新・物理ネコ教室、101からは、剛体に関する内容です。(3年間でのプログラムで、000番台は1年、100番台は2年、200番台は3年、という区分けをしています)
冒頭のイラストはアルキメデス。古代ギリシャの哲学者の中で、特に物理学に当たる内容を研究した哲学者です。(この頃は、哲学と科学、数学の区別がない時代です)
武器の開発にも力を発揮し、敵国から恐れられた存在でもあります。
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新・物理ネコ教室は次の構成となっています。
前半【講座プリントとその概要】講座構成の背景を解説。対象は物理学のより深い理解を目指す高校生・一般・教師の方。
後半【講座内容】高校物理の講座公開。対象は高校物理を学習したい高校生・一般の方。
物理学についてより深い理解を得たい方は前半から御覧ください。高校物理の具体的な内容だけ学びたいという方は、後半だけご覧になっても構いません。
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【講座プリントとその概要】
1.剛体の重心
ここでは、物理基礎で扱ってきた物体が「大きさのない質点」であったこと、これから扱う物体が「大きさのある剛体」であることを明確にします。
重心は日常語でも使われるほど、浸透していますが、その本格的な定義は高校で初めて学びます。
2.重心の見つけ方
(1)は、中学校でも学んでいますが、その確認です。
(2)は、知っている人は知っている、簡単な重心の位置の判別法です。野球部やテニス部の人なら、経験的に知っている人もいるかもしれません。(2)については、摩擦も含め、理論的な解説が必要ですが、ここでその説明をするのは本筋から外れるので解説はしません。
ヤジロベエの問題は、有名な問題です。一見、支点の上にヤジロベエが載っているように見えますが、じつはヤジロベエは支点から「ぶら下がっている」ので安定しています。
3.二物体の重心Gの位置
このやり方が、テコの逸話(「足場を与えてくれれば、テコで地球も持ち上げられる」とアルキメデスがいったとかいわなかったとかいう話)で有名なアルキメデスの時代から続いている王道ですし、実際の問題を考える際にも使える方法です。
この式は最初は経験則で生まれたものですが、次に学ぶ「力のモーメント」(ガリレオが発見した概念です)のつりあいにより証明することができます。
4.上の方法とは別に、数学的な重心の見つけ方を紹介します。(この重心の式は、数学でも扱っているので、ほとんどの高校生は物理で学ぶ前に知っています)
通常の二物体の重心を求めるときは、上の3のやり方の方が簡単ですが、物体の数が増えてくると、4の数学的なアプローチのほうが簡単になります。
数式を使うか否かは、ケースバイケースで判断すべきですね。
5.例題
この3つの例題を通じて、重心の見つけ方の代表的な例を学びます。(1)(3)は比を使う方法が適しており、(2)は重心の式を使う方法が適しています。
(4)は、比を使う方法ですが、欠けた部分を補うことで対象的な形になることを利用した応用です。重心の式を使っても解けますが、欠けた部分を補う方法の方がエレガントで、簡単です。
6.直方体が倒れる条件
本来は力のモーメントを使って解く問題ですが、重心の位置だけで判断できるので、ここで扱っています。
日常生活では、この考え方で判断した方がより簡単ですから。
【講座内容】
1.剛体と重心
(バットなど、具体的な物を見せ)みなさんは今まで物体について、力のつりあいや運動方程式などを使って、どのようなことが起こるのかを考えてきました。しかし、実際の物体は大きさがあるので、右に動くとか左に動くとかだけでなく、回転運動もします。
じつは、今まで、物体は「大きさのない、質量だけが集中している点」すなわち「質点」として扱ってきたのです。
でも、実際の物体は大きさがあるので、回転も考えにいれないといけません。大きさを考慮に入れますが、ゴムのように変形するのは複雑になるので、変形しない理想的なものを考えます。
そこで、これからは「大きさがあるが、変形することがない物体」を扱うことにします。これを「剛体」と呼びます。
2.重心の見つけ方
大きさを持つ物体を点として考えるとき、その点の位置を「重心」と呼びます。
重心については、今までも聞いたことがあるでしょう。
(1)三角形の重心
三角形に限りませんが、複雑な形をした物の重心を実験により求める方法があります。
物体を糸で吊るすと、物体は糸を支える点の真下になって安定します。
これを利用した方法が、これです。(小中学校で聞いたことがあるでしょう)
物体の二箇所に糸をつけ、糸を持って物体を吊るすと、物体の重心は糸を支える点の真下になりますから、重心は糸の延長線上にあることが明白です。そこで、糸の延長線を物体に引けば、その線上に重心Gがあることは間違いありません。
そこで、別の糸を持って物体を吊るすと、同様に、その糸の延長線上に重心Gがあるので、糸の延長線を物体に引けば、前に引いた延長線と新しく引いた延長線の交点に、重心Gがあることになりますね。
こうやって、重心Gの位置を見つけるのが、実験的に重心を見つける基本的な方法になります。
(2)手に乗せる方法
重心を簡単に求めるのによく知られた方法は、重心の位置を知りたい物体を両手に乗せ、両手をじわじわと近づけていく方法です。
このとき、物体は右手と左手の上で交互に滑り、やがて両手が一箇所で出会います。
この点が、物体の重心の位置を示します。
手近にある筆箱や鉛筆で、実験してみましょう。
この方法は簡単なので、誰がやってもうまくいきます。
ただし、この方法でなぜ重心の位置がわかるのか、その理論は今のみなさんにはちょっと難しい。これを説明するには、次回学ぶ「力のモーメント」の知識と、以前学んだ「動摩擦力と静止摩擦力」についての知識を組み合わせる必要があります。もう少し後になって、知識が増えたところで、考えることにしましょう。
(問)ヤジロベエが指の上に安定して乗るのはなぜか。
(ヤジロベエを実際に見せて)この様に、ヤジロベエは指の上に乗っているように見えます。支点より上に物体の重心があるときは安定せず、ひっくり返ってしまいます。では、なぜ、ヤジロベエは指の上で安定しているのでしょう。
ヤジロベエの両手にはおもりが入っていて、ヤジロベエ全体の重心は図のように、かなり下にあります。ですから、一見、ヤジロベエは指の上に乗っているように見えますが、じつは、指からぶら下がっているのです。
3.二物体の重心の位置
みなさんはすでに、具体的な数字があるときの重心の位置については、中学校までで学んで知っていると思います。
Aが2kg、Bが3kgなら、重心の位置は図のl1:l2は何:何ですか?
(質問すると、たいていの人が「3:2」と正答する)
そうですね。2kgと3kgなら、重心Gの位置は「l1:l2=3:2」になるところです。
これを2kg→m1kg、3kg→m2kgと、文字に変えるだけなので、「l1:l2=m2:m1」となることは簡単に予想がつくでしょう。
重心の問題は、この比の関係式がわかっていれば、ほとんど全部解けます。
4.重心Gの座標
高校物理では、物体AとBの位置を座標で表し、重心Gの座標を求める方法も学びます。この方法は数学的で、物理的な実感が湧きにくいのですが、数式に表すことで便利になる面があります。それを見てみましょう。
図のように、A(x1,y1)、B(x2,y2)と、2点の座標を決めます。このとき、重心Gの座標(xG,yG)がどうなるか、調べてみましょう。もちろん、3.で学んだ「比の関係式」を用います。
GはABを「l1:l2=m2:m1」に内分する点です。
図から、l1とl2のx方向の成分l'1とl'2についても、Gは「l'1:l'2=m2:m1」に内分する点であることがわかります。
さらに、図から、l'1=xG-x1、l'2=x2-xGであることが明らかですので、上の式は、
「xG-x1:x2-xG=m2:m1」となります。
これを計算すると、書き込みの計算のようになり、最終的に、
xG=(m1・x1+m2・x2)/(m1+m2)
となることが証明できます。yGについても、同様です。
さて、重心の式は、このままでは、比の関係式に比べ、使いにくいだけで、あまり意味がないように見えます。(先にコメントしたように、重心の問題のほとんどは比の関係式で解けますから)。
ところが、物体の数が増えた場合は、この重心の式が重要な意味を持ってきます。
重心の式は非常に規則的な並びをした数式ですので、第3、第4の物体がある場合も、この式を形式的に拡張して、
xG=(m1・x1+m2・x2+m3・x3・・)/(m1+m2+m3・・)
と、作ることができるのです。
これなら、物体が100個あっても、1000個あっても、同じ計算の繰り返しなので、コンピューターで簡単に計算することができますね。
ここで、簡単なまとめをしておくと、次のようになります。
二物体の重心問題では、比の関係式を用いるとよい。
三物体以上の重心問題では、重心の式を用いるとよい。
5.例題
では、例題をいくつか解いて、重心を求めてみましょう。
(1)は、簡単ですね。
(たいていの人が正答できる)
(2)はどうでしょう?
(比の関係式を使っても解けるが、まずAとBの重心を求め、それとCの重心を求める、という二段階に分かれるので、できない人もいる)
比の関係式を使うと難しい人もいるでしょう。物体が3つありますから、こういうときは、重心の式を用いると簡単です。
図のように、Aを原点として、x軸をとり、A、B、Cの座標を求めてから、重心の式に代入すれば、誰にでも簡単に重心Gの座標xGがわかります。(Aでなく、別の場所に原点をとってもいいのですが、計算が面倒になります)
一応、比の関係式を使って解く方法も、書き込んでおきました。この場合は、まずAとBの重心の位置(3:2の位置)にAとBを合わせた5kgの物体があると考え、それと同じく5kgのCの重心(1:1の位置)を求める、という手順で考えます。
ただし、このやり方は物体の数が増えるほど大変になりますので気をつけてください。
(3)は混乱しやすい問題ですが、まず、挑戦してみましょう。自分が重心だと思う場所に、Gと書き込んでください。
(机間巡視すると、ほとんどの人が勘違いしているのがわかる。多い間違いは、曲がり角をGとする、針金の長さの半分の場所をGとするなど、針金上にGをとるケース。また、針金を三角形と考えて、三角形の重心の位置にGをとるケースもあります。また、惜しいケースとしては、針金の両端を連結した線を2:1に内分する点をGとするケースがあります)
では、ヒントを。
曲がった一本の針金と考えず、短い針金と長い針金が2本あると考えてみてください。
(このヒントで、正答に気がつく人もいる)
では、解答を。短い針金部分の重心は短い針金の中点にあり、長い針金部分の重心は長い針金の中点にありますね。
長い針金は短い針金の2倍の長さなので、質量も2倍。短い針金の質量をmとすると、長い針金の質量は2mです。これが、今いった短い針金の中点、長い針金の中点にそれぞれあると考えれば、(1)と同じ問題であることがわかります。
したがって、図に書き込んだように、2つの中点を2:1に内分する点が、重心Gの位置であることがわかります。
この問題は、一度経験すれば、二度目以降は間違えることはありません。
(4)三日月型の重心G
これは、通常の発想では解きにくい問題です。少し、実験をしてみましょう。
ここに、問題文と同じ装置があります。小円は大円の半分の半径です。
三日月型と小円の面積比、つまり、質量比は何対何ですか?
(正答の人が出るまで質問。たいてい、2〜3人で正答がでる)
そう、3:1ですね。(わからない人は、プリントの書き込みの最初の3行を見てください)
ということは、この2つが離れたこの位置にあるとき、それぞれ2つの重心から1:3の距離にある場所で支えると、そこが共通重心ですから、うまく釣り合うはずです。(実験をすると、釣り合うのがわかる)
では、この2つを、1:3の距離の比を保ちながら、近づけていきましょう。(実験をすると、釣り合いが保たれまままとわかる)
もっと近づけてこの状態にすると(実験を続け、2つを近づけていく)・・・釣り合う位置は、2つの形を合体させた大円の中心に一致することがわかりますね。
これがヒントです。
では、解いてみてください。
(この実験のヒントを見せると、問題を解くポイントに気がつく人が何人かでてくる。少し待つと正答者が増えてくるので、適当なタイミングで答え合わせに移る)
はい、正答者、出ました。x=r/6ですね。
まだ、わからない人もいるようですので、少し説明をします。
この図で、小円の重心Cと三日月型の重心Gの共通重心は、2つを合体させた大円の中心Oに一致します。
面積比、すなわち、質量比は、小円:三日月型=1:3なので、
共通重心までの距離r/2とxの比は、この逆比になりますから、
r/2:x=3:1
これより、x=r/6と出ます。
このように、欠けた部分を補うことで対称的な形になる場合は、2つのパーツの共通重心が合体させた対称形の中心に一致するので、その性質を利用して、三日月形など複雑な形の重心の位置を見つけることができます。
じつにエレガントな発想ですね。
この解法は、一人ではなかなか思いつきません。問題集などにある、他の似たような問題を解いて、この発想に慣れていきましょう。
6.直方体が倒れる条件
これは、経験的に答が分かる人が大半だとは思いますが、念の為、やっておきましょう。
条件を文章にできますか?
(なんとなくわかる人は多いが、それを文章化することができる人は少ない)
表現はいろいろ可能ですが、「重心が底面の外側に出たら直方体は倒れる」と書けば、だれでも理解できますね?
「重力の矢印が底面の外に出る」でも同じ内容です。
直方体が倒れる条件は、これより複雑な場合がありますが、重心の知識だけでは簡単に解けません。
剛体に働く力についての新しい考え方が必要になります。
それは、次回のお話になります。
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