先日のこと。
職場でなにか騒ぎが・・・何人かが、ラミネーター(パウチマシン)を取り囲んでいます。
見に行ったら、ラミネートをかけたらシートが機械から出てこないで止まってしまったとのこと。すでに機械は分解され、吸い込まれたシートがどうなっているかが見えました。ローラーの隙間で何重にも折りたたまれています。
「これ、引っぱったら取れるんじゃないか」
ある人がシートを力任せに引っぱったものの、びくともしません。
ここで使っているラミネートマシンは、M商会のもので、今市販されているもののなかで最も性能が高く、安定しているもの。
ぼくは自宅用にこのマシンの半額以下で売っていたべつのメーカーのマシンを購入したことがあります。こちらは機能が低く、手作りの栞を作ろうと紙片をラミネートシートにばらばらと入れてマシンに通したら、いきなり絡まってしまいました。1枚の紙をそのままラミネートするのはできるのだけど(当たり前!)、紙片を入れるなど、特殊な使い方には対応できないようです。その日の内に中古屋に売って、M商会のものを購入したことがあります。
絡んだ原因は、ラミネートシートを逆向きに入れてしまったこと。シートは2枚のラミネートシートの片側が接合されている構造。2枚のシートの間に紙を入れ、接合されている側を前にして、マシンに入れることになっています。
「そっか・・・シートを逆向きに入れると、M商会のマシンでも絡んじゃうんだ・・・」
妙に感動しました。
シートの絡み方が尋常ではなかったので、たぶんシロウトには直せない状態だな・・・とは思ったのですが、もう半分くらい分解されてしまっていたので、「虫」が騒ぎだしました。ここまで分解されちゃってるんなら、もうちょっと分解しても同じだな・・・
構造をよく見ると、上下のヒーターと、メインのローラー2本が、がっちりと固定されています。ネジや押さえ金具を順番に外していけば、隙間ができて絡まったシートが外せるかもしれません。
ちょうど空き時間だったので、当事者の人と2人で、分解を続けました。結構分解したところでシートとローラーの間に少し隙間ができたので、引っぱったら取れました。あとは、もとに戻すだけ・・・
途中から参加したので、部品の最初の配置を見ていないのですが、とりあえず、分解したのと逆の順序で組み立てていきます。
ああでもないこうでもないと悪戦苦闘し、なんとかもとの形に戻りました。
「できましたね!」
「いや、まだ喜ぶのは早いですよ。試してみましょう」
電源を入れるともくもくと白い煙が・・・
「なにか、燃えていますよ!」
「だいじょうぶ。たぶん、絡んだラミネートの破片が熔けて蒸発しているんです」
煙はすぐに消えました。
試しにラミネートをかけてみると・・・
吸い込まれてすぐ、ガガッ!という音がしました。ダメか!・・・と思ったら、先っぽだけ折りたたまれた状態のシートが出てきました。
「・・・さっきよりは、いいです。出てきましたから」
「もう少し、試してみましょうか」
今度は、同じ音がして、シートが止まってしまいました。逆転スイッチを押すと、蛇腹のように折れ目のついたシートが戻ってきました。
「どこかでぶつかっていますね。調整が足りないんでしょう」
もう一度分解して、あちこちのネジをチェック・・・ちょっと気になるカバー部品があったので、それも外してみました。すると・・・
ローラーの下側のヒーター部品が、留め具から外れていました。
もう一度、最初からやりなおして、慎重に各部品をあるべき場所へ固定。
本体が熱くなっているので、冷めるのを待ってから、もう一度チャレンジ。
こんども異音がして、シートは止まってしまいました。
「だめですね」
「シロウトに調整できる部分はあとちょっとだけなので、明日、もう一度、分解してネジなんかの調整をして、それでだめなら、メーカーに修理してもらいましょう」
次の日、今度はローラーの隣の部品の調整。ローラーから出てきたシートを次の出口までガイドするバーで、穴の空いた金属板です。金属板の両側は下の方に丸まっていて、2枚ともそっくりの形。金属板を乗せる留め具は独特の形をしていて、2枚の金属板が数ミリの間隔を開けて、並行に並ぶように工夫されています。
この2枚の位置調整をしようとしたら、上の1枚がぐらぐらでした。ネジ締めが少し緩かったようです。それを締め直し、再チャレンジ。
やはりガガッという音はしましたが、今までより小さい。前進はしたものの、もう調整する場所がありません。
「すぐ、分解しますね」
「まだ熱いから、一休みしましょう。それにしても、この機械はすごいな。こんなにいろいろ工夫されているとは思わなかった」
「そうですね。分解してみて、わたしもそう思いました。でも、こんなに微妙なモノなんですね」
「そりゃ、そうです。たぶん、1枚の板の向きにだって、特許が取られていると思いますよ。ぼくの知り合いでC社に勤めている人から聞いた話なんですけどね。コピー機でドラムから静電気を取る部品があるんですよ。板の先をカーブして丸めてあって、それがドラムのそばに配置されていて、余分な静電気を吸い取るんです。C社でその板の向きを変えるという特許を取ってみたら、意外なことに、それまで常識とされていた向きにしたときより、性能が上がったそうです。その単純な工夫の特許で、C社はすごく利益を上げたんだって」
「へええ・・・そんなことで特許取れるんですね」
・・・云々。
雑談している間にマシンも冷えたので、もう一度分解。最後の調整をしようとガイドバーを触っているとき・・・
「あ! 向き!」
その人が突然、叫びました。
「さっきの話! この上の板、向きが逆だったりして・・・」
「あ、そうか!」
ぼくはそれを聞いた瞬間に間違いに気がつきました。同じ向きに2枚のガイドバーを重ねて取り付けていたのですが、じつはぼくはその状態を見ていません。ぼくが分解作業に参戦したとき、すでに機械は半分くらい分解されていて、2枚のガイドバーの上1枚は、外れていたのです。
上のバーがどうやって乗っていたのか、見ていなかったんですね。まったく同じ形の板だったので同じ向きに取り付けてしまいましたが、これだとラミネートシートの入り口が狭い。むしろ、上の板を逆向きにすれば、シートがやってくる入り口が上下になめらかに広がる形(ラッパのような形)になり、シートをスムースに隙間へと導くことができる!
「神ってますよ!」
「いや、閃いたのはぼくじゃなくて、そっちですから」
組み直して、さあ、これから、というとき、仕事の呼び出しチャイムが鳴りました。
「じゃあ・・・またあとで」
「いや、もう、だいじょうぶだから、やってみてください。うまくいくはずです。すごい閃きです。もうぜったいうまくいきますから。コレでダメなら、もうぼくたちにできることはありません」
仕事が終わり、部屋に戻ると、その人は「○」のサイン。
脈絡のない無駄話が、こんなふうに絡んできて、難問を解決することもあるんですね。
・・・いや、新しい発見や発明は、論理の積み重ねではなく、類推によるのだ、ということなんでしょう。そして、あきらめずに挑み続ける粘り強さ。ぼく自身が、いつも生徒にいっていることです。
たまたま雑談で、脈絡無く話したコピー機の話が、ラミネートマシンの修理で役立つとは・・・
類推による閃き、というのは、こういうものなんでしょうね。
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