街角ファンタジア

村山早紀 実業之日本社 2024年10月



 

 

失恋したての青年、亡き祖父を想う少女、行き詰まったイヤミス作家、不器用な本好きの少年、未来が不安な女性ライター……
昭和から令和まで時代を越え、街の片隅で暮らす人々のそれぞれの心の傷が、優しい魔法で癒やされていく。



星降る街で」

失恋した青年が、クリスマスの夜に起きた奇跡……
猫が取り持った出会いがよかった。
人の幸せを願えるってすばらしいこと……


「時を駆けるチイコ」

亡き祖父の妹が、兄の夢を叶えようと自分の体のことを顧みず必死に行動していたところがよかつた。



「閏年の橋」

編集者の作家に対する想いが熱い。

ただ、ほっこり優しいだけのお話じゃなく、遠い空の星明かりを見上げるような気持ちに為れる、夜の闇の中にありながら、人の善姓を信頼し、それに憧れるような美しい物語を書ける方だと信じている〉



「その夏の風と光」

戦時下の話。

病気がうつるからと、洞窟に閉じ込められた毎日はつらかっただろう。

でも、幽霊となり本の話ができてよかった。



「一番星の双子」

小学生時代、仲良しのふたり。

離れ離れになっていたが、大人になって、お互い大好きだと再認識する。


〈わたし、この世界にいて良いんだな〉

気持ちが折れていたとき、勇気をもらえる。



世知辛い世の中だからこそ、こんな夢のような話が、心を癒してくれると思った。

どの話にも猫が関係していたこともいい感じだった。

ファンタジー、あまり好きではないのだが、「あとがき」読んだら、とてもいい話に思えてきた。

お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐




流氷の果て

一雫ライオン 講談社 2025年3月



 

 

札幌市内から知床半島ウトロへと向かう「北斗流氷号バスツアー」に参加していた少年と少女は、バスの転落事故ですべてを失ってしまった。
そして1999年。成長した彼らは、きたるべきミレニアムに浮足立つ新宿の街で再会するーー身元不明の首吊り遺体を挟んで。
定年間近のベテラン刑事と、競争から外れてしまった若手刑事が、二つの時代をつなぐ事件の真相を追うべく、駆けずり回る。この国で隠され続けてきた、あまりにも悲しい真実とは?





北海道で起きたバス転落事故で生き残った小学生の修一と由利子。

つらい人生を送ってきた。


13年後、

新宿で発見された男の首つり死体。

修一と由利子は、どう関係しているのか。



母親の痴呆の介護のため、早期退職を決めた刑事の真宮は、最後となる捜査に、若手の香下と組んで事件を追う。




由利子は、障害のある弟を大切に思っているのが伝わってきた。

由利子は、仕事であるラジオのDJの受け答えもはっきりしていて、いい仕事していると思った。


修一と由利子は、何か隠している。

お互い想いを寄せていても、普通に会うことはない。

ふたりの関係が切なかった。


大きな社会の渦に巻き込まれてしまった子どもたち。


修一と由利子を救ってあげたいという、真宮の心情が暖かいと思う。



そうだったのか。

最後に今までの違和感が払拭 された。


最終章の由利子のラジオ放送は泣けてきた。


エピローグ読んで、ホッとできた。

若手だった香下は、いい刑事になっていた。



お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐





娘が巣立つ朝

伊吹有喜 文藝春秋 2024年5月



 

 

高梨家の一人娘・真奈が婚約者の渡辺優吾を連れて実家に来た。優吾は快活でさわやか、とても好青年であることは間違いないが、両親の健一と智子とはどこか会話が嚙み合わない。
真奈は優吾君とうまくやっていけるのか? 両親の胸にきざす一抹の不安。
そして健一と智子もそれぞれ心の中にモヤモヤを抱えている。健一は長年勤めた会社で役職定年が近づき、最近会社での居心地が良くない。週末は介護施設の母を見舞っている。将来の見通しは決して明るくない。
智子は着付け教室の講師をして忙しくしているが、家で不機嫌な健一に辟易している。もっと仲のいい夫婦のはずだったのに……。

娘の婚約をきっかけに一家は荒波に揺さぶられ始める。
父母そして娘。三人それぞれの心の旅路は、ときに隔たり、ときに結びつき……




結婚は、本人同士が好き合っていても、今まで 違った環境で育ったふたりがいっしょに暮らすことになるのだから、問題は山積み 。

まして、家のつながりで、親族と 付き合っていかなくてはいけない。

習慣やお金に関する価値観の違いなど、話し合うべきことはたくさんある。


真奈と優吾は大丈夫か?



娘の結婚が決まった両親が、娘の幸せのために何ができるのか。娘を思う気持ちが暖かかった。


しかし、長年暮らしてきた熟年夫婦に危機が訪れる。


「空気のような存在」は褒め言葉なのか?


毎日、ため息ばかりついていられたら、イライラするだろうな。


こころの浮気は、許せないと思う。




夫婦のあり方もいろいろ。


 どうにか、もとに戻ったような結末だが、これからも、いろいろ問題が起きそう。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐

死んだら永遠に休めます

遠坂八重 朝日新聞出版 2025年2月



 

 

無能なパワハラ上司に苦しめられながら毎日深夜まで働き詰めの生活を送る28 歳の主人公・青瀬。突然失踪したパワハラ上司・前川から届いたメールの件名は「私は殺されました」。本文には容疑者候補として「総務経理本部」全員の名前があった。

限界会社員・青瀬と妙に頭の冴える派遣社員・仁菜は二人で真相解明に取り組むのだが……。





 総務経理本部で働く青瀬は、派遣社員の仁菜の失敗の尻ぬぐいをし、上司前川のパワハラを受けながらも、深夜まで働きづめの毎日。

そんな時、前川がメールを送信して失踪する。
青瀬たち総務経理本部の部下たちは、前川がいなくなればいいと思っていたので、不信に思いながらも半ば喜んでいた。

ところが、今度は、「私は殺されました」容疑候補として総務経理本部全員の名前が書かれたメールが社員全員に送信される。
青瀬たちは、社員たちから恐れられてしまう。


メールを送ったのは誰?
前川は、生きているのか?
前川が殺されたのなら、誰が、なぜ殺したのか?


青瀬は、会社の人たちやアパートの 管理人にまで、クレームを言われて、ずっと暗い気持ちで読んでいたのだが……


無能だと思ってた仁菜が、行動力があり、青瀬に協力的であったことはよかったと思う。


青瀬の元恋人は、味方なのか?ただのストーカー?


読み進むうち、感じる違和感……

そういうことだったのね。
面白い展開だったけど、読んでいて疲れた。

お気に入り度⭐⭐⭐



復讐の準備が整いました

桜井美奈 朝日新聞出版 2025年4月



 

 

高校の漫画研究会のたった二人の部員である葵と由利。デビューを夢見る二人だが、歌舞伎町のビルから女子高生が転落した事件をきっかけに人生の歯車が軋み始める。『殺した夫が帰ってきました』の著者が贈る、騙されること必至の青春ミステリー。




高校2年生の葵。

ひとり部員の漫研に新入生の由利が入ってくる。

どのように向き合えばいいのかわからないふたりだったが、漫画の話となると盛り上がった。



そんな高校生のほんわかした話の中に挿入されている、

薬を売り、そのお金でシュウに会いに行くという、リリのあぶない話が、どうかかわってくるのか、気になった。


題名から、誰が誰の復讐の準備をしているのかも、気になるところ。



ある程度の予想は、つくものの、こんな展開になるとは、思いもしなかった。

思い込みによるミスリード、まんまとだまされた。


お気に入り度⭐⭐⭐



桜が散っても

森沢明夫 幻冬舎 2024年12月



 

 

趣味の釣りをきっかけに、週末を桑畑村で過ごすようになった忠彦。現地でできた親友の浩之をはじめ、温かな人々や美しい自然に囲まれた桑畑村は、彼にとって「第二の故郷」と呼べるほどの場所だった。しかし、数年後、自身が勤める建設会社が桑畑村でリゾート開発を進めていることを知る。その事実を知った忠彦は浩之に会いに桑畑村へ向かうが、そこで人生を揺るがす出来事に遭遇してしまう。その日を境に、忠彦と家族の運命は大きく変わり出していき……。
不器用ながらも自分の信念を貫いた男と、その家族の絆を描いた感動の物語。





桑畑村でのこと、

第二の故郷と思っている忠彦にとって、ショックは大きかっただろう。

忠彦の責任でもないのに、責任を感じてしまう忠彦は、真面目で不器用な男なのだ。


桑畑村への移住を妻に話すが、妻は、受け入れらなくて……


後になって、

忠彦は、実は家族想いの人だったとわかっても、

離婚後、二人の子どもを育ててきた妻にとっては、生活することが大変だったろうに、今までの苦労は何だったんだと言いたいのではないかと思った。


でも、忠彦の本当の気持ちを知ることができたことはよかったと思う。


〈許せないけど、嫌いじゃない〉

子どもたちの気持ちにはうなずける。



桜が散った後が、本当のメッセージ。

その美しい風景が目に浮かんだ。


お気に入り度⭐⭐⭐


あなたの四月を知らないから

青山ミリ 朝日新聞出版 2025年4月



 

 

恋人もおらず仕事も冴えない三十九歳の由鶴の支えは一千万円の貯金だけ。
家族から家の購入を勧められる中、片思い中の"宇治"とは3月で会えなくなることを知り……。
恋・お金・家、彼女が選ぶ人生とは。
創作大賞2024(note主催)朝日新聞出版賞受賞作。




大坂城は五センチ」

三十九歳の由鶴の視点で、セラピストの宇治、会社の部下の多部ちゃんとのことが描かれている。


由鶴は、母から、賃貸ではない家探しを催促されている。

マンションを探したり、住宅のサブスクリプションを試してみたりするが……


宇治とのことは、割り切って接しているだろうが、由鶴の、宇治への想いが切ない。


由鶴と多部ちゃんとは、先輩、後輩を超えた、いい関係だと思った。



「ゼログラムの花束」

宇治の視点で。

由鶴との接点があるのかと思ったが、それはなかった。

時代系列からいくと、こちらの話の方が先なのかな。


「赤ちゃんプレイお化け屋敷」ってなんなの?と思ったけど、昔の母親のことを思い出すことになったし、こんなことをいっしょにできる、心置きない友だちがいるってことを言いたかったのかも。


小さい頃別れた母親に対する想いが描かれている。



どちらの話も、今の自分を受け入れ、未来へ向けて進もうとするところがよかった。



言葉の表現の仕方が巧み。とてもいい。

つい、書き写してしまった。



糸の抜けてしまった針でガーゼを縫い進んで行くような、浮ついた勇ましさを家族そろって空回りさせながら ……〉p20


手持ちの札から、経験や人間性の披露のタイミングを得たカードを切っていく七並べで、ひとりだけUNOのカードを扇に広げ持っているような気分だった。〉p89


〈半年前まで、人が住んでいた家だという。実際に足を踏み入れてみると、つくりは古いけれど清潔で、くすくすと肩をたたいてくるような明るい空気に満ちていた。〉p140


お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐


汽水域

岩井圭也 双葉社 2025年2 月



 

 

亀戸で複数の死傷者を出した無差別殺傷事件が発生。犯人の深瀬という男は逮捕後、「死刑になりたかった」と供述している。
事件記者の安田賢太郎は週刊誌での連載のため、深瀬とかかわりのある人物にインタビューしていく。彼の人生を調べていくうちに、不思議と共感を覚えていく安田。
しかし、安田の執筆した記事によって、深瀬の模倣犯が出現して…。社会との繋がりを失った人々の絶望と希望を紡ぎ出す、迫真のサスペンス。





無差別殺傷事件を事件記者の安田が取材をしていく話。


犯人は捕まっているが、この犯人深瀬が、なぜ、このような事件を起こしたかにせまる。


わけもなく殺された家族にとっては、深瀬に事情があったとしても受け入れることはできないだろう。



安田の記事には、深瀬の過去を書いた記事かあり、殺人鬼ではなく、同じ人間とするような内容もあり、世間から、バッシングを うける場面もあったが、事実を知ることで、こういう事件が今後起こらないようにするためにも、安田は、真実を求めて記事を書く。




深瀬と父、安田と父、安田の離婚した相手との息子海斗と安田。

父と息子の確執が描かれていた。


ラストの安田と海斗との面会の時の会話がよかった。


汽水域とは、淡水と海水が混ざり合っているところ。

人を殺すか殺さないかは、あいまいで混ざり合っている。踏みとどまれるかどうかは、ささいなことで決まるのかもしれない。



気に入り度⭐⭐⭐⭐



あんずとぞんび

坂城良樹 ポプラ社 2025年4月



 

 

川をはさんだ向かいの町に、母と引っ越してきた小学生のあんず。いじめられていたあんずを助けてくれたのは、同じアパートに住むぞんびのおじさんだった。
孤独を受け止められないあんずと、孤独とともに生きるぞんびのおじさん。
お互いの存在が、それぞれの人生へのかすかな光となる。





パンデミックが起きて、未知のウイルスにより感染すると「ゾンビ」になる。ゾンビには、「あぶない方」と「あぶなくない方」がいて「あぶなくない方」 を差別してはいけない。
そういう設定。



小学生のあんずが学校でいじめられていたとき、助けてくれたのはゾンビのおじさん。
肌の色がうすむらさきのおじさんを最初こわがっていたあんずだが、次第に打ち解けていく。

ここまでだと、ほのぼのとした感じなのだが、差別による大人の事件が起きる。

このゾンビという存在は、現代社会の低層の人たちや外国人に置き換えると、私たちの中にある差別意識をあらわしているように思う。


あんずはいじめらレている同級生を助けてるため、スピーチコンテストに立候補する。


あんず がスピーチしたのは本選の会場ではなく……

そのあんずのスピーチが心に沁みた。



気に入り度⭐⭐⭐⭐


二人の嘘

一雫ライオン 幻冬舎 2021年6月


 

 

女性判事・片陵礼子のキャリアには、微塵の汚点もなかった。最高裁判事になることが確実視されてもいた。そんな礼子は、ある男のことが気になって仕方ない。かつて彼女が懲役刑に処した元服役囚。近頃、裁判所の前に佇んでいるのだという。判決への不服申し立てなのか? 過去の公判資料を見返した礼子は、ある違和感を覚えて男のことを調べ始める。それによって二人の運命が思わぬ形で交わることになるとも知らずに……。





最初、法廷ものだと思って読み始めたが、後半は、恋愛ものに変わっていった。




33歳の礼子。
東大を首席で卒業し、司法試験を一番の成績で合格、判事となった。
誰もが振り向くほどの美女でもある。

判事としての仕事も忙しいだろうに、取材、TV出演と大変そう。

その上、家では、 料理を作り、夫の 親に届けているなんて、なんてできた人だろうと思った。

しかし、読んでいくうち、この結婚相手と義母が、いやなやつってことや礼子の生い立ちがわかってくる。

 礼子は、心にふたをして、今まで生活してきたのだろう。

ある時、
裁判所の門の前に立ち、裁判所を見つめているひとりの男がいると知らされる。
礼子は気になり、昔の裁判記録を 探すが……

この男との出会いが礼子を変えていく 。

人間としての感情を取り戻したというべきだろう。


礼子が 以前、判決を言い渡した事件の真相 にドキドキし、
礼子の恋の行方にハラハラした。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐