大解剖シリーズ、冷静に考えたら小型機しか扱っていませんでした。
そろそろ中型機を扱おうということで今回は787-8をセレクト。-9や-10は扱い始めると長くなりすぎるので今回は一部言及するのみに留めます。
いつも末筆になるので、今回は冒頭にて貴重なコクピット写真などを提供してくださったはむに(共同管理者ではありますが)御礼申し上げる次第である。
1.機体構成
基本構造は胴体に後退翼の主翼を低翼配置に、水平尾翼が中翼、垂直尾翼が1枚という極めてオーソドックスな構成になっています。ただし素材について従来のジュラルミンに替わり炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が多様されている点が特徴です。これが機体の軽量化が実現し、より少ない燃料で長距離を飛行できる高効率機として名を知らしめた787の鍵となる要素であります。
各翼の前縁頂部は丸みを帯びるなど全体的にソフトな印象を与える形状です。
2.胴体
気象レーダーが先端にあります。
コクピットウインドウは4枚の極めて大型のものを装備しています。コクピットウインドウは開閉することができないので、脱出の必要が生じれば上部のハッチを開けて脱出します。
脱出の際ロープを引っ掛けるツールとしてフック(突起?)があります。
ドアはNo.1についてType-Iが固定ですが、No.2,3,4に関してはオプションでType-IIへの変更が可能です。
ドアはハンドルを回すと手前に引き出すことができ、そのまま横へスライドさせることで開きます。上部の角丸長方形はベントフラップで与圧の調整に使われます。
ピクトグラムが多用され扱いやすい(?)設計になっています。キャビンが与圧状態にあるかどうかは窓下のランプの色によって判断できます。ヒンジ上部にもピクトグラムでドアモードが表示されていて、より視覚的な情報の伝え方になっています。
胴体最後尾の窓を見ると、どの機体も並びが途切れているのが分かります。
これはここが胴体の接合部であるためで、これがデフォルトです。
カーゴドアは原則右側に集約され前後方に1つずつあります。いずれもコンテナ搭載に対応していて、LD-3も並列搭載できます。
どの貨物ドアもおおよそ同様の構造ですが、ドアの横にドアコントロールパネルとローディングコントロールパネルがあり、それをライトが照らすようになっています。
(写真=787-9)
バルク(バラ積み)カーゴドアは左舷最後方にあり、こちらは与圧されるのが他の貨物室との違いです。
APUは垂直尾翼取り付け部右側に空気取り入れ口があり、最後部に排気口があります。電気飛行機の787だけに発電量は767のAPUの2倍に相当します。
試作機の排気口にはベントがありません。試験の過程で必要性が判明したので、量産機からベントが取り付けられています。名古屋に展示されているZA001はこのテイルコーンが初期仕様なのでぜひ観察してみてください。
右側にはドレインがあり、APUの運転で発生した排水などはここからは排出します。
3.主翼・補助翼
(写真=787-9)
主翼は一般的な後退翼ですが、レイクドウイングチップを標準装備して先端が鋭利な形状になっているのが特徴です。水平尾翼は詳細は後述するものの、前縁部の曲線は極めてなめらかです。
主翼後縁にはフラッペロンを挟んでインボード、アウトボードフラップがそれぞれ配されており、いずれもこのクラスの機体には珍しいシングルスロテッドフラップです。
-8の場合UPを除き1,5,15,20,25,30の6段階がありますが、長胴型-9ではより細かく刻んだ角度の設定が可能です。
フラップにはバリアブルキャンバーという機能が搭載されており、巡航中最適な揚力分布を確保するためフラップを動作させることができます。
スポイラーの動作機構は異様なまでにシンプルです。こちらの動作にも電気が使われるようになり、2枚は電気で動作します。残り5枚は従来通り油圧により動作します。
フラッペロンは上下動することで全速域でのロール操作を行いますが、787では着陸後上方に立ち上がることでスポイラーの補助を行う点が特徴的です。またフラッペロンが下がると付近の主翼面も連動して下がり、空力的に改善がはかられています。
低速用エルロンはフラップが引き上げられた状態ではニュートラル位置に固定され、一定の速度以下においてロール操作を行います。外見上の特異な点としてエルロントリムが廃されたことがあげられます。これにより構造的に極めて簡素になりました。
またフラッペロン同様着陸後はスポイラーの働きをします。
エルロン手前の棒は燃料投棄口で、777や767(ERに限る)と同様の位置に置かれています。
前縁にはスラットがありますが、インボートスラットとエンジンパイロンの間を埋めるクルーガーフラップもあります。
防氷系統は極めて革新的で、在来のエンジンからの高圧空気ではなく別の電動コンプレッサーで加熱・融解を行います。
水平尾翼は全遊動式スタビレータと後縁のエレベータで構成されています。スタビレータは全体が動いてピッチトリムを取り最適な角度に動作します。
垂直尾翼には767同様1枚のラダーが取り付けられています。またHFアンテナを垂直尾翼前縁部上方に内蔵(前縁銀色の色が異なる部分)している点は現代の旅客機ならではです。
787-9(手前)ではHLFCを装備した関係でHFが付け根に移動しています。そのため垂直尾翼取り付け部のサイズが-8と-9では異なり、-8で見られる(光線状態によりますが)HFアンテナは-9にはありません。
操縦系統の特徴として、制御則にPβを採用したことがあげられます。777のC*Uでは航空機機動三軸を別制御則により司っていました。
787ではこの三軸を一つの制御則で一括してコントロールすることでパイロットの操作入力を機体姿勢により反映しやすいものとなっています。
4.ギア
ノーズギアは2輪1脚のオーソドックスな設計です。脚背面にはAPUのリモコンがあり、万が一火災などがあった場合はここでもコントロールできます。
メインギアは4本のタイヤで1脚が構成され、これが左右主翼下に各1つの計2脚あります。
ギアダウン時は後傾チルトでフレアの際接地しやすいようになっています。
ブレーキはディスクブレーキを採用していますが、これにも油圧ではなく電気が使われています。また油圧が切れてしまった時には自重でのギアダウンが可能です。
格納する際はノーズギアの場合前方ギアドアが開き前方へ、主脚は胴体のギアドアが開き内側へ格納されます。
787-9/-10では機体浮揚検知後約1秒でギアドアが開くEDO(Early Door Open)システムがありますが、-8にこの装備はなくギアレバーを引き上げなければ一連の動作は開始されません。
機内へは2基のパックと呼ばれる装置を通して中胴部下面から取り込んだ空気を送り込んでいます。これにも電動コンプレッサが使用されていて、その排気はギアドア隣の排気口から排出されます。
取り込み部にはキャビン空気圧縮コンプレッサの空気取り入れ口があり、CACディフレクタがインレットをFODによる異物吸引のリスクを低減しています。
5.エンジン
エンジンはRRとGEの2社から選択することができます。
↑GEnx1B-64
↑Trent1000-H
RRはTrent1000、GEはGEnx-1Bを供給していて、推力別の細かいラインナップから選べる仕様になっています。特徴的なところは、エンジンパイロンの配線・配管など取付部の設計を共通化した点です。それまでの機種ではエンジンメーカーによって配管が違う関係でエンジンパイロンから交換しなければならなかったのですが、787ではエンジンそのものの交換だけで済むようになりました。
Trent1000はファンブレードを22枚備え、ブレード全体がチタンでできています。
GEnx-1Bはブレードが18枚から構成され、素材もCFRPで、その前縁部がチタンで補強されている点も特徴的です。
従来のGE製エンジンは進行方向右回転ですが、内部の圧縮機を反転構造にしたためファンブレード自体の回転方向はRRと同じになりました。
RRではエンジンナセル右側に排水・排気のドレインが設けられているのが外見状の特異な点です。
また両方を通じてエンジンカウル後縁部がシェブロンカットされているのが特徴で、747-8のGEnxや737MAXのLEAP-1Aが同様のカウルをもちます。これにより騒音の低減が図られているのとことで、同系列のTrent-XWBと比べると静かな気もします。
ただしリバース中は他機種と同じか、むしろ大きくすら感じる時もあります(個人の感想)。
全体としては高圧空気の抽気がエンジンからではなく発電機から供給されるようになったことで、より「エンジン」としての仕事に専念できるようになりました。
6.外装品(アンテナ・センサー)
アンテナに特殊なものは見られず、配置も一般的です。ただしNDBそのものが減少していることでADFについては非装備の機体もあります。
787ではTCASとATCをISSというシステムに一元化し一つのアンテナにその役割を担わせているのも特徴です。
機首周りにはPFDに表示されるような基本的なデータ収集用のプローブがついています。PRVはPressure Relief Ventで、与圧調整に使われます。PositiveとNegativeがありそれぞれPPRV,NPRVと記述します。
右面は基本的に同じものが同じように配置されていますが、TATの代わりにピトー管が2つ置かれているのが特徴です。
カーゴドア周辺にはスタティックポートが置かれています。
最後尾ドア下部にもアウトフローバルブが配置され、機内の与圧調整を担います。
7.灯火類
基本的な灯火の配置は一般的ですが、標準でLEDが採用されています。また点滅するライトは点灯時間が極めて長くなっているのが特徴です。
前脚や主翼付け根にもLEDの着陸灯があります。
8.機内・機内装備品
操縦席の諸々の配置は従来機と同じで機器配置について特段奇異な点はありません。全体的にインテリアがグレー系にまとめられ、ブラウン系統のインテリアだった747・767・777と比べてややマクドネル・ダグラスを感じる色合いになっています。基本的に777からの移行がしやすいよう極力共通化されてはいます(ボーイングは売り込みにあってはここもPRポイントだったのです)が、その中でも最大限最新の技術が投入されています。
操縦桿は従来と同じくパイロットの正面に、ラダーペダルは足元に置かれています。
中央には通信関連機器のほかスラストレバー、フラップやスポイラーに関連するレバーがまとめて配置されています。
NDやPFDは以前はそれ専用のディスプレイがあったものから4枚に集約されています。
特徴的な装備としてはHUDが挙げられます。
HUDは左右席上方にある透明の板で、ここに緑色でPFD同等の情報(機速、高度、バンクなど)が表示され、風景とともに機体姿勢の情報が得られるようになりました。
HUDは既に737がオプションで装備可能でしたが、標準装備したのは787が初めてとあってテレビなどではよく取り上げられました。
キャビンの基本レイアウトは3-3-3で、通路は2本あります。
頭上にはオーバーヘッドビンが備えられています。LEDの採用で夜間にも滑らかに明るさ・色を調整することで自然な眠り・目覚めになるよう工夫されています。CFRPの採用で従来の機体よりも高湿度で乾燥を抑えたの機内環境を作り出すことができます。
窓も大きく、外は見やすいです。また日中であれば自然彩光で十分明るくなります。
特徴的なのが窓で、従来のシェードを廃して電子シェードに切り替えられました。
ボタンで段階的に光の透過率を調整することができますが、場合によっては(キャビンクルーの設定)制限がかかっている場合もあります。
なお反応にはタイムラグがあり、暗くするにつれどんどん青みがかっていきます。写真には暗くした窓とそうでない窓の比較写真で、かなり青いのがわかります。
さて、今回はいつもよりも機内を掘り下げました。コンセプト発表当時7E7と呼ばれていた通り徹底した「Electric」と「Efficiency」を追求した機体であることがいただけたことがわかると思います。
低騒音・低燃費など一般人にもわかりやすい「環境にヤサシいヒコーキ」として市街地空港路線にも積極的に投入されますし、航続距離とキャパが相まって活躍の場は地方国内線から中程度需要の長距離国際線まで極めて幅広くなっている、というわけです。
次回の解剖機種は未定ですが、月に1機種出せたらな、と思っております。