その日二人が行く場所というのは、隣の無人駅を出てすぐのところにあるつぶれた旅館だった。淳と香子はおのおのの部活道具と塾のテキストの入ったかばんをコインロッカーに預け、身軽になって電車に乗った。
「不法侵入になっちゃうし、建物の中までは無理に入らなくていいんだけど、建物周りを見てくっていうことで」
見るのは類のほうが得意だけれど写真を撮るのはさらさのほうが強いそうだ。
「私が撮ったのでも心霊写真だったときなんかにはそのまま雑誌に載せるかもってことだから、できればねー」
無人駅で降りたのは4人だけだった。8時台の電車の時刻を確認して類が携帯電話のアラームをセットする。類とさらさはそのままプリペイドカードで、淳と香子は一駅分の切符を改札機に入れて清算をし、改札口から出た。4人は駅の前の長い、コンクリートの緩やかな階段を下りていった。階段を降りきるとすぐ脇が旅館の敷地だった。
「あー、玄関どこかわかんない感じだねえ」
旅館は玄関と座敷と帳場がひとつの建物であり、そこから廊下が伸びて奥に客室が別棟になっていた。ただ、玄関として張り出していた部分は取り壊され、いきなり次の間があるだけになっていた。
「川島、わかる?」
「えと…水沢君、には、玄関が崩れているのだけが見えているんだよね。今ある建物の前に土間があって、そこも建物の一部で、玄関になってた。その部分は取り壊したみたいだね。あ、ほら、あそこ、瓦が敷いてあるところ、昔建物の中だったんだよ。すごいな、この建物、すごく長く建ってる、古かったんだね。すごくしっかり見えるし、なんかちょんまげの人が玄関前掃いているよ」
「え、何、そんなの見えるの?」
さらさが驚いたように高い声を上げた。雰囲気が雰囲気なので緊張していたようで、わざと恐れ気をはらうように大きな声を上げている。
「あの、古い建物とか、もうなくなった建物とかは結構見えるんで…」
「へえ…建物?人は?今の建物との関係はどうなるの?」
「えっと、建物に付属の人はって感じです。建物の手入れとかしていたりして執着ある人が見えたり。今の建物と、昔の建物が二重写しに見える感じで」
「建築好きとか?」
「あ、好きかも知れません。お城とか好きで」
「へえ…そうそう、この建物、江戸時代の建物らしいよ。古い湯治場が旅館になったみたいでね」
「玄関はとりあえず入れないね。どうしようか」