川を渡らせるのは、仕事? それとも趣味?
ディオゲネスはギリシャの哲学者で、するどい皮肉な事を言うのが上手な人でした。
ディオゲネスが旅に出て歩いていきますと、川の岸につきました。
川の水はまんまんと、あふれそうです。
ディオゲネスは、はたと困って、岸に立ったまま途方に暮れていました。
この川のそばに住んでいて、旅人たちを助けて川を渡らせるのを仕事にしている男がいました。
ディオゲネスが困っているのを見たこの男は、そばへ寄って来て、ディオゲネスを自分の肩に乗せました。
そして向こう岸まで、親切に運んでくれたのです。
無事に川を渡る事が出来たディオゲネスは、親切な男にお礼をしたいと思いましたが、とても貧乏なのでお礼が出来ません。
「ああ、こんなに貧乏でなければ、この人にたっぷりお礼が出来るのに」
と、残念に思いました。
「どうやって、感謝をあらわせば良いだろう」
ディオゲネスは、すっかり考え込んでしまいました。
ディオゲネスがこうやって考え込んでいるうちに、相手の男は川の向こうに別な旅人が来たのを見つけると、さっさと川を渡って向こう岸へ戻りました。
そして、さっきと同じ様に肩に乗せて渡してやりました。
それを見たディオゲネスは、男に近づいて、こう言いました。
「わたしは、もうあなたにお礼をしたいとは思いませんよ。わたしがディオゲネスだとわかったから、親切にしてくれたと思ったのに、そうではなくて、あなたはただ、誰かれなしに川を渡らせるのが趣味なのだから」
おしまい