「いいなあ、それ、楽しそう」

「んでさ、俺が見てるとさ」

川島は、すっかりおびえた表情をひっこめた。

よかった、こっちの道を通らせたかったのは、俺が見たきれいな女の人やお祭りの準備で盛り上がってるおっさんたちを見せたかったからなんだ。その人たちは、俺に一緒に遊んで行けよという風に手を振る。いつも出てくるわけではないし今日もいなかったが、その何人もの人たちが俺は好きだった。

「んじゃこっち、俺んち」

川島と話し合って、もっとどんなものが見えるのか聞いておこう。川島に、きれいなものを見せてやりたい。

「あ、ほんとに自転車とってくるんだ」

「うん、二人乗りはしねえけどな、この先に二人乗りで事故った姉妹の自縛霊が出るところがあるんだ」

あ、しまった。

「つっても二人でチャリ押して歩いてるんだけどな」

川島の反応を見る。

「そうか、水沢君がまじめなのっていろいろ見て教訓を得ているからなんだね」

よかった、まじめに受け取って、怖がってはいない。

「そう、そういう忠告のために出てきてくれる人って結構いるからさ」

「うん、そういうのが受け止められるのはいいね」

川島が、真剣に受け答えた。俺を振り仰いで、微笑んで言う。

「大事なことだね、私もそういうの、教えて」

その笑顔が、とても大事に思えた。でも恥ずかしかったし、ちょうど家の前についたことだしでごまかした。

「おう。じゃ、ちょい待ってチャリとって来る」


水沢君が旧道のほうを通ることを誘ってくれた。怒ってないし、行く気がないわけでもないようだ。よかった。ちょっと意地の悪いことをしてしまった気がする。

「あ…」

そこは、ちょっと柄の悪い町だった。今は静かな商店街になっているが、昔はなんというか、繁華街だったようだ。私は、こういうところは結構見慣れている。古いところでたくさん人が行きかって、ここで生きて死んだ人が思いを残している。だから、珍しくはない。

でも、やっぱりちょっと怖い。ここで働かされていた女性とか、行き場がなくて転がり込んだ人殺しとか。ここには怖い人がいる。

「あの、ここ、ちょっとこわいかな」

悪いことをしてくる人がいるわけではない。基本的に向こうからは私は見えない。でも、私にとっては怖いのだ。ちょうど、クラスで誰かがけんかをしだしたとき、自分が殴られそうなときよりもずっと怖いと感じるように。

「え、そうなの?」

水沢君が不思議そうにこちらを見る。

「ごめん、俺にとっては普通に時代劇の人たちが歩いてるところくらいの感じなんだ。この辺りに同級生の家とかあってさ、そいつは俺が見えること知ってたから結構気楽だったから、あそびにいっててたりして」

なんの引っかかりもなく来ていたようだ。

「俺、こう悪い感じのものは何も見えない人間なんだ。なんか俺に言いたくて怒り出したりしたとたん、その人俺からは見えなくなっちゃうくらいにさ」

「そんなことあるの?」

「うん。俺は、なんか悪いことから逃げるのがうまいらしい。だから、俺といれば大丈夫だよ」

そういうと、水沢君は、曇りなく笑った。得意そうに、安心させるように。

「へえ、そんなことあるんだ」

私は、水沢君の笑顔に応えたくて、笑って見せた。

「そう。で、基本その人が普通に生きてたころの格好でしか見えないから、ホラーっぽい落ち武者とか幽霊とかなんか見たことないんだ」

「へえー!」

「あれ、一緒に帰るとこだった?」

加藤が聞いてくる。相変わらず鋭いね。

「ああ、図書館行くって言うからさ。じゃな」

そう答えると俺は加藤の横をすり抜けて川島の後を追う。

「おおーがんばれー」

加藤の声が追ってくる。何を?と聞こうと思ったが川島が妙にずんずん進んで行っちまうからとりあえず急いで追いかけた。

昇降口で追いつくと、靴を履く速度で追いついた。なんだ?恥ずかしかったのか?でも岸谷のときにはこんなんじゃなかったのにな。

同時に昇降口から出て、同時に校門から出る。ずっと黙っているから一緒に帰っているという気がしない。5分近く歩いて川島が普段曲がるだろう角まで来たころに、ようやく川島が口を開いた。

「あのさ、水沢君、大丈夫だよ、私、ひとりでもいけると思うし」

変なことを言い出す。

「え、何で。別に方向一緒だからいいじゃん」

これは遠まわしに断られているのか?わかんねえ。

 や、悪いし」

断られてる気がする。多分。何がいけないんだ。

「や、でも、せっかくだし。俺んちのそば通るんだし。それに、帰り!暗くなるかもしれないしさ、帰り送るよ」

ふと気づくと、なんとなく川島がすねている?ように見えた。戦略を変える。

「それに、一緒に行きたいしさ」

うおー!はずかしいいいいいい!

しかしここで目をそらしてはいかん、と部の友永先輩も言っていた!

実は、今日川島と一緒に帰ることを自主練のときに部活の先輩に相談していた。友永先輩ははっきり言ってもてる。しかも自然なもて方だ。友永先輩によると、女子には素直になれということだ。恐ろしい難易度だがとりあえず言ってみた。

「…うん、ならいいんだけど」

おお、態度がみるみる軟化する。対応、合っていたぞ。

「あ、そうだ、この辺はまだ新しいんだけどさ、もう一本向こうに行くと町並み古いよ。行く?」

当初の予定を外れた。川沿いはまた今度だ。

「うん」