2年ほど前に(あれからそんなに経つのかい)【大解剖】737-800という記事を出し、定期的にアップデートしてきました。
しかしついに字数制限を超え大規模なアップデートができない問題に直面したので、かといって頑張って噛み砕いたのに削除するのは勿体無いので与圧空調の話をこっちに引越させることにしました。
機種により全く同じではないのですが、およそ与圧の概念を知る程度には使えるかなと思います。
+α 与圧系統(AIR COND)
筆者は全くもって理系ではないので、できるだけ小難しい説明を避けて(できないだけとか言わないでくださいね)頑張っていこうと思います。
非常にややこしい仕組みなので(これは筆者のせいではない)、説明も若干長い(これは筆者のせい)ですがご容赦ください。
高高度を飛行する旅客機にとって、与圧装置は欠かすことのできない装置です。
高山病というのがある通りで人体は高高度環境(低酸素、低気圧)状態で長時間過ごすようにはできていません。
山よりもはるかに高い高度を飛ぶ機体では、機内の気圧を上げることでできるだけ地表に近い気圧環境を作り出す装置が備わっています。
逆に与圧が必要なのは人がいる空間と貨物室だけです。よってこれらの区画を圧力隔壁で区切っており、与圧区画、非与圧区画と分けることができます。
まさにこれが与圧装置であり、これの機能がかなり弱い(=設定与圧高度が低い)戦闘機などは必ず乗員は酸素マスクを装着しています。
戦闘機などはまず快適を求める必要がない上に装置の重量が運動性能を阻害するのでごく簡単なものしかついていません。
与圧はわかるとして、与圧装置とはなんなのか、これがまた難しいんですね。
与圧装置がもたらす状態(=仕組みとはちょっと別)は簡単に圧力鍋に置き換えることができます。
加熱すると鍋の内部の圧力は上昇していき、一定の圧力を超えると通気口を塞ぐオモリが暴れてその隙間から空気を逃しますね。
飛行機も複雑な仕組みを経て機内圧力を上げていき、後方のバルブから必要に応じ空気を逃すことで機内の気圧を保っています。
この点では大雑把には似通った仕組みといえます。
しかし与圧装置はあくまで「装置」なので故障のリスクが常にあります。
与圧されすぎる場合は圧力が上がりすぎということです。鍋でいうと蓋の蒸気を逃すノズルが塞がっていると空気の逃げ道が無くなり鍋が爆発しますね。あれと同じです。
逆に与圧されない場合、鍋に置き換えるとオモリが上がったままの状態になり、空気が抜けて鍋内の圧力が下がります。
つまりどっちにコケても危ない状態になるのは間違いありません。特に後者の場合に備え各座席のPSU内(後述)には酸素マスクが格納されています。
さて難しいのは圧力鍋でいう「加熱」にあたる部分です。飛行機は間違っても乗客を蒸したり煮たりするための乗り物ではないので、快適で安全な気圧と気温を作り出す必要があります。
「はて、気温はエアコンの仕事ではないのか」と思われたかもしれませんが、そこなんですよね。
与圧装置とエアコンは密接な関係にあり、ほぼ同じと言っても過言ではありません(ここがキモです)。
つまり与圧というのはなんなんと言われたら、機外の空気量より(望ましい気圧に必要な分の)多い空気量を機内に送り込み、また調整する”仕組み”のことです(これをやっているのが後述PACK)。
そしてその送り込む”温度”をどうするか、これが空調(エアコン)です。
なのでマニュアル類では与圧・空調を一言でまとめていて、それを”AIR COND(=エアコンディショニング)”と言います。
AIR CONDの源は空気なのでこれらの装置は基本的に空気を素材にそれぞれの仕事を果たしていく、というのが大前提です。
空調の動力源としてAPUとエンジンの2種類がありますが、ここではエンジンが作動しているものとします。
まず機体は空気を積んでいない(酸素マスク用酸素ボトルは別)ので、空気を利用するためには機体が空気を取り込む必要があります。幸い高速で低温の空気中を飛んでいるので空気の取り入れには困りません。それがエンジンというわけですね。
737が装備するCFM56はジェットエンジンのなかでもターボファンエンジンという部類に入るエンジンです。ここで少しだけターボファンエンジンの内部構造を知っておく必要があります。
まずエンジンのファンブレードが取り入れた空気は2つの道に別れて進みます。
一つはバイパス流といい、高圧タービンやらなんやらをとおらずそのまま後方へ抜けていく空気です。
もう一つがコア流といい、圧縮機で高温の圧縮空気にされた後、燃料を吹き付けられ、そしてタービンを経て後方へ噴射されていく空気です。
メインの推力になるのがコア流、そのまま流れていくのがバイパス流と大雑把に捉えれば今回は大丈夫です。
そしてこのコア流の途中でできる圧縮された高圧空気が天然にはない高温の空気ということになります。
エンジンのコア流から引っ張ってきた高圧空気(=抽気)のことをブリードと言いますが、この装置をAIR CONDの大元と言える機械に送り込みます。
これがA/C PACK(=AIR COND PACK)またはECS PACK(Environment Control System PACK・エンバイロメントコントロールシステムパック)、もしくは単にPACKと言われる装置で、胴体なかほどの床下に収められています。PACKは2台あってそれぞれが独立しています。もちろん重要な装置なのでお互いの予備の役目があります。
PACKの空気の流れ道は大きく3つあります。1.エンジンからの高圧空気がやってくる道、2.冷却空気が入ってくる道、3.排気が通る道です。
高圧空気の取り入れ量は、高圧空気がやってくる道の途中にFCV(フローコントロールバルブ)という弁があり、この開閉によって調整しています(比較的新しい737-800ではこのFCVに電子制御が取り入れられeFCVと呼ばれています)。
高圧空気を直接機内に送り込むと乗客らは大変な目に遭うため、ある程度の温度まで下げる必要があります。ここで冷却空気を使います。冒頭に述べた通り冷えた空気は飛んでる以上そこらへんに有り余るほどあります。
PACKの前方にエアインレット(空気取り入れ口)があるのでここで外気を取り込み熱交換器内で高圧空気とミックスします。
そうして少しづつ温度を下げていった空気が最終的に空調として機内に送り込まれています。本当はもっと複雑ですが、簡単にいうとこんなロジックです。
そしてその過程でできる排気は後ろの排気ノズルからでていくというわけです。
客室与圧は原理としては少し前に概要で述べたとおりで、CPC(キャビンプレッシャーコントローラー)というシステムが状態に応じて自動で判定し、加圧したほうが良い時はバルブを閉じ、減圧したほうが良い時はバルブを開きます。
実際に機体がどの高度を飛んでいるかではなく、客室の気圧状態から換算してどれくらいの高度を飛んでいるぐらいの与圧状態になっているか、という指標を「客室高度」と言います。
客室高度が10,000ftを超えると操縦席のCABIN ALTITUDEという警告が作動します。10,000ftで警告が出るということは、その時点で「これ以上客室高度が上がるとまずいよ」という意味になるので仮に与圧系統が完全に機能していなかったとして10,000ftまで実際の高度を下げればおよそ人体に影響を及ぼすことはありません。
よって低酸素状態にある現高度から速やかに降下する必要があります。ちんたらやっていると降下しているうちに酸素が薄くなってしまいます。
客室高度が10,000ftを超える(=客室高度の上昇)と酸素マスクが降り、緊急降下中のアナウンスと共にスポイラーを使って「(通常運用の降下率に対して大きい降下率という意味での)急降下」することになります。
さて冒頭にも断ったとおり、筆者は全く理系分野に明るくないのでこんな解像度でしか話せませんが…
<了>
↓↓本編・【大解剖】737-800