不妊治療でよく使われる薬のお話を何回かに渡ってさせていただいているところですが、ここまで、クロミフェンレトロゾールといった飲むタイプの排卵誘発剤についてお話ししました。


注射するタイプの排卵誘発剤についてお話しするに先立って、番外編としてお薬の剤型(投与経路)についてのお話をしています。

 

前回はお薬にはいろいろな剤型(投与経路)

代表的なものには

内服薬(錠剤やカプセル、粉薬など)

外用剤(貼り薬や塗り薬、座薬など)

注射剤(皮下注射、筋肉注射、静脈注射など)

 

があって、いろいろな剤型がある理由には薬物動態という考え方が基になっていますということをお話ししてみました。

 

そして、お薬の成分の薬物動態によっては飲み薬に向かないものもあるということもお話ししました。

 

 

 

今回は飲み薬には向かない成分について見ていきましょう。

 

前回のおさらいになりますが、薬を飲んでも消化管からうまく吸収されなかったり、全身をめぐる前に肝臓での代謝(初回通過効果)が大きな成分は飲み薬では十分に効果が期待できません。

 

そのような場合は内服以外の方法で投与することも必要になります。

 

 

(図は平田純生先生の薬剤師塾より引用させていただきました)

 

 

飲み薬以外ではまずは外用剤についてみてみましょう。

 

外用剤は皮膚に塗ったり、貼付したりするものや、肛門、腟に挿入する座薬、気管支からの吸入、鼻腔粘膜への噴霧、点眼・点鼻などがあります。

 

それらの外用剤は、その場で効果を期待したいものと、その場から吸収されて全身で効果を期待したいものに分かれます。

 

貼り薬や塗り薬は両方の特長があります。

かゆみ止めの塗り薬や、ねん挫した時に貼る湿布などは、その場所で効いてほしい薬ですね。

 

生殖補助医療でよく使われる卵胞ホルモンのエストラジオールを例に見ますと、エストラーナテープという貼付薬とジュリナという飲み薬があります。

 

エストラーナテープは皮膚に貼ることで、皮膚を通して吸収され血中に入り全身に作用します。

ジュリナは内服することで、消化管より吸収され血中に入り全身に作用します。

薬物動態のデータを見てみると、エストラーナテープ0.72mgを2日間貼付した場合と、ジュリナ1mg(2錠)を服用した時では、エストラーナテープの方が血中濃度がやや高いデータとなっています。(両薬剤の添付文書の薬物動態より)

これは吸収の効率や、初回通過効果の影響の大小が考えられます。

 

 

同じ外用薬でも点眼薬や喘息の吸入薬などは一般的に投与されたその場で効果を期待するものです。

 

また、鼻に噴霧するスプレーは鼻粘膜から吸収して血中に入ることを期待するものと、局所でアレルギーや炎症を抑えることを期待するものがあります。

不妊治療で使われるブセレリンは前者になりますね。

 

 

一方、座薬はといいますと、肛門(直腸付近)や腟に投与された薬剤は、その場所から吸収され血中に入ります。これらも初回通過効果を避けて全身での効果を期待するものです。

解熱鎮痛の座薬もそうですし、生殖補助医療で使われる黄体ホルモン(プロゲステロン)の膣座薬もそうです。

 

(膣座薬についてはその一部が直接子宮へ移行すると考えられているものもあります。肛門座薬にも肛門付近での炎症や鎮痛を目的とするものも一部あります)

 

 

注射は、直接血管(静脈)、皮下・筋肉内の毛細血管から吸収されますので、一番効率の良い投与法となります。前回バイオアベイラビリティ(生物学的利用率)という指標のお話をしましたが、静脈内注射は基本的に投与したお薬がすべて血中に入りますのでバイオアベイラビリティは100%となります。

 

 

いろんな剤型がある理由やそれぞれの特長についてなんとなくイメージしていただければと思います。

 

さて、いよいよ次回は注射による排卵誘発剤のお話しをしていきたいと思います。

 

 

以前の記事はこちらからお読みいただけます。

 

 

 

 

 

 

 

(文責:[生殖医療薬剤部門] 山本 健児 [理事長] 塩谷 雅英)

 

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