永遠猫の祝福

清水晴木 実業之日本社 2025年9 月



 

 


生きるのに、誰かの許可なんて必要ない」
――400年を生きる猫が導く、令和最愛のおとぎ話。


人の間に生き、なによりも深く人を愛した猫は、今日も誰かの心に「生きる意味」を問う……。

愛情への渇望に揺れる、母と二人暮らしの中学生・景奈がある日出会ったのは、尻尾の長い、ベージュと黒のマーブル模様の猫だった。
エルと名乗る「彼」は、舐めて瞬時に傷を癒やし、人語を操る不思議な力を持っていた。
「私はもう四〇〇年 生きている」

なぜか老いもせず、病に倒れることもなく。
永遠にも似た時間を生きるエルが、母や友との向き合い方に悩む景奈に問いかけた言葉とは――。






 傷を治せる、しゃべる、400年生きているという永遠猫。
中学生の景奈との交流を描いたほほえましい話だと思って読み始めたが……


死と向き合う人との出会いの中で、 生とは何かを問いかける話だった。

そして、 親子の関係の話は、涙を誘う。

表紙の装丁、読み終わってからみると……
わあ、ステキ !

〈冬〉を読んでから、〈春〉を読み返したくなる。



永遠猫、400年も生き続けるということは、苦労も多かっただろう。
考えることも、いろいろあるだろう。
けれど、景奈と出会えてよかったよ。


永遠猫との出会いが人生を変える、ステキな物語。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐

天才望遠鏡

額賀澪  文藝春秋 2025年7月



 

 

才能を持った人間なんて、実はたくさんいる。でも、天才は違う。天才は、才能を見つけた連中が、一方的にそう名づけるんだ」

デビュー10年。爆発的に売れることはないけれど、きちんと締め切りを守り、編集者に無理難題を押し付けずに着実に仕事をこなす作家・星原イチタカ。一方、同期デビューの釘宮志津馬は偏屈で横暴であることを自覚しながらも、大人気作家であることから周囲に丁重に扱われることに対し憤りを感じている。イチタカの才能を軽んじる向きもある中、釘宮だけが彼の「天才」性を”観測”していた。

藤井聡太七冠の記録を塗り替え、史上最年少でプロ入りした中学生棋士、タピオカミルクティーの味もマカロンの味も知らない、かつての「氷上の妖精」、気がつかぬままに抜群の歌声を持ち、オーディションを駆け上がる天才中学生……。

描かれるのは5人の天才たち。彼らと、彼らを観測し続けた人々の姿が紡がれる連作短編集。





将棋のプロ棋士、フィギュアスケーター、歌手、陸上の選手、作家。


天才と呼ばれた人たちの悲喜こもごもを描く。


最初、天才と騒がれても、その能力をずっと維持することができる人はまれだし、いつかは引退の時期が来る。


才能があっても、家庭の環境から、その道をあきらめなければならない人もいる。

それを乗り越えられるのか。




競馬に関するこれらの本、

を読んで、その感動がまだ残っている今、競馬に関することはよくわかり、「カケルの蹄音」は共感できた。

馬の力って偉大。



一瞬を見逃さないカメラマンの多々良。

ボランティアで勉強を教えているナナオ。

怒りっぽくて社会性はないけれど、イチタカが唯一の友である人気作家の釘宮。

彼らが印象に残った。


作家にしても、プロ将棋にしても、ずっとその世界に居続けることが偉大なことなのかも。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐




サバイブ!

岩井圭也 祥伝社 2025年8月



 

 

なにかを成し遂げたいのなら、死ぬ気で働かないといけない時期が必ずあると思うんだ。
黒川虎太郎は大学四年生。大手企業からの内定も獲得し、堅実な人生を送っていく――はずだった。だが、ステージⅣの悪性リンパ腫になったことで人生が一変。絶望に襲われるコタローを救ったのは『生きるための起業』という一冊の本だった。治療が奏功し、なんとか死を免れたコタローは退院と同時に、「生きるために」起業することに。高校時代の同級生、白井博と二人で会社を立ち上げたものの、事業内容も資金の調達先も何も決まっていない。決定したのは社名――「サバイバーズ」だけ。動画制作会社としてスタートを切ることにしたものの、行き当たりばったりすぎる経営で、この先、生き延びることができるのか……!?





装丁を見て、今までの岩井圭也さんと雰囲気が違うなあって思った。

起業の話だつた。


大学4年生の黒川虎太郎は、ステージⅣの悪性リンパ腫と診断される。治療の場面は、とてもつらそうだった。

死ぬかもしれない毎日の中で、「生きるために起業」という動画に出会い、何もビジネスのアイディアがないまま起業を決意する。


えっ、スキルも 資金も人脈もない。そんなので起業して大丈夫?と心配した。

しかし、それが生きる糧になるのなら、あり 、と言う気持ちにもなった。


そんな計画性も何もない起業 だから、失敗することは多くあったけれど、 仲間が増え、困難を乗り越えていく。


できすぎ感はあったけれど、時間も忘れて働いている姿は、ひとつの目標に向かってみんなの心がひとつになっていて、輝いてみえた。


たとえ百負しようが、一勝できればおれたちの勝ちだ」


多重下請け構造をなくしたいという思いはぶれない。

熱量を感じた。


挑戦し続ける彼らを応援したい。


沙彩さん、病気、治りますように!


お気に入り度⭐⭐⭐⭐




新!店長がバカすぎて

早見和信 2022年8月 角川春樹事務所



 

 

宮崎の山奥に異動になっていた山本猛元店長が、 三年ぶりに、吉祥寺本店に店長として復帰した。
張り切る店長だが、相変わらず、人を苛立たせる天才だ。しかし京子は、心の中で「お帰りなさい」とつぶやいた。
そんな中、本や書店を取り巻く環境はますます厳しくなってきたが、 それでも京子は、新人作家の才能に出逢い、打ちのめされ、 好きな作家の新作に心躍らせ、時には泣き、笑い、怒り、日々戦っています。
スタッフの磯田さんや、覆面作家だった大西先生や神楽坂で小料理屋を営む親父さんや、優しき先輩たちに、応援を受けながら――。
小説と書店の未来を、仕事の意味を、生きる希望を改めて深く問い直す、第二弾。





店長がバカすぎて

の続編


宮崎に異動になっていた山本猛元店長が 帰ってくる。

相変わらず、朝礼が長く、つかみどころがない。

店員さんたちのイライラがつのる。


谷原京子は契約社員から正社員となり、磯田さんというスタッフが加わっていた。


物語となってる山本店長の話、 今の山本店長と印象が違うって思ったのだが……


今回は、谷原さんと専務との絡みがおもしろかった。


覆面作家の話が今回もあり、楽しめた。


お気に入り度⭐⭐⭐


デモクラシーのいろは

森絵都 KADOKAWA 2025年10月



 

 

「うち、知りたいんです。民主主義って何なのか」

東京・下落合、戦火を逃れた邸宅に集められた4人の女性。
GHQの一声で、彼女たちの人生を変えるハチャメチャな同居生活が始まった。

1946年11月、日本民主化政策の成果を焦るGHQがはじめた “民主主義のレッスン”。いやいや教師役を引き受けた日系2世のリュウ、この実験を発案した仁藤子爵夫人、生徒として選ばれた個性豊かな4人の女性――それぞれの思惑が交錯する中、風変わりな授業が幕を開ける。希望と不安、そして企み……。波乱の展開が感情を揺さぶる、今年一番の超大作!




これはおもしろかった。

1946年11月
仁藤子爵夫人の豪邸で行われた6カ月間の実験。
日系2世のリュウが講師となり、女性4人が集められ、民主主義の講義が始まる。

生い立ちも性格も違い、一癖も二癖もある4人の女性たち。

真面目なリュウは、彼女ら に民主主義の講義をするが、誰も意見を言わないし、ずっと寝ている女性もいた……
こんなことで、うまくいくのか?



最初ばらばらだった女性らが、いつしか心を通わせるという筋書きは、思い描いた通りなのだが、その過程が実に面白い。

後半、視点が変わり、今までの出来事の答え合わせができる。
想像しえなかった彼女らの策略にびっくりだつた。

民主主義とは何かのそれぞれの答えにほっこり。

それぞれの希望に向かって動き出した女性達とリュウを応援したい。

お気に入り度⭐⭐⭐⭐

問題。以下の 文章を読んで、家族の形を答えなさい

早見和真 朝日新聞社 2025年3月



 

 


小学6年生の十和は、家族の幸せの形がわからない。楽しい母、やさしい父、かわいい妹。それなのに、どうして心がこんなに荒むのか。苛立つ十和に対して、母はなかば強引に中学受験を決めてしまう。このわだかまる気持ちをぶつけられるのは、LINEで繋がる「あの人」だけだ――。ここから逃げ出したい。その思いは大阪で一人暮らす祖母へと向かい、十和は大阪の私立中学に進む決意をする。4人が離れて暮らすことに父は反対するが、あることを条件に十和の希望を受け入れるのだった。

バラバラになりそうな一家は、この問題を解決することができるのか? 中学受験を通して家族の成長を描く感動作。




小学6年生の十和は、恵まれた環境にいながら、気持ちがすさんでいる。中学受験の塾に通いながら、やる気が出ない。行きたい学校もなく、友達の野口が塾にいるから、塾に通っているような状態だった。

それが、
十和はあることをきっかけに、熱心に勉強するようになる。

 父が娘のためにそこまでできるとは!
とてもいい人。

それに比べて母は……
十和に中学受験させようとしたにもかかわらず、成績とかに無頓着だつた。


母の思惑を知った時、家族を大切にしたいという熱い思いを感じた。


あやしい噂がある野口のことや、十和がラインで悩みを相談している大人の男性など、モヤモヤする内容だったが、そういうことだったのね。

中学受験を通して家族がまとまっていく。

題名は、家族について考えさせる、読者に対しての問いかけでもあったのだな。




店長がバカすぎて

とのコラボがあった 。

ちょうど、再読したところだったので、記憶が新しく、山本店長や谷原さんの登場にわくわくした。




お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐


審美

西尾潤 小学館 2025年12月


 

 

戦後を生き抜いた美容家の凄絶な一代記

「美」とは選び取るもの――捨てたものの上にしか、成り立たない。

長崎に生まれ、戦争に翻弄されながらも、己の運命を切り開いていった美容家・輝山マム。
斬新なアイデアと卓越した美粧技術で一時代を築いた男の凄絶なる人生とは――。
戦後をたくましく、そして麗しく生き抜いた“美容モンスター”の一代記。






美容家として活躍した輝山マムの人生を描く。


長崎の原爆に始まる戦争の話は、 読むに耐えないものがあった。

母を失い、兄も亡くなり、父は戦死。妹とふたりで東京を目指す。


輝山千代子の養子となるまでの子ども時代の暮らしは、どんなにつらかっただろう。

同じく養子となった勝子と共に、美容学校で勉強し、美容師免許の資格を取得する。


戦後、おしゃれに飢えていた日本人により、輝山の店は繁盛していた。

しかし、千代子は、新興宗教にのめり込み……と、輝山化粧品で働くマムにとって順風満帆ではなかった。


それでも美を追求し続ける。


美容とは、体や心を整えることから始まるという美容論。

肌や髪の手入れの方法を解く。

一方で、傷を隠す 化粧の技術には、目を見張るものがあった。


凄絶な人生を送る中で、強く生きぬき、美容に対しての強い思いを感じた作品だ。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐




灼熱のメイダン

古内一絵 小学館 2025年3月



 

 

女性ジョッキーとして、かねてからの大きな願いを叶えた芦原瑞穂。
それは、夢だった中央競馬の最高格付けG1レース・チャンピオンズカップを制したこと。宿願を果たした瑞穂だったが、馬を、居場所を、厩舎を護るため、勝利に浸っている時間はなかった。日々はめまぐるしく過ぎ、次の大きな挑戦が目前に迫ってくる。それは、「ドバイワールドカップ」。メイダン競馬場で熱狂の中行われるレースから、昨年チャンピオンズカップを勝った名馬フィッシュアイズが招待されたのだ。「次世代を担う人になれ」・・・・・・。かつて瑞穂が、調教師の光司に言われた言葉。その言葉を胸に、渾身の熱意を込めていざレースに挑む瑞穂を始め、馬主や調教師、牧場主や厩務員などのスタッフたち。ライバルでもあり、同志でもある日本からの参戦者たち。そして、日本からそれぞれの想いを込めてレースを見守る人々。
多くの人の熱い心をのせて、華々しく火蓋を切ったレースの結果は。





蒼のファンファーレ

に続く第三弾。最終章。



地方競馬だから無理とか、女性騎手だから無理とか、そういうことに関係なく、誰でも、世界を目指すことができるんだと希望が持てる物語。


ドバイでのレースを成功させるため、みんなの熱意が感じられた。


今まで登場した人物の成長した姿が見られた。

引退していてタレント活動していた木下愛子までもが、このように関わってくるとは!


ドバイの様子は、作者が取材されたこともあり、臨場感かあつた。


レースの場面は、迫力がある。

みんなの心がひとつになった瞬間だ。



その後、馬たちは、それぞれの場所で、新しい人生(馬生?)を送ることになるが、 その馬の性格にあった所で安心した。


新しい出会いがあり、別れもある。そんな中で、人は成長していくのだと感じた作品。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐


ひきこもり家族

染井為人 光文社 2025年8月



 

 

不登校となり12歳でひきこもりとなった19歳の僚太。
母親と二人暮らしの大知はブラック企業で働き心を病んで、20年前からひきこもり44歳となった。
双方の家族がすがったのは、新宿にある「リヴァイブ自立支援センター」。
強引に自宅から引き出された二人は、すでにそれぞれのひきこもり人生から無理矢理引き出されていたほかの三人、50代の竹之内、40代の亜弥子、20代の玲とともに、元警察官が営む熊本の研修施設で囚人のような生活を強いられる。
施設長は辺見未知留というプロレスラーのような巨体の大女だ。悪魔のような彼女に監視され、逃げることもできず未来のない辛い日々が続く。






ひきこもりの人も、その家族の感情もリアルで、話にひきこまれた。



ひきこもりの息子を何とかしたいと、親は、リヴァイブ自立支援センターに依頼する。無理やり連れていかれる息子。息子のためと涙ながらに支援センターに託す。

しかし、そこはブラック企業だった。


母親が、まわりが見えず、息子を信じ、リヴァイブ自立支援センターを信じきっている様子が痛々しい。


支援センターでの生活は、ボランティアで鶏の世話と家事当番が決められていて、施設長は暴力を振るう厳しい人だった。


そんな中で起きた出来事……

こんな共有できることがなければ、気持ちが通じあうことがないのかと、残念な気持ちがあるが、心を開き、これからのことを協力しあう様子は、ひきこもりの人とは思えない行動力だった。



物語なので、最後はすっきりとした結末。神々しさを感じたほど。

おもしろかった。


実際には、

ひきこもる理由は人それぞれで、どうすればいいのか、解決することはむつかしいだろうと思う。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐




黄金と水飴のアパルトマン

瀬那和章 中央公論新社 2025年10月



 

 

僕たちは黄金をもっている。はずだった――

ここは、夢を追う若者たちの共同住宅〈アパルトマン黒猫〉。

イラストレーター、アイドル、書道家、脚本家……
自分の黄金(たったひとつの才能)を信じるアーティストたち。

生成AIの進化に芸術が脅かされる時代、彼らが手にした黄金は、いつまで黄金であり続けるだろうか――。

夢を失ったピアニスト・梨音は、アパルトマンの管理人になる。
芸術と真剣に向き合う住人たちとの交流が、彼女の心を少しずつ変えていく。



芸術家が今まで積み上げてきたものを、AIによって、簡単にコピーされてしまっては、たまったものじゃないだろう。

芸術と生成AIをテーマに書かれている。


イラストレーター、アイドル、書道家、脚本家が、導き出した答えは、みんながみんな受け入れられるものではないが、それぞれに考えて行動しているのは伝わった。



梨音は、ピアニストとして夢破れても、毎日、弾き続けていることはすごいと思う。

完全コピーできる演奏、それも能力だよ。


梨音は〈アパルトマン黒猫〉に住むようになり、住民たちと接することで、自分自身を取り戻していく様子は、よかった。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐