以前(と言っても2年も前ですが)PW4000シリーズの判定を試みる記事を出しました。

この記事、結局のところ「元々どれがどの型式のエンジンなのか確固たる資料がないから仮に外見上違いがあったとてわかんないよね〜」っていう何ともしょーもねえ結論に行き着いたのです。

 

これが色々細々と漁り続けた結果、少し根元をしっかりさせられそうな資料が見つかりました。

前もって断っておきますが、これだから外見判定ができるようになったとか、そういう話にはオチません。

あくまでその根拠を強固にできうる「過程」を求めたということです。

むしろ、別のところに課題(不思議)が見えたのです。

 

 

ええと編集画面では恐ろしく文字化けしていますが、ちゃんと見えているんですかね。

「全日空B777-300の運航を開始」という表題のプレスリリースのリンクです。

平成10年7月9日付発行、西暦で言いますと1998年、翌日から777-300が就航するという内容のものです。

このプレスリリースに諸元表が付されていますがここには..

「B777-200」の欄(もちろんこのころ777-200ERなど存在しない)にはエンジンはPW4074とあります。つまり1998年10月までに在籍していた777-200は全てPW4074ということになります。

し か し 本文をちゃんと読むと見過ごせない一文があります。

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エンジンは、B777-200に装備されているPW4074/4077と外形寸法は同じながら、推力を増大させるための設計変更が施されたプラット・アンド・ホイットニー社製のPW4090が採用されています。なお、PW4090エンジンを装備したB777-300を運航するのは全日空が世界初です。 (全日空プレスリリースより)

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PW4074/PW4077という2種類が併記されています。括弧書きながら"777-200ERなど存在しない"と申し上げたとおりで、非ERの777-200に2種類のエンジンが混在していたことを示唆しています。その2種混在の背景根拠はイカロス出版「日本の旅客機」に求めることができます。

 

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1997年7月導入の8号機から12号機(JA702A~JA706A)までの5機は推力増強型のPW4077を装備した国際線仕様機として受領し...

イカロス出版「日本の旅客機 2018-2019」より

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前回の記事ではPW4084説を否定しながらこの部分を引いたので少し目立ちづらいのですが、この記述とプレスリリースの発行年月を突き合わせるとJA702A~JA706Aは1998年のうちに導入されているので確実にその通りと読み取れるでしょう。

JA707Aはこのとき導入されていないので777-200ERの欄もなければ、間違って777-200ERが777-200のうちに含められていたとしてもPW4090の記述はそこにはないということですね。

 

今度は2007年のANA FACT BOOKの諸元表を引いてみましょう。

 

https://www.ana.co.jp/ir/kessan_info/annual/pdf/07f/07f_06.pdf より

 

777-200ERはPW4090、777-300ももちろん変わらずPW4090です。

あれ、777-200がPW4074になっています。PW4074/4077からPW4074に一本化されてしまっていました。

 

要するにPW4077が消えてしまったのです。

 

表記の問題か、実際に統一があったのか、今度はこれが問題になります。

2012年から777-200ERの国内線仕様機が新造機で導入され、これにはPW4074Dが装備されていますが2014年発行のレポートでも777-200ERはPW4090を装備していることになっています。2020年に至っては777-200/-200ERまとめてPW4074ということになっています。よってこのFACT BOOKの諸元にある型式は決して正確な状況を表しているとは言えないというのが現状の見解です。

 

ともかくもPW4077が消えてしまった問題は、少し追ってみる価値がありそうです。

 

[少し寄り道]

 

全日空が発行するレポートで興味深いのは2016年まで777-200/-200ERそれぞれ装備エンジンとしてPW4074/PW4090と分けられてたのに対し、2017年版からPW4074に表記が統一されました。2017年といえば最後まで国際線仕様で飛んでいたJA709Aがインター運用を終えた年で、その年の5月の出来事です。そして2017年レポートの性能諸元は「2017年6月末」の状況に基づき作られていることから、ここだけ見ると777-200ERがドメ転に当たってPW4074に換装したのではないか、という疑惑も持ちえます。

しかし反例としてこれらの機材からスプールアップ時に未だPW4090特有のハウリングが聞こえること、また諸元表の航続距離の欄も非ERのものに統一されていることは挙げられます。筆者は換装はさすがにしてないんじゃないかと思っています。

 

 

[本題に戻って...] 消えたPW4077

 

PW4077の記述がいつまであるのか、探してみましょう。

ちなみに非ERによる国際線運用がいつ終了したのか、これは筆者はよく知らないのですが、どうやら2004年の77W導入が回り回ってこれらの機材をドメ転に追いやったとのことです。

 

2005年度 環境報告書には777の装備エンジンとしてPW4077の記述が残っています。

しかし環境報告書は2006年度からCSR報告書に統合されてしまい、以降具体的な装備エンジンの記述がなくなってしまいました。

ANA Fact BOOKは2008年からの発行で、その時点でPW4077は資料から姿を消しています。

以降、公式のプレスリリース等においてPW4077装備の記述は(自分で調べられる範囲において)見つかりませんでした。

 

 

総論

旅客機が活躍途上でエンジンを換装することは滅多にない、というかほぼないと言っていいのが通例です。

近年の事例としては全日空がメキシコシティ線開設に備え4機の787-8のエンジンをRR Trent-1000Lに換装した、というくらいですが、これも従来のエンジンでは対応できなかったという事情があります。

PW4077はPW4074よりも推力が高いので、そのままのPW4077でも十分対応できます。素人考えではあえて換装してまで推力の低いモデルに変えるのか..?という疑問が解消しきれません。しかし冒頭に引いた拙文(拙ブログ?)のように両者が外見で識別できないので、ここは謎のままです。

 

どうも今回も結論ぽい結論に至れなくてすみません。

何かわかれば、随時追加しようと思っています。