■「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)」入賞■
これはかなり嬉しい……!!
ただ、他の受賞作もかなり秀逸な作品揃いで、大賞を獲得するのは並大抵の事ではありません……
皆様、応援宜しくお願いします!!!
吾輩は亀であった / じゃいがも | BOOK SHORTS http://bookshorts.jp/20140110w/
■試し読み~その5~
【カメレオン男】収録
『カメレオン男』
敵のアジトへとたどり着いた俺は、裏口から中へと忍び込んだ。
監視カメラの位置は、把握している。
俺はカメラの死角を進みながら、彼女を探した。
階段を駆け上がり、物陰から物陰へ素早く移動し、部屋という部屋をしらみつぶしに調べた。
そして、ついに俺は彼女を見つけた。しかし、一般人であるはずの彼女は白衣に身を包み、敵の研究員らしき男とにこやかに言葉を交わしている。
俺は思わず部屋に飛び込むと、我を忘れて叫んだ。
「おい、何をやっているんだ!まさか、俺を裏切ったのか」
彼女は俺の姿を見ると、ぎょっとした。まさかといった表情だ。
「あなた、何故ここに?」
彼女は、後ずさりした。
俺は彼女に詰め寄った。命懸けで助けにきたというのに、なんて奴だ。
彼女の肩を掴んだ瞬間、彼女はポケットから小型のスプレーを取り出すと、俺に向かって噴射した。
すると、急に身体の力が抜け、俺は床に倒れ込んだ。強烈な眠気が襲ってくる。
(しまった!催眠ガスだ)
そう思ったと同時に、俺の意識は途絶えた。
男の意識が途絶えるのを確認したあと、白衣の男が、女のもとへ駆け寄った。
「先生、大丈夫ですか?」
助手の問いかけに、女医は襟を正して言った。
「大丈夫よ。自分はスパイだと言ってここを脱走した彼が、自分からこの病院に戻ってきたのには驚いたけど」
「001号室の患者は、完全に自分をスパイだと思い込んでるようですね。それに、先生の事を自分の恋人だと思っているようで」
「ええ。それにしても、厄介な病気ね。妄想と現実の区別がつかなくなるなんて」
女医は、男を病室に収容するよう部下に指示すると、彼のカルテを手に取った。
「それにしても興味深いわ。彼は妄想の中での自分と同じ力を、現実世界でも発揮できる。自分がスパイだと思い込めばスパイの力を、スポーツ選手だと思い込めば、その通りの力を発揮する。一体、どういう事なのかしら」
助手も、興味深げにカルテをのぞき込んだ。
「彼はそもそも、色んな才能を秘めた人間なのでしょう。病気にさえならなければ、きっと、歴史に名を残す大人物になっていたのかも知れませんね」
女医はくすくすと笑った。
「そうね。彼、次は一体どんな役になるのかしら。まるでカメレオンね」
ちょうどその頃、001号室へと連れ戻された男は、ベッドに拘束されながら、しきりに何かを呟いていた。
「俺は殺し屋だ。世界一の殺し屋だ。あの女医と助手め。俺を罠にかけやがって。待ってろよ、今に復讐してやる。復讐してやる。復讐してやる………」
~おわり~
■試し読み~その4~
【カメレオン男】収録
『カメレオン男』
俺はスパイだ。コードネームは、001号。
スパイといったって、俺は並のスパイじゃない。世界一優秀なスパイだ。
俺に入り込めない場所はないし、盗めない情報もない。
いくつもの諜報機関を出し抜き、〝組織〟に貢献してきた。
しかし、今回は少しばかりハデにやり過ぎてしまった。
ある敵対組織に囚われ、命からがら逃げ出してきたのだ。
辛くも追手を振り切った俺は、恋人のもとへとたどり着いた。
一見、普通のアパートに、世界一のスパイの恋人が住んでいようなど、誰も思うまい。
俺は彼女の部屋のドアをノックした。
しばしの沈黙のあと、ドアはゆっくりと開かれた。
しかし、中から現れたのは、愛する彼女とは似ても似つかぬ中年の男だった。
男は怪訝そうに俺を睨み、「どなたさんだい?うちに、何の用かね」と言った。
俺は一瞬たじろいだが、すぐに悟った。
彼女は既に、やつらに捕まってしまっているのだと。
一般人に見えるこの男も、敵のスパイに違いない。
俺は全力でその場から走り去った。ぐずぐずしていると、俺まで捕まってしまう。
そう、こうなってしまった以上、俺のすべき事は、ただひとつ。敵の組織に乗り込み、彼女を救い出す事だ。
愛する彼女を連れ去った連中を、許す事など出来ない。
~つづく~
■試し読み~その3~
【カメレオン男】収録
『ある主婦の要求』
美津子は慌てて身を起こし、叫んだ。
「違うの、これは…」
すかさず、警察官も叫ぶ。
「何が違うんだ?そうか、何か要求があるという事だな?出来る限り要求に応えよう!」
「そうじゃなくて…」
言いかけた言葉を、今度は正の声が遮った。
「美津子ーーーーーっ!!」
会社にいるはずの正が、なぜ急に現われたのか。美津子は呆然とした。
正は警察官に駆け寄り、拡声器をむしりとると、叫んだ。
「美津子、何でこんな事をするんだ!一体、何が気に入らないんだ!そうか、偶然見つけたお前のへそくりを、こっそり使い込んだ事に気付いたんだな?すまん、私が悪かった、だから武器を捨て、出てきてくれ!」
(…なに?)
夫の安月給を上手にやりくりし、五年かけて貯めたへそくりを使い込んだと、夫は言ったのか。
ふつふつと怒りのボルテージが上昇した美津子だったが、それどころではない。今は事情を説明し、騒ぎを収めるのが優先だ。
美津子はかぶりを振り、正に言った。
「違うのよぉ、そんな事はどうでもいいの!」
すると正は、観念したように声を絞り出した。
「…そうか。気付いてしまったんだな。そうだ、俺は隣の部署の子と、三年前から不倫をしている。今日も、本当はその子とデートをしていたんだ!私は、彼女を愛しく思っていた。しかし、それは気の迷いだと、今、気付いた!私が愛しているのは、お前だけなんだ!」
「へっ?」
美津子は、間の抜けた声を出した。
夫は今、何と言ったのか。
不倫?
毎日粛々と家事をこなし、良い妻であり続けようと努力してきた。もちろん、夫を裏切った事など、一度たりとも無い。
そんな妻を尻目に、仕事と偽り、若い娘と懇ろになり、あまつさえやっと貯めた雀の涙程度のへそくりを使い込んだと、夫はのたまったのか。
「美津子、簡単に許してくれとは言わない。私に出来る事は、何でもしよう。さぁ、お前の要求は何だ?」
正の言葉に、美津子はぼそりと応えた。
「……リコン……」
「え?」
一同は、声をそろえ聞き返した。
「離婚よっ!!!」
美津子はあらん限りの声で叫ぶと、紺碧の空に再び、銃弾を放った。
~おわり~
■試し読み~その2~
【カメレオン男】収録
『ある主婦の要求』
しかし、目だし帽をかぶったままの美津子の姿に、青年たちは「何だよ、先客がいたのかよ」と、それぞれの武器を捨て、逃げ去った。
美津子は、へなへなとその場に座り込んだ。下手をすれば、自分は殺されていたかもしれない。
美津子はナイフと猟銃を拾い上げると、それらをまじまじと見つめた。もしかしたら、このナイフを身体に突き立てられ、銃弾を浴びせられていたかも知れなかったのだ。
その時、異変に気付いた男性教師が、教室から出てきた。そして、目だし帽をかぶり、ナイフと猟銃を持った美津子を見つけ、顔色を変えた。
男性教師は目をむき、あわあわと口をぱくつかせ、叫んだ。
「凶悪犯だ!みんな、外へ逃げろ!」
美津子は慌てて教室に飛び込み、「違うんです、これは…」と、両手をあげた。
しかし、突然現われた凶悪犯に、生徒たちはパニックに陥り、悲鳴を上げながら逃げ出した。
ひとり教室に残された美津子は、目だし帽を脱ぎ捨てた。
「何でこうなっちゃうのよぉ…」
美津子は、その場にへたり込んだ。
その時、窓の外から、誰かが拡声器で語りかけてきた。
美津子は恐る恐る、窓の外を覗いた。すると、校庭には避難した全校生徒のほか、通報で駆けつけたと思われる大勢の警察官の姿があった。
警察官は、片手に拡声器、片手にジュラルミン製の盾を持ち、毅然とした口調で語り掛けてきた。
「君はもう、すっかり包囲されている。罪を重ねる前に、武器を捨て、大人しく出てきなさい」
美津子は唖然とした。生徒たちの非難の視線と、警察官の投降を呼びかける言葉を、なぜ私は浴びなければならないのか。
娘の弁当を届けに来ただけなのに。
そんな思考を、校庭にいた加奈の声が遮った。
「えっ?うそ!お母さん?お母さんでしょ?お母さん、何で?」
美津子は我にかえり、娘に事情をしようと、窓から身を乗り出そうとした。
その時、美津子は自ら脱ぎ捨てた目だし棒に足をとられ、窓枠に倒れ掛かった。そしてその勢いで、美津子の抱えていた猟銃から空に向け、一発の銃弾が放たれた。
あちらこちらで悲鳴があがり、警察官も「無駄な抵抗は、やめなさい!武器を捨てるんだ!」と声を荒げた。
~つづく~
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■試し読み~その1~
【カメレオン男】収録
『ある主婦の要求』
美津子は、朝食の後片付けをしていた。
サラリーマンの夫・正は会社へ、中学生の娘・加奈は学校へ、それぞれ向かった。
今から夕方まで、美津子はひとり、家事をこなす。
途中、昼寝をしたり、お茶をすすりながらドラマをみたりもするが、すべき事をこなしているうちに、大抵、夕方になっている。
絵に描いた様な平凡な毎日だが、美津子は、まんざらでもない。揉め事や争い事が苦手な美津子は、この平和な生活に満足しているのだ。
後片付けが終わると、美津子は洗いあがった洗濯物が入ったカゴを抱え、二階のベランダへと向かった。
途中、ふと玄関に目をやると、加奈に持たせたはずの弁当が、上り框に置かれている。
加奈が、置き忘れていったのだ。美津子は、やれやれ、と溜息を吐く。
洗濯物を干し終えた美津子は、加奈の弁当を自転車のカゴに入れ、加奈の通う中学校へと向かった。
授業中に母親に弁当を届けられては娘が恥をかくのではないかとも思ったが、幸い、娘のクラスは体育の授業のようで、三階にある教室には誰もいなかった。
美津子は加奈の机に弁当を置き、教室を出ようとした。
その時、美津子は足元に、何か黒いニット帽のような物が落ちている事に気付いた。
拾い上げてみると、それは目だし帽だった。
そういえば、来月の学芸会で、加奈のクラスは「オペラ座の怪人」をやると聞いている。
美津子は、何気なくその目だし帽をかぶり、窓ガラスに自分の顔を映した。
「何これ。これじゃファントムと言うより、銀行強盗じゃない」
美津子はくすくすと笑い、目だし帽を脱ごうとした。
その時、教室の外で、何やらこそこそと話し声が聞こえた。
美津子が恐る恐る廊下をのぞくと、二人組の男たちが、隣の教室の様子を窺っている。
「いいか、今から教室に踏み込んで、生徒を人質に取る。身代金をがっぽりとふんだくって、俺たちは外国で遊んで暮らすんだ。ぬかるなよ」
二人とも、一見おとなしそうな青年だが、一方の青年はナイフを握り、もう一方の青年は猟銃を抱えている。
驚きのあまり、声も出せないまま後ずさりした美津子だったが、恐怖のあまり足がもつれ、引き戸に身体をぶつけてしまった。
驚いた青年たちは、「誰だ」と美津子に振り返った。
~つづく~
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