発明王、光と闇の覚書2 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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とっぴ「やほ。また、来たよ」

さり「こんにちは〜」

あかね「今日は、わたしたちも来ました。とっぴったら、抜け駆けするんだもん」

ミオ「ぼくも呼ばれたから来たよ。なんなら、エジソンさん、呼ぶけど」

ひろじ「あーっ、いや、今日は呼ばないほうがいいかな。今回紹介する逸話メモは、エジソンさんには、耳の痛い話になると思うから」

ミオ「ははあ、あの話をするんだね」

ひろじ「うん、そういうことになると思うよ」

れん「なんですか、あの話って」

ひろじ「じゃあ、まず、次の逸話を紹介しておこう」

 

◆エジソンは、自分の説が正しいと思うのが習慣になり、電気は直流がいいとの主張を変えたがらなかった。交流の普及を妨害するため、ニューヨーク州の、処刑用に開発された電気椅子に交流を使うよう働きかけた。それは効果を示し、エジソンは交流は危険と主張した。(アシモフの雑学コレクション)
 

さり「えっ、なんですか、これ?」

とっぴ「ええと、電気椅子って、死刑につかうやつ?」

ひろじ「当時、死刑は絞首刑が基本だったんだけど、処刑執行にいろいろトラブルがあって、別の方法が模索されていた。エジソンのところにも電気を使った処刑法はできないかと、打診があったそうだよ。そのときは、エジソンは自分は死刑制度には反対だから、答えられないと回答している。でも、電気事業でライバルと覇権争いをするようになり、考え方が変わり、ライバル会社が使っている交流が人体に危険だという反宣伝に、電気椅子を利用することにしたんだ」

ミオ「エジソンさんは蓄音機や白熱電球の発明で一躍有名になったけど、どちらも直流を使って作った。次の段階は、直流の発電機から各家庭へ電力を輸送する事業で、成功すれば莫大な利益が生まれることになる。ライバルには負けられない戦いだったんだ」

さり「それなら、直流と交流、どっちが便利か競争すればいいんじゃないですか?」

ひろじ「ビジネスが絡むと、そうはいっていられない、というのが、人間だよ。エジソンは、そういう点では、当時から有名な人だった。子供向けの偉人伝で語られるエジソン像とは、ずいぶん違う人だった」

れん「それで、その反宣伝はうまくいったんですか?」

ひろじ「こんなメモもあるよ」

 

◆1890年8月6日、ウィリアム・ケムラーは電気椅子で処刑される最初の人間となった。夜明けとともに彼の体内に1300ボルトの交流が流された。新品で伸びの悪い革ベルトが中古のウェスティングハウス発電機の一台からはずれそうになり、電流は17秒でストップした。最初死んでいるかに見えたケムラーが突如息を吹き返し、再度電流が流された。二度目は訳4分間持続され、肉の焦げる匂いが処刑室に充満した。(中略)ある朝刊の見出しにはこうあった。「ケムラー、ウェスティングハウスされる」(処刑電流)
 

ろだん「うわ、これはひどい」

ひろじ「うん。電気椅子のスイッチを2度入れたことで、残酷だと非難が殺到したそうだ。エジソンの狙いは、交流を使った電気椅子なら絞首刑と違って苦痛なく死刑が執行できるということだったから、逆効果だった。エジソンは、執行がうまくいかなかったのは、電気椅子のせいじゃなくて、担当者たちが使い方を間違えたからだといいわけした。よりうまく殺すための電極と人体のつなぎ方についての提案もしている。のち、エジソンの方法にしたがって死刑執行がされたけど、やっぱり1度目は死にきれなくて、スイッチは2度入れられたというよ」

あかね「気分悪くなってきたわ・・・」

 

かのん「ウェスティングハウスされるって、どういう意味?」

ミオ「ウェスティングハウスさんは、エジソンさんのライバルだよ。エジソンさんが直流の電力輸送網をつくろうと画策していたとき、テスラさんの交流で電力輸送網をつくろうとしていたのが、ウェスティングハウスさん。エジソンさんたちは電気椅子で処刑するのを表す新語を作ろうとして、ライバルの名前を使ったんだ。それを、息のかかった新聞社に記事にさせた」

あかね「電気椅子は、誰が作ったの? ウェスティングハウスさんは、作らないよね?」

ミオ「もちろんエジソンさんだよ。交流発電機はウェスティングハウス社の中古品をこっそり買って、電気椅子に組み込んだ」

ひろじ「電気椅子自体には、ウェスティングハウスはじめ、多くの電気関係者が反対した。人殺しに使われると、電気についてのイメージが悪くなるからね。でも、結局、エジソンの作った電気椅子は採用され、処刑に使われたんだ」

れん「エジソンさんって、そんな人だったの?」

ミオ「ウェストオレンジにあったエジソンさんの研究所では、交流が危険だということを示すデモンストレーションを、記者たちに定期的に見せていた。罪のないのら犬やのら猫を交流電気で殺すデモ実験だ。まったく、けしからん!」

ひろじ「ええと、次の一節は、その逸話だね」

 

◆1887年には、ウェスト・オレンジ周辺の捨て犬、捨て猫たちが、交流電源につないだ鉄板の上で定期的に焼かれ、万一の際の交流電気の危険性を、報道陣の前で訴えた。こんな身の毛のよだつ反宣伝は、1888年に電気椅子への交流電気の使用をめぐって起こった議論で最高潮に達した。元エジソン社社員を名乗る男は、ニューヨークに人を集め、公開で何匹もの犬を処刑して、新処刑法の威力を実演してみせた。「ウェスティングハウスする」という言葉は、この新処刑法を行うという意味の動詞にさえなった。(エジソンに消された男)

 

しもん「あのう、最初の逸話で、エジソンさんが直流がいいとの主張を変えなかったってありますけど、今は家庭では交流が普通に使われていますよね。エジソンさんが負けたってことですか」

ひろじ「うん。経済的な問題で、交流の方が有利だったんだ」

さり「えっ、どういうことです?」

ミオ「電線での発熱は、電線を流れる電流が小さいほど少なくてすむ。だから、エネルギーロスを減らすには、電線の電流を簡単に減らしたい。交流の場合は、電線に送り出す交流電圧を上げることで、電流を小さくすることができるんだけど、直流の場合、当時の技術力では、それが簡単にはできなかったんだ」

ひろじ「もともと、交流発電や交流送電は、エジソンの研究所で生まれた技術なんだけどね」

かのん「えっ、どういうこと?」

ひろじ「交流システムを作ったテスラは、最初、エジソンの研究所で働いていたんだ。テスラは交流発電や交流送電の将来性を、エジソンに訴えたけど、エジソンは聞く耳を持たなかった」

れん「どうしてですか?」

ひろじ「いろいろな理由があるといわれている。一つには、エジソンは各家庭で使う電力量を電気分解を使って測定して、正確な電気料金を請求する仕組みを考えていた。それには、直流じゃないとまずいからね」

ろだん「うーん、まず、お金か・・・」

ひろじ「それに、エジソンは物理理論にはとても弱かった。あるとき、ライバルの交流について<彼らはどうやって電流の方向を逆転させるんだ>とまでいっている。別のときには<オームの法則はよくわからない>といったとも伝えられているよ」

あかね「なんだか、エジソンさんのイメージがどんどん崩れていくわ」

ひろじ「こんなことを、テスラがいっているよ。エジソンの考え方や行動の仕方を端的に表している言葉だ」

 

◆もしもエジソンが干し草の山から1本の針を見つけなけらばならないとしたら、彼はすぐさま働きバチの勤勉さで干し草を1本1本調べにかかり、ついには目的のものを見つけ出すだろう。(処刑電流)

 

むんく「理論家の対極の人・・・」

ひろじ「テスラたちはこうもいってるよ。<もし、エジソンに科学知識を応用する度量の広さがあれば、90パーセントの努力は節約できただろう>って」

しもん「あ、それ、エジソンの言葉を皮肉っているんですね。エジソンは成功するには90パーセントの努力と10パーセントの才能だっていってますから」

ろだん「99%の努力と1%の才能じゃなかったっけ?」

ひろじ「そのへんの数字は、どれが本当か、ちょっとわかんないな。いずれにせよ、エジソンは小学校を中退して独学してきたせいか、自分の創意工夫に絶対的な自信を持っていて、大学教育には価値を見いださないと、豪語していた。アインシュタインとの次の逸話も、その一つだろうね」

 

◆最初の訪米のとき、アメリカの大発明家のトーマス・エジソンは、理論家アインシュタインに若干の反発をしめし、「大学教育は無益であり、有用なのは事実である」と言って、実用的な試験問題をつくり、アインシュタインに向かって「これがわかるか」とせまった。この問題を問われたアインシュタインは、「参考書を調べればわかる事実に、記憶力をわずらわせる必要はない」と答えた。(『ニュートンとアインシュタイン』石原藤夫)

 

とっぴ「えーっ、これは、ちょっと恥ずかしいなあ」

あかね「アインシュタインも、さぞかし呆れたでしょうね」

ひろじ「この本にはこう紹介されているけど、これは著者の思い違いだと思うよ。実際のところは、新聞記者がエジソン研究所の採用試験問題を持っていってアインシュタインに見せたというのが、本当らしい。その試験問題は、音速はいくらかだとか、摂氏温度と華氏温度はどう違うかとかの、実用的な知識が羅列してあるものだった。それに対するアインシュタインの答が、いかにも理論物理学者らしくて、クールだよね」

さり「わたしも、そう思うです!」

ひろじ「これについては、おもしろいおまけもあるよ」

さり「なんですか?」

ひろじ「直流・交流をめぐる電気椅子関連の裁判のとき、ウェスティングハウス側の弁護士がエジソンに<摂氏9度は華氏何度か>と聞いたら、エジソンは答えられなかったというんだ。あわてて、部下がかわりに答えた。エジソン自身、そういう問題には、さっと答えられない人だったんだね」

 

とっぴ「豪語していたのに、恥ずかしいなあ。でも、エジソンさんは、たくさんの研究員を雇っていたから、そういうのは、自分ができなくてもよかったんじゃない?」

ひろじ「そういう見方もできるかな。あまり知られていない言葉だけど、エジソンは発明のライバルたちと自分との違いについて、こんなふうにいっているよ」

 

◆私は盗み方を知っている。彼らは知らない。(処刑電流)

 

かのん「なに、それ!」

しもん「これはすごい言葉ですね。メモメモ・・・」

ひろじ「エジソンの千を超える発明のほとんどは、ライバルたちの研究にヒントを得たものばかりだよ。エジソンはそれらの発明をどうしたらお金になる発明にできるかを考える天才だったといえるね。一方で、自分の理解できないものには興味がないから、テスラのような優秀な人材を失うことになった」

ミオ「あれは、エジソンさんが悪いよ。テスラさんに自分の装置を改良できたらボーナスを弾むと約束して、テスラさんは一年がかりでそれを完成させたんだけど、ボーナスを払わなかったからね。テスラさんは激怒して、エジソンさんの研究所を出てしまった」

あかね「それは、ひどいわね」

ひろじ「エジソンが理論を重視していなかったのは、つぎの言葉からもわかる」

 

◆ある特許訴訟の法定でエジソンは、オームの法則を完全には理解していないと誇らしげに認めた。「そうした知識は私の実験の邪魔になるだけですから」(処刑電流)

◆私は数学者を雇える。彼らは私を雇えない。(処刑電流)

 

むんく「理論も数学も、大切」

ろだん「おれも実験至上主義だけど、理論はばかにしないぜ」

ミオ「テスラさんもまた、エジソンさんとは違うタイプの、とても気難しい人間だったけど、あの約束破りはエジソンさんが悪い。テスラさんはその後、交流発電機の特許を取り、ウェスティングハウスさんがテスラさんを厚遇する約束で自分の会社に入れた。ウェスティングハウスさんはその約束を守ろうとしたんだけど、資金繰りに困って、テスラさんに約束が守れそうにないと謝罪したよ。そしたら、あの超気難しくて超変人のテスラさんが、その謝罪を受け入れたんだ。よほど、ウェスティングハウスさんに好感をもったんだろうね」

ろだん「誠意が通じたんだよ。ウェスティングハウスさん、いいやつじゃん」

 

しもん「あのう、ぼく、映画をつくったのも、エジソンさんだって話を聞いたことがあるんですけど」

ミオ「エジソンさんは、あまり映画、つまり活動写真には興味なかったなあ」

さり「えっ、そうなの?」

ミオ「活動写真を研究している発明家は前からいっぱいいたし、活動写真が利益を生むとは思わなかったんだ。でも、エジソンさんと組んだラフ、ガモンって人たちが、エジソンさんの活動写真キネトスコープは商品化できると判断し、それを発表して大衆の人気を得た。そんなとき、エジソンさんの研究所で実際にキネトスコープを作った研究員に、エジソンさんは、<そんなスクリーン映写式の機械を作ったら、覗き見式の機械が売れなくなってしまう>といってしまう。だから、映写式の機械はもう作るなと。その研究員はそれを聞いて悲観し、エジソンの研究所を出て、ライバル会社と手を組んだ」

しもん「テスラさんのときと同じですね。エジソンさんって、学ばないのかな〜」

ミオ「ラフとガモンたちはそれで困ってしまった。運良く、トマス・アーマットという発明家が別のすぐれた撮影機を売り込みに来たのを見て、二人は一計を案じた。アーマットさんには、<エジソンの名前がないと、せっかくの機械が売れないから>といって、それを<エジソンの新発明品>として売ることを提案したんだ。アーマットさんには、売出しに当たってエジソンさんの名前を使うだけで、ちゃんと発明者の名誉は守ります、といってね」

ろだん「なんか、うさんくさいな。エジソンさんのまわりって、そんなやつばっかなのか」

ミオ「結局、その活動写真の新発明ヴァイタスコープは、エジソンさんの発明として報道され、<映画の発明者はエジソン>ということがアメリカ全土に広まったんだ。結局、アーマットさんは自分の発明品と、その栄誉を、エジソンさんに取られてしまったことになる」

かのん「それって、一種の詐欺じゃないの?」

ろだん「っていうより、最初のキネトスコープからして、エジソンさんの発明じゃなかったんだな。発明王エジソンっていっても、実態はずいぶん違うな。まあ、発明工場で発明したものは自分の発明ってことなのか・・・おれは、そういうの、いやだな」

 

ミオ「でも、そんなエジソンさんも、たまたまかもしれないけど、物理学に残る重要な現象を発見しているんだよ。エジソン効果。これを使って、のちに真空管が作られることになるから、今の電気技術につながる大発見だったんだけど・・・エジソンさんは、例によって、お金になる発見じゃないと思って、あまり重要視しなかった」

◆エジソンの発明で、科学理論関係のものはひとつしかない。電気は真空中をも流れるという「エジソン効果」である。特許は取ったが、利用法がなく、そのままになった。現在から見ると、エレクトロニクス産業の出発点だったのだが。(アシモフの雑学コレクション)

ろだん「おいおい、これこそ、応用科学に使える発見じゃん! むしろ、お金を生む発明だろ?」

あかね「やっぱり、科学理論って、大切ね。せっかく発見しても、その価値がわからないんだもの」

とっぴ「え? これ、そんなに価値のある発見なの?」

ミオ「金属を熱すると電子が飛び出してくるというのがエジソン効果で、真空管はこれを使って金属から追い出した電子を電場で加速したり制御したりできるように作られてる。世界最初のコンピューターは真空管で作られているからね。やがて、真空管はトランジスタに取って代わられるけど、今のコンピューター文明の第一歩がエジソン効果だともいえるよ」

さり「すごい発見なんですね」

れん「エジソンさん、自分にわからなくても、研究員に優秀な人がいっぱいいたんだから、その人たちの意見に耳を傾ければ、もっともっといろんな発明ができたかも・・・」

かのん「わたし、エジソンさんの人間性は嫌いだけど、成功するまでひたすらやり続けるのは、すごいと思うな」

ろだん「おれもそう思う。粘り強いのって、実験にはいちばん大切な才能だぜ」
とっぴ「友だちには、なりたくないけど、ね」

 

 

【主な参考文献】

『処刑電流』リチャード・モラン著 岩舘葉子訳(みすず書房)

『エジソンに消された男』クリストファー・ロー著 鈴木圭介訳(筑摩書房)

『科学技術人名辞典』アイザック・アシモフ著 皆川義雄訳(共立出版)

『アシモフの雑学コレクション』アイザック・アシモフ著 星新一訳(新潮文庫)

『科学と発見の年表』アイザック・アシモフ著 小山慶太他訳(丸善)

『Newton世界の科学者100人』竹内均監修(KYOIKUSHA)

 

 

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