電流戦争、最終回です。
エジソンとともに感電死実験を行っているのはハロルド・ブラウンという謎めいた人物。どういうわけかエジソン同様、ウェスティングハウスの交流電流が嫌いで、交流による動物感電死実験を見世物のように見せていた人物です。
おそらくブラウンの方からエジソンに近づいたものと思われますが、ブラウンはエジソンの代理人のように、さまざまな場所で動物感電死実験を繰り返しています。エジソンとブラウンは共通の敵ウェスティングハウスを通じて協力関係になったのでしょうか。
エジソンのウェストオレンジの発明工場では、最初、地元の子供達が捕まえてきた野良犬や野良猫で感電死実験をしていました。小遣い程度の対価を渡していたのですが、そのうち、街から野良犬、野良猫の姿が消えてしまったといわれています。
その後は、業者などから実験用動物を買うようになります。
電気椅子については、もともとは裁判所側からの要請で研究することになったものです。
当時、「絞首刑が苦痛を伴う残酷な死刑法だ」という論調の世論が強くなり、裁判所は発明王エジソンに「人道的な死刑方法を考案して装置を作ってほしい」と依頼しました。
この依頼をエジソンは一度断っています。「人を殺す発明には関わらない」ということだったのでしょう。
ところが、ウェスティングハウスとの電流戦争で旗色が悪くなってくると、そうも言っていられなくなります。以前、依頼された新しい死刑方法として「電気椅子」の開発を始め、それにライバルの交流を採用することにしました。「交流のほうが直流より人体には危険」という宣伝に使うためです。
感電で殺すことを「ウェスティングハウスする」という新語として発表したのも実話です。
電気事業の投資家は最初、高名なエジソンの電力会社と契約していたのですが、送電の経済性からウェスティングハウスの交流のほうが圧倒的に有利だと知ると、次々に契約をウェスティングハウスの会社に切り替えていきました。
近づく万博で、会場の電気として、直流・交流のどちらが採用されるかが、電流戦争の最後の決着をつける決定打になることがわかっていました。その前に、なんとしてでも交流が危険だというネガティブキャンペーンを成功させなければなりません。
電気椅子は、ウェスティングハウス社の中古発電機を手に入れて作成。
死刑もついに執行されました。
が、これが事件に。
なにせ、初めてのケース。死刑囚に通電したのですが、まだ息があったのです。慌てた執行官はもう一度スイッチを入れるように指示、ようやく死刑が執行されました。
ところが、この話が伝わってしまい、「人道的な死刑方法」のはずの電気椅子が「残酷な死刑方法」として批判を浴びます。
エジソンは「執行官が指示通りにセッティングしなかったせいだ」といいわけをし、細かい指示を出しましたが、次の死刑執行でも似たような事件が。
エジソンの企んだネガティブキャンペーンは失敗し、万博委員会は会場の電気としてウェスティングハウス社の交流を採用しました。もちろん、万博会場にはエジソンの会社のブースもありましたが、電流戦争はウェスティングハウス社の圧勝に終わりました。
電気椅子による死刑執行の話は、さすがに科探隊のマンガで扱うのは生々しすぎるので、話題だけ紹介することにとどめ、電流戦争の1つの象徴である、動物の感電死実験の話だけを取り扱いました。
なお、電流戦争に負けた後も、エジソンの研究所は派手な動物の感電死実験を何度か行っています。その理由はよくわかりません。当時の感電死実験の映像(象など)は、今でもYouTubeで見ることができます。あまりおすすめはしませんが。
また、この動物実験に関しても、「動物の感電死実験は苦痛を伴わない死刑のための研究」という建前で、動物愛護協会とも折り合いがついていたはずです。エジソンは動物愛護協会とも連絡を取っていたようですから。
このあと、エジソンの「エジソン・ジェネラル・エレクトリック社」は「ジェネラル・エレクトリック社」と社名変更され、エジソンを追い出して、交流を採用しました。この戦略のおかげで、新しく建設される発電所は、ウェスティングハウス社とジェネラル・エレクトリック社の両者が作ることになりました。
ウェスティングハウスもこれで大成功、というわけにはいきません。多角経営に失敗したウェスティングハウス社は結局なくなり、ジェネラル・エレクトリックが残ることになります。皮肉ですね。
エジソンは自分の作った電力会社を追い出されたのですが、エジソンの精神のタフさは尋常ではありません。
エジソンの伝記的には、この後、映画を発明してエジソンは大成功した、ということになりますが、これにも別の裏話が。エジソンはそもそも映写機でスクリーンに映し出す映画方式には否定的です。
ソフトよりハードで設ける、という発想のエジソンは、映写機は商売にならないと考えていました。それまでエジソンが売っていたのは、覗きカラクリ装置。これは一人しか見られないから、人数分売れる、という発想です。1つの映写機でたくさんの人間が見る、ということが商売になるとは思わなかったのです。
エジソンが映画製作に乗り出すには、エジソンの取り巻き(エジソンの名声で儲けようとする人々)が大きな役割を果たしますが、それはまた、別の物語。(知りたい方は、記事電流戦争〜発明王の光と闇2〜ミオくんと科探隊を御覧ください)
今回の科探隊の物語は、今までのとは毛色が違いますが、科学のダークサイドを知ることも必要だと考えて描きました。
また、エジソンとテスラを対比する話も描きたかったのですが、それはまた別の機会にしたいと思います。
では、また。
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