモセは眠ってはいなかった。
アルが声を出さずに身を震わせて、悲愴に独りなく姿をじっと見ていた。
そしていつしかラーモセの眼に光る涙が滲んでいた。
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「パピルスの詩」
ラーモセは照れているのか乱暴に返す。
それから言いにくそうに尋ねた。
「あいつから俺のことを何か聞いたのか?」
「お母様のことを、少しだけ」
「そうか」
「でも、それだけだから。エセは他には何も話さなかったよ。だから怒らないで」
「心配するな、怒ってない。他の奴ならむかつくけど、聞いた相手がお前ならいい」
暗くて相手の表情は充分には読み取れないが、案外怒ってはいないようだ。
アルは気がかりなことをさり気なく訊いてみた。
「ツタンカーメンって王様知っている?」
「知らない。どこの国の王だ?」
「ううん、私も知らないんだけど、以前どこかで聞いたことがあったような気がしたから」
やはり疲れているのか、ラーモセは眠いようだ。
アルはラーモセの手を両手で包む。
「さあ、もう眠って。おやすみなさい」
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今度は素直に、ラーモセは従った。
アルは急いで考えた。
この質問は以前から用意して心に仕舞っていた。
アルが唯一知っているエジプト王の名前は彼だけだった。
以前、上野の美術館にツタンカーメンの副葬品や黄金のマスクらを観にいったことがある。
ツタンカーメンは確か紀元前一三〇〇年くらいの王様だ。
王家に生まれたラーモセが彼の名前を知らないと言うのは、この時代はさらに前、つまりはもっと昔ということだ。
だいたい紀元前一五〇〇年くらいか、ということは三千五百年以上前昔に自分はいるのかと感嘆する。
するとあの老婆の言葉が再び脳裏をかすめる。
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「パピルスの詩」