あと15分ほどで香子が塾に行かなくてはいけないという頃、隣の机に高校生くらいの男子が座った。真面目そうでも不真面目そうでもない、普通の高校生という感じで駅から徒歩10分くらいの中堅の高校の制服だった。淳が一瞬振り向いて、目を背けた。

「なに?」

香子が目ざとく気づく。

淳の目には高校生の後ろに同じ高校の制服を着た少女の姿が見えた。でもよく見ると、自分の足で歩いているのではなく、高校生の左肩に右手を置き、それだけで自分を支えていた。地面に触るように足が付いているのに、動かしていない。

「いや、ちょっと、離れようか」

「…あの人?」

「うん」

二人が立ち上がりかけたとき、その高校生も二人をみた。淳の動きが止まる。

「あ、もしかして、キミ、こいつ見えてるかな」

高校生がなんでもないようなことのように声を掛けた。淳は見えているがなんといっていいかわからず、何もいえなかった。香子には何も見えていないのでかえって恐れることなく動けた。

「水沢君、行こう」

「いやいや彼女さん、お兄さん怪しい人じゃないから」

高校生が苦笑いするように言う。

「俺、見えてそうな人、わかるんだよね」

香子も黙り込む。

「この人はね、俺の姉。ちょっとまって、俺の連れが来たから」

「ルイ、何ナンパしているの」

二人は目の前の高校生に気を取られていたので、ちょうど計ったようなタイミングで後ろから声を掛けられてびっくりした。振り向くと、3駅先の私立高校の制服を着た女子高生が立っていた。

「サラ、はは、お仲間。姉ちゃんが見えるみたい」

「あ、ほんと?どっち?」

「男のほう。でも女子も見えそうなんだけどねえ」

「あ、うーん」

そういうと、女子高生は香子の目をじっと覗き込んだ。香子は呆然として体が動かなくなった。香子の目のずっと奥に視点が合わされる。

「そうね、見えそう。でもあんまり焦点が合ってない感じ」

女子高生の目が離されると、香子がひざの力が抜けたように椅子に座った。

「川島」

淳と目が合っても香子はなんとなくぼんやりしていた。

「ありゃ、刺激的すぎたか」

男子高校生は香子の前に両手のひらを差し上げると強く一度打ち鳴らした。高く、力強い音がした。

香子の目に力が戻る。いい音だ、と淳は反射的に思った。練習でリズムを取るときに拍手はしなれている。こいつも、打ちなれた音だ。

拍手(かしわで)。効くんだね」

女子高生は満面の笑みを浮かべた。邪気のない、明るい笑顔だった。悪気があったわけではないらしい。

「ねえ、ルイ、この子達、仲間にできないかな。まだ何の訓練もしていない感じ」

香子が眉をひそめて女子高生を見る。

「そうだな、どうだい?」

「何がですか」

淳が身構えて答える。

幽霊退治。は、ちょっとはったりで、幽霊調査かな」