当院では診療とともに、生殖医療の発展に向けてさまざまな研究にも取り組んでいます。

今回は、当院の研究開発部門の大月らが2019年にFertility and Sterilityに発表した論文を紹介したいと思います。

タイトルは

「Noninvasive embryo selection : kinetic analysis of female and male pronuclear development to predict embryo quality and potential to produce live birth」

「非侵襲的胚選択:胚の質と生児出産の可能性を予測するための雌雄の前核発生の動態解析」

というものです。
 

 

 

 

 

体外受精で得られた受精卵(胚)を移植する際には、できるだけ妊娠、出産の可能性が高い胚を選択することになりますが、その方法としては、胚の形態(グレード)による評価や、胚の細胞の一部を取って染色体の変化を調べる着床前染色体異数性診断(PGT-A)などが行われています。

着床前染色体異数性診断(PGT-A)では、その胚の染色体の数的変化がわかるため、妊娠に至らない、あるいは流産してしまう胚を移植することを防ぐことが可能ですが、検査の際に、胎盤となる細胞の一部を採取することによって、胚がダメージ受けたり、胎盤形成が不十分となり着床がうまく起こらない、あるいは流産してしまうといった可能性が否定できません。

 

そこで、当院では胚培養時に撮影したタイムラプス動画を利用した、新たな胚選択の方法について検討を行いました。

 

(動画はイメージです)



染色体の数の変化は減数分裂時に起こることから、受精後、精子由来の核と卵子由来の核が形成され、見えなくなるまでの事象、(雌雄前核消失:PNMBD)に着目した動態解析を行ったところ、有用な結果を得ることができました。

PNMBD直前、4時間前、8時間前の雌雄前核形成過程の違いによって、正常胚、異常胚を定義し、出産率を比較したところ、正常胚による出産率は68.1%(IVF)、50.0%(ICSI)であったのに対し、異常胚では9.3%(IVF)、4.2%(ICSI)でした。

この結果から、タイムラプス観察による雌雄前核消失(PNMBD)の動態解析という、新しい侵襲を伴わない胚の評価方法により、出産の可能性が高い胚を選択できるようになるのではと考えています。

 

今後は、AI(人工知能)を使って、さらなる検証を行い、臨床での実用化を目指していく予定にしています。

 

 

以前の記事もご参照ください

タイムラプス培養で良好胚の選別はできるの?

当院の臨床論文が国際誌に掲載されました

 

 

文責:[不妊コーディネーター部門] 山本 健児  [理事長]  塩谷 雅英

 

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