<勇者の剣>
さき「鏡も使ったよ。こっちから見るとキツネ妖怪で、鏡で見ると猫に見えるの」
ひろじ「トリックアートか・・・ていうか、女の子の形がそれなりになっていて、すごいな。だいたい、人間の座っている姿を立体で作るのって、初心者にはむつかしいんだけど・・・」
さき「ユーチューブとかで紙粘土の人形の作り方とかあるもん。それ見てたら、なんとなくできたもん」
ひろじ「そもそも、木の枝に女の子が座っているのを作ろうと思った時点で、すごいと思うよ・・・お父さんがさきくらいのときに粘土で作った像は、もっと適当だったからね。・・・そういえば、中学の美術の時間のとき、いっしょうけんめい作った父親の粘土像を、美術の先生に『人間はこんな形じゃない』といわれて、突然ぶち壊されたことがあったな。いま、突然、思いだしたよ」
さき「その先生、ひどい〜!」
ひろじ「その先生は立体像とはどういうものかを伝えたくて、過激な行動に出てしまったんだろう。でも、間違った行動だった。たしか『自分の父親の像を作る』というようなテーマの授業で、それなりに愛情を込めて作った像だったからね。自分の父親を傷つけられたような気がして、心が痛んだよ。それを見ていたクラスの子たちもさきと同じように、口々に『先生ヒドイ』とつぶやいていた」
さき「お父さん、怒った?」
ひろじ「うーん、そのときは怒るというより、作った物がバラバラになっちゃったから、それを作り直すのに必死だった。そのあと、作り直しにものすごく時間がかかったために、他のことにもけっこう影響が出た。じわあっと怒りが湧いてきたのは、そのときだったかな。理不尽なことに対する怒りを感じたよ。今でも、その人を美術教師とは認めていない。ていうか、人間として、ダメだろう。ぼくの描くマンガにはときどき、そういう怒りが出ちゃうことがある。なんか、権力とかの理不尽な横暴さに対する怒り、みたいな・・・」
さき「そっかあ・・・お父さんも、いろいろあったんだね」
ひろじ「ほかにもいっぱいいろんなことがあったけど・・・まあ、このくらいにしておこう」
さき「おとうさんも、人形また、作ってみたら?」
ひろじ「そうだな。立体造形は勉強になるから、時間が出来たら、やってみようかな」
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