中にいる、おまえの中にいる

歌野晶午 2025年7月



 

 

〈一気読み大賞〉第1位の前作『間宵の母』の続編。
前作で孫娘の思考を含め身体を乗っ取った間宵己代子が、今度は寄生先を、自分に復讐しようとしていた十八歳の青年・栢原蒼空に乗り換え「生きることこそわが宿業」と、なおも生き続けようとする。
著者最恐のホラー・ミステリー。書き下ろし作品。




間宵の母 」の続編

内容忘れていて、どうしようかと思ったけど、最初に人物紹介があり、思い出してきた。

〈ボールペンで……〉で終わってたんだっけ。



孫娘の思考を含め身体を乗っ取った間宵己代子が、孫娘が亡くなったことにより、今度は自分に復讐しようとしていた十八歳の青年・栢原蒼空の身体に移る。

ところが、蒼空の思考を操ることが出来ないまま、蒼空に入りこんでいる状態。

蒼空が話さないと巳代子とコンタクトが取れず、ぶつぶつ言っている蒼空はまわりからは怪しい人と思われている。



長年生きてきて、知識も豊富だが、古い考えの巳代子と、18歳と元気だが、世間のことはあまり知らず、金欠の蒼空。

このふたりの共同生活(?)


敵対関係だったふたりなのに、協力して、お金を稼いだり、ある者から追いかけられるのを逃げたりと協力しあっている。



ふたりの会話が コメディのようでおもしろかった。



巳代子を追い出すため、新しい寄生先をさがし、試してみるが……



ラストのオチ、そうきたか。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐



蒼のファンファーレ

古内一絵 小学館 2017年7月



 

 


藻屑の漂流先」と揶揄されていた緑川厩舎のメンバー達。
廃業寸前だった彼らが、芦原瑞穂という女性騎手の真摯な姿勢と情熱で生まれ変わり、G1の桜花賞に挑戦、惨敗した翌年。
場違いな超良血馬がやってくる。馬主はマスメディアでも有名な風水師。
何もかも謎めいている彼は、厩舎を立て直すきっかけとなった馬(フィッシュアイズ)との勝負を望んでくる。その狙いとは・・・・。
母との関係に揺れる誠、初めての恋愛感情に戸惑う瑞穂、昔の恋人と出会ってしまう光司・・・。
様々な出来事、思いを乗り越えて、再び心が一つになった厩舎のメンバー達。目指すのは、再び、G1。チャンピオンズカップ。
心に傷を抱えたはみ出し者たちが再び一丸となって臨む、大きな大きな夢の行方は・・・?






有名な風水師ミスター-ワンの良馬ティエレンが厩舎にやってくる。
彼は、瑞穂に乗って欲しいと希望し、フィッシュアイズと対決しようとするが……




馬にも心がある。瑞穂に対し、

 〈自分はティエレンよりも優秀。それなのに、自分を差し置いてティエレンを選んだお前はバカだ。〉

強情でプライドが高いフィッシュアイズのつぶやき。

瑞穂のことを信頼していたのに、裏切られた思いがそこにあるのだろう。

なんかカワイイなと思う。



光司の昔の恋人、光司の母親、誠の
母親が登場、新しい展開があった。


前回で少し明かされた過去が、今回、重くのしかかってくる。

しかし、受け止めたのは、厩舎の人たちだった。



ゲンさんが言う。

わしの痛みなど、お前が受けてきた痛みに比べればどうということもない〉

いつも口はわるいけど、心から誠を応援しているのがわかる。


光司はおかみさんのこと、許せるといいな。



女性ジョッキーというのは、人数も少なく、なかなか認められない存在であるが、瑞穂の情熱が みんなの気持ちを変えた。


レースはドキドキだった。

一丸となって、フィッシュアイズを応援している。

ひとつの目標に向かってみんなが一体となる。

こういう話に私は弱い。



お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐



風の向こうへ駆け抜けろ

古内一絵 小学館 2014年1月



 

 

芦原瑞穂(18歳)は地方競馬界にデビューした、数少ない女性騎手。敬愛する亡き父親への思慕から競馬界に身を投じた。だが、彼女の受け皿となったのは今にもつぶれそうな「藻屑の漂流先」と揶揄される寂れた弱小厩舎。そこにいる調教師、厩務員たちは皆それぞれが心に傷を抱え、人生をあきらめきったポンコツ集団だった。
弱小厩舎のため強い競走馬も持てず、さらなる嫌がらせを受け、困っていた矢先に出合った一頭の馬。虐待により心身共にボロボロだったこの馬も懸命な介護と歩み寄りにより、生まれ変わったかのような素晴らしい競走馬に変貌を遂げる。当初は廃業寸前だった厩舎も、瑞穂の真摯な努力と純粋な心、情熱から、徐々に皆の心は一つとなり、ついには夢のまた夢である狭き門、中央競馬の桜花賞を目指すまでになる。が、その行く手には様々な試練が待ち受ける。温かな絆でつながった彼らの運命は…?
偏見、セクハラ、虐待、裏切り、老い…。様々な理由から心に傷を抱え、人生をあきらめかけている人間達の起死回生ストーリー。人は何歳からでも成長できる、そして人生はやり直せる。すべての方々に読んでいただきたい、人生への応援歌となる1冊です。






競馬に興味がないのでスルーしていた本だけど、絶賛している方がいたので読んでみた。


競馬教育センターを卒業後、鈴田市競馬事業局に招聘された瑞穂。
成績を見込まれてのことと思っていた瑞穂だが、女性ということで、広告塔を担わせるアイドルとしての少女ジョキーだった。

その厩舎には、

80過ぎの老人カニ爺
酒 臭い酔っぱらいの山田のゲンさん
究極に愛想の悪い少年、アンちゃん(誠)
いつも遅刻してくるトクちゃん
この風変わりな厩務員たち
そして、調教師の光司
彼らは、何らかの問題を抱えていた。

瑞穂は、最初、歓迎された存在でなかったけれど、誠実に努力を重ねるうち、その情熱に、厩務員達の信頼を得ていく。


そして、新しい馬との出会いが瑞穂を成長させた。


心を込めて接していると、人も馬も気持ちが通じあう。

人と馬との強い信頼関係がいとおしい。


みんなが一体となっていく過程がよかった。



お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐

星空としょかんの青い鳥

小手鞠るい 作 

近藤美奈 絵

小峰書店 2024年9月



 

 

悲しい物語をハッピーエンドに変えてくれる不思議な図書館。「星空としょかん」へようこそ!
幸せって、どんな色をしてるんだろう?
小学3年生になった森野つぐみの週末の日課は、星空としょかんに行って、好きな本を読むこと。ある日、としょかんのおにいさんが、軒下につばめの巣があることをこっそり教えてくれました。巣には親鳥と、いくつかの卵が! そこで、つぐみはある計画を思いつきます。小学校の課題に、これから一年間つばめの巣の様子を観察して、日記に書くこと。やがて、つばめの成長を見守るつぐみにも、思いがけない巣立ちの時期が訪れようとしますが……。
メーテルリンクの名作『青い鳥』を、小手鞠るいさん風に語りなおしました。





図書館の紹介コーナーに置いてあったので手に取った。

「星空としょかんシリーズ』と知らずに読んだが、この話だけでも楽しめた。



小学3年生のつぐみは、

「ほんとうの家族じゃない」と言われて、家族とは何かを考える。


親と離れて生活する子ども達の様子が生き生きと描かれていた。

ルナママ、姉、兄のことが大好きで、仲良く楽しくしているのが目に浮かぶ。


離れて暮らしていた母親が来て、試しに生活することになった。

自分の都合で急に来て、ママと呼んでと言われても…

その時の戸惑いの気持ちもリアルに描かれる。


つぐみが感じる幸せがいっぱいあふれた物語だ。


このシリーズの他の本読んだら、星空としょかんのこと、もっとわかるかな?


お気に入り度⭐⭐⭐


人魚が逃げた

青山美智子 PHP研究所 2024年11月


 

 

ある3月の週末、SNS上で「人魚が逃げた」という言葉がトレンド入りした。どうやら「王子」と名乗る謎の青年が銀座の街をさまよい歩き、「僕の人魚が、いなくなってしまって……逃げたんだ。この場所に」と語っているらしい。彼の不可解な言動に、人々はだんだん興味を持ち始め――。
そしてその「人魚騒動」の裏では、5人の男女が「人生の節目」を迎えていた。12歳年上の女性と交際中の元タレントの会社員、娘と買い物中の主婦、絵の蒐集にのめり込みすぎるあまり妻に離婚されたコレクター、文学賞の選考結果を待つ作家、高級クラブでママとして働くホステス。

銀座を訪れた5人を待ち受ける意外な運命とは。
そして「王子」は人魚と再会できるのか。
そもそも人魚はいるのか、いないのか……。




現実の 世界と 童話の世界がかみ合って、新しい世界を作っている。
ひとつひとつの話の中に、心に残る言葉がちりばめられている。

人魚のおとぎ話、いろんな解釈ができるものだ。

 最初の話に登場した人物が、次の話の主役になっていて、話がリンクしているのもよい。

ひとつの気づきが、自信へとつながり、新しい一歩を踏み出そうとする姿がよかった。

現実とも、ファンタジーともとれるその曖昧さが、この物語の魅力だ。

お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐

明日もいっしょに帰りたい

織守きょうや 実業之日本社 2025年8月



 

 

やめてよ。恋なんかしないでよ。塩野の気持ちに気づいたときから、私はずっとそう思っていた。言えるわけがないけれど。
誰かのために卵焼きを作りたいなんて、そんなこと考えないでほしい。
料理なんてできなくたっていい。私がなんでも作ってあげるから。
誰かのために可愛くなんて、ならなくていい。塩野はそのままでいい。デートだって私とすればいい。どこにでも行くのに。
置いて行かないで。
(本文より)



女性どうしの友情?恋愛?を描いた短編集。


椿と悠

高校生の椿と悠。

それぞれの視点で描かれ、お互いが同じ男の子のことを勘違いしている。



友達未満

デザイン業界の話。

同性愛者というだけで、変な目で見られる?

大切に思うからこそ、友達でいようと決めるが……。


変温動物な彼女

大学の聴講生の珠璃は、普通に見えるように努力してきた。その大学で、以前アルバイトしていた喫茶店の常連客だった湯川雪と再会する。


この話が一番好き。


いいよ。

高校生の頃、松風と清良と三人でいっしょに行動していた真凜だったが、清良が、告られるのが疲れるというので、真凜は、清良の恋人のふりをする……


 「いいよ。」という返事が返ってくるのかドキドキだった。


相手のことを可愛いと感じる。

可愛いから好きなのではなく、 好きだから、可愛いと感じる……


相手のことを考えてドキドキしている様子が微笑ましかった。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐

パンダより恋が苦手な私たち

瀬那和章 講談社 2021年6月



 

 

動物たちの求愛行動が、恋の悩みをスパッと解決!?
イケメン変人動物学者 × へっぽこ編集者コンビがおくる、新感覚ラブコメディー!


「それでは――野生の恋について、話をしようか」
月の葉書房の「リクラ」編集部で働く柴田一葉。夢もなければ恋も仕事も超低空飛行な毎日を過ごす中、憧れのモデル・灰沢アリアの恋愛相談コラムを立ち上げるチャンスが舞い込んできた。期待に胸を膨らませる一葉だったが、女王様気質のアリアの言いなりで、自分でコラムを執筆することに……。頭を抱えた一葉は「恋愛」を研究しているという准教授・椎堂司の噂を聞き付け助けを求めるが、椎堂は「動物」の恋愛を専門とするとんでもない変人だった!
恋に仕事に八方ふさがり、一葉の運命を変える講義が今、始まる!




TVドラマ化されるというので読んでみた。


動物の求愛行動をもとに、恋愛相談に応じるという、今までにない話。

動物の求愛行動も人の恋愛模様もおもしろかった。



ファッション誌を刊行している出版社に入社したはずが、ファッション誌は廃刊となり、夢はなくなるが、その出版社で働く柴田一葉。

イケメンだけど、動物の求愛行動にしか興味のない社会行動学を専門とする椎堂司。

昔有名だったが、いつの間にか芸能界から消えた伝説のスーパーモデル灰沢アリア。

他、紺野先輩、カメラマンの瑞希、一葉の姉等の登場人物の恋の話。


アリアになりきって書く一葉のコラムが、動物の求愛行動と絡めての返答がおもしろく、また、ズバッと言い切る、容赦のない返答は、相談者を鼓舞していて、気持ちよかった。


一葉が仕事で成長していく姿がいい。
また、椎堂やアリアが、一葉と関わることで、変わっていくのもよかった。

ランナウェイを颯爽と歩く姿が目に浮かぶ。

お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐

失われた貌

櫻田智也 新潮社 2025年8月



 

 

山奥で、顔を潰され、歯を抜かれ、手首から先を切り落とされた死体が発見された。不審者の目撃情報があるにもかかわらず、警察の対応が不十分だという投書がなされた直後、上層部がピリピリしている最中の出来事だった。
事件報道後、生活安全課に一人の小学生男子が訪れ、死体は「自分のお父さんかもしれない」と言う。彼の父親は十年前に失踪し、失踪宣告を受けていた。
間を置かず新たな殺人事件の発生が判明し、それを切っ掛けに最初の死体の身元も判明。それは、男の子の父親ではなかった。顔を潰された死体は前科のある探偵で、依頼人の弱みを握っては脅迫を繰り返し、恨みを買っていた男だった。





捜査係の日野が後輩の入江と共に殺人事件に取り組む。
二つの殺人事件、失踪事件が絡み合っていく。
地道な捜査で、事実が少しづつ明らかになっていく話は、先を読まずにはいられない。

小学生の隼人のまっすぐなところ、守ってあげたいと思ってしまう。大哉との友だち関係がいいなと思う。



〈〇〇を救いたいと願うなら、手伝えるのは罪の隠蔽じゃない。すべて壊れたあとの再生だ。〉


事実は事実として受け止め、その上で、再生の手助けをする。


日野のやり方があたたかいと思った。


ところどころの会話 に笑える。

重い内容の緩衝材となっている。


どうでもいい話だけど、
「ブールバード」という店名、私も青い鳥と思った。


どんでん返しというより、おおよその見当はつくのだが、そこに至る過程や、日野の人間性、羽幌刑事との関係などに読み応えがあった。

お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐


ポップ-ラッキー-ポトラッチ

奥田亜希子 U-NEXT 2024年4月



 

 

相田愛奈は、正しいことがなにより強いと信じている。無職の彼女の銀行口座には、幸運に得た約2億円があるにもかかわらず、節制した生活を続けている。その一方で、福祉団体等には多額の寄付をしていた。
そんな愛奈のもとに、無職かつ浪費家の従姉妹・忍が転がり込んできた。さらに、Amazonの<ほしい物リスト>で約3万円分の品を贈った相手から、お礼らしいお礼がないことに愛奈は気づく。
なぜ? どうして? 数々の出来事が正しさセンサーに引っ掛かり、悶々とする愛奈の日々が始まった。





2億円もの宝くじが当たったら、どんな使い方をするだろう?



正義感が強すぎる愛奈の部屋に、従姉妹で押しにお金を使う浪費家の忍が転がり込む。


正反対のふたりの共同生活は、どんな感じになるのか。



寄附すること。その見返りを求めることとは?

贈与の返礼は必要か?


いろいろ考えさせられる内容だった。



愛奈のように正しくは、生きにくい世の中だろうなと思う。


忍は、愛奈に反発しているようであるが、高校の 修学旅行のエピソードから、思ったより愛奈に親切なのだと思った。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐

最後のページをめくるまで

 水生大海 双葉社 2019年7月




 

 

小説の、最後の最後でおどろきたい方、ぜひどうぞ。
「どんでん返し」をテーマに描いたミステリー5編。

ベスト本格ミステリ2018に選出された「使い勝手のいい女」のほか、
「わずかばかりの犠牲」「骨になったら」「監督不行き届き」「復讐は神に任せよ」と、どの短編もラストで景色が一変します。



「使い勝手のいい女」

別れた智哉が訪ねてきて、お金を借りたいと 抱きしめてきた。手にしたシチューボールを振り下ろす。

その後、智哉の恋人であり、友だちだった加奈が訪ねてくる。



「わずかばかりの犠牲」

詐欺の受け子をしている大学生の諒。

公園で知り合った 老人が詐欺にあっているのを阻止するが、そのことで窮地に陥る。


「骨になったら」

妻の葬儀。

火葬で骨になったら、DNA判定もできないはず……


「監督不行き届き」

「いつ別れるんですか?」と夫と結婚するという城田という女が訪ねて来る。



「復讐は神に任せよ」

娘-淋を交通事故で亡くす。

事故を起こした男はつかまっていたが、事実は違うとその男の家族に事実を話してもらおうとつきまとう。



最後に違う結末が待っていて、おもしろかった。


お気に入り度⭐⭐⭐