19世紀の科学が「熱素」の呪縛から逃れられたのは、在野の研究者ジュールのおかげです。
「熱素説」は物理でも化学でも根強い支持があり、たとえば、ラボアジェの『化学命名法』にははじめて現代とどうような元素概念が提案されましたが、基本的な元素のなかに「熱素」が含まれています。
ランフォードの「摩擦熱」は「熱素説」に疑問を投げかける最初の考えでしたが、それを定量的に測定し、「熱量」と「エネルギー」がいつも比例関係にあることを実験で示す必要があります。それを何種類かの精密な実験を通して示したのが、ジュールさん。
当時のジュールさんは大学に属さない「科学大好きおじさん」にすぎなかったので、学会での発表もじゅうぶん時間をさいてもらえなかったと言われています。
それまで熱素の量「熱量」として単位「カロリー」で図られていたものと、ウィリアム・トムソンやヘルムホルツが提唱した「エネルギー」の間に一定の関係があるとする実験結果は、エネルギーの世界を熱にまで広げる革命的なものでした。
ジュールの実験は歴史的に重要なのですが、現在の高校物理過程ではあまり重きを置かれていません。というのは、現在の自然科学では「カロリー」という単位は使われていないからです。
熱も最初から「ジュール」で量りますし、比熱も同じ。したがって、「カロリー」と「ジュール」を換算するジュールの実験は、軽く紹介されるだけです。
ここでは、2.と3.の内容が重要。新しい熱の世界の法則です。
こちらについては、書き込みを見ながら解説します。
「気体が仕事をする」とはなんでしょう。
気体が膨らむとき、気体はまわりの空気を押しながら進みます。気体には圧力がありますから、周りの空気を圧力で押します。
初心者は気体のする仕事を考える時、さまざまな条件を考えすぎて、単純に判断できなくなります。
「気体がふくらむときは外へ仕事をする」これだけです。
1.ジュールの実験は、歴史的な実験なので、その装置の原理をよく理解しておく必要があります。
おもりをゆっくり降下させ、おもりに仕事W=mghをさせます。
実際の実験ではある程度落下させたら糸を巻き直して、おもりの降下を繰り返しません。
熱量はQ=mc⊿tで計算しますが、このころの比熱cの単位は(cal/gK)です。
WとQの比は4.2(J/ cal)。熱の仕事当量と呼ばれる値になります。
2.「熱素説」が否定され、「熱運動」が熱の正体だとわかるようになると、物体内部の原子分子がもつエネルギーのことが考えられるようになっていきました。
原子・分子がでたらめに動き回る「熱運動」のエネルギー、そして、原子・分子の間にはたらく分子間力による位置エネルギーです。
固体や液体の場合は、原子・分子間にはたらく分子間力が強いので、体積が変わると分子間力音位置エネルギーも変化します。これは複雑なので、高校物理では扱いません。
気体の場合、原子・分子間の距離が遠く、分子間力はほとんど働きません。したがって、気体の内部エネルギーは熱運動のエネルギーだけになります。
一方、熱運動のエネルギーは絶対温度に比例するので、気体の場合の内部エネルギーは絶対温度に比例する、ということになります。(U〜T)
これは、気体のエネルギーの出入りを考える上で、熱力学第一法則と並んで重要な関係です。
3.「熱力学第一法則」は「エネルギー保存則」です。熱も含めたエネルギー保存則ですね。
⊿U=+−Q+−Wという式は重要ですが、教科書や参考書によって、このうち、一つの例だけを取り上げて式として扱います。
⊿U=+Q+W
あるいは、
⊿U=+QーW
とかですね。
どの例を熱力学第一法則の式として採用するかは、ほんの執筆者の好みです。
ぼくのプリントでは、すべてケースがあるよということを示すため「+ー」で表しています。
さて、「内部エネルギーは熱と仕事の出入り分変化する」と書いてあります。ということは、熱と仕事の出入りを判断できないと困る、ということでもあります。
熱Qについてはカンタンです。
気体を加熱すれば熱が入ってきます。気体を冷却すれば気体は放熱して熱が出ていきます。
むつかしいのは、仕事の出入り。
これは、仕事の定義をちゃんと覚えている人にはカンタンですが、よく間違う人がいますので、気をつけてください。
気体が仕事をすればその分のエネルギーが減るので、ーW、気体が仕事をされればその分のエネルギーを貰うので+Wとなります。この判断基準については、プリントの後半で確認しましょう。
さて、この熱力学第一法則は、大仰な法則名ですが、実際の計算はおどろくほどカンタンです。それは、この計算が、お金の計算にそっくりだからです。
50円もらって、20円使ったら、財布の中身は30円増えますよね。
(問)の計算を見てください。この書き込みの式の意味がわからない人は、ほとんどいないのではないでしょうか。
さて、いよいよ、気体の内部エネルギーで一番間違うところです。
気体が仕事をする、あるいは仕事をされる、というのは、どういうときなのでしょうか。
4.(1)の図を見てください。
シリンダーに入れた気体なめらかなピストンで蓋をして、気体を温めます。
温まられた気体はたいていの場合、膨張します。(かならず膨張するとは限らないので、注意してください。ここでは、気体が温められたことは問題ではなく、気体が膨張することだけが重要です)
気体は圧力pでピストンを押しています。気体が膨張してピストンが図の方向に移動した時、気体がピストンを押す力とピストンの移動方向が一致しているので、仕事の定義により、気体はピストンに正の仕事をすることになります。
(2)シリンダーに入れた気体がピストンに押されて収縮するときを考えます。
このとき、気体は(1)と同じくピストンを圧力pで押していますが、ピストンの移動方向は気体が押す力とは逆向きなので、気体は負の仕事をすることになります。
さて、気体がピストンに負の仕事をする、ということは、いいかえるとピストンが気体に正の仕事をしていることになります。気体から見れば、ピストンから仕事をされているということです。
ここで注意することは、気体の場合、熱の出入りがなくても、仕事の出入りだけで内部エネルギーが増減し、温度が変化するということ。これについては、また後ほど。
5.気体のする仕事Wは圧力一定のときはわりと簡単な式で表せます。
書き込みを追ってみてください。
仕事W=F⊿x=p⊿Vと、今まで見てきた式とは違う形になりますね。
なお、力Fが変化するときは、グラフの力を借りましょう。FーVグラフを描くことで、グラフの面積から仕事Wを求めることができます。
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