『500ページの夢の束』(2017年) #MOVIX京都 #ダコタ・ファニング #スタートレック | HALUの映画鑑賞ライフのBlog

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先月9月の毎月20日のMOVIXデーに、久し振りに、京都市営地下鉄に乗って父親と一緒に鑑賞に出向いた作品です。

もう既に京都府内ではこの映画は、上映が終了している作品ですが、公開当時は上映館がたった9館しかなかった事を考えると、今回も頑張ってMOVIX京都にて公開にこぎ着けてくれていた事を感謝したいほど、ここ数年に亘り現在もPTSD障碍を患って加療している私にとっては、とても勇気づけられるような素晴らしい作品でした。

 

 

「自閉症女性の自分の居場所探しロードムービー(18.9/20・字幕)」

ジャンル:人間ドラマ

原題:PLEASE STAND BY

製作年/国:2017年/アメリカ

配給:キノフィルムズ

公式サイト:http://500page-yume.com/

上映時間:93分

公開日:2018年9月7日(金)

監督:ベン・リューイン

キャスト:

ダコタ・ファニング、トニ・コレット、アリス・イブ、リヴァー・アレクサンダー、マイケル・スタール=デヴィッド、ジェシカ・ローテ

マーラ・ギブズ、ジェイコブ・ワイソッキー、パットン・オズワルド、ロビン・ワイガート 

 

 

【解説】

ダコタ・ファニングが自閉症を抱える少女を演じ、ある思いを胸に500ページの脚本を届けるためハリウッドを目指す旅の中で、少しずつ変わっていく少女の姿を描いたハートフルストーリー。

自閉症のウェンディは「スター・トレック」が大好きで、自分なりの「スター・トレック」の脚本を書くことが趣味だった。

ある日、「スター・トレック」の脚本コンテストが開かれることを知った彼女は、渾身の一作を書き上げる。

しかし、郵送では締め切りに間に合わないことに気づき、愛犬ビートとともにハリウッドを目指して旅に出る。

ダコタ・ファニングが主人公ウェンディを演じ、ウェンディを支えるソーシャルワーカーのスコッティ役でトニ・コレット、ウェンディを案じながらも訳あって離れて暮らしている姉オードリー役でアリス・イブが共演。

監督は「セッションズ」のベン・リューイン。

 

(以上、映画.comより、引用抜粋。)

 

 

今作は、『I am Sam アイ・アム・サム』や『宇宙戦争』、『リリィ、はちみつ色の秘密』などの演技で天才子役の代名詞的な存在となったダコタ・ファニング主演の最新作ににして、すっかり大人になった彼女の活躍と演技だけとっても、確かな魅力を引き出していた作品と言って良いかと思います。

 

 

この作品のお話しの流れとしては、『スター・トレック』というSFドラマの脚本コンテストが開催されることを知った主人公のウェンディ(ダコタ・ファニング)が、渾身の作品を書き上げたものの、郵送では連休を挟むため、もう締め切り日には間に合わなくなってしまった事を知り、仕方なく、愛犬ピートとともにLAのハリウッドのパラマウント映画社まで数百キロの旅をするというお話しであり、旅を通して人として成長をしていくといった、所謂、自分の居場所探しでもあるロードムービーです。

 

 

ただ、この主人公ウェンディはアスペルガー症候群的な、所謂、広い意味合いでの広義の自閉症を抱えているのでした。

周りの人とのコミュニケーションが上手く取れなかったり、会話の意図することを読み取れなかったり、自分なりの拘りや習慣的なルーティングワーク的な行動に執着してしまう特性が強い性格の持ち主の症状などが広くよく知られていますが、この映画の自閉症の主人公ウェンディは相手の目を見て話すことが出来ないなどの特徴が挙げられますが、そんな彼女が誰にも内緒で一人旅をするとどういうことになるのかと言うと、当然、他の一般的なロードムービーよりも初歩的な段階で多くのつまづきや困難に遭遇し、本当に大丈夫なの?と良い意味合いで、日本のTV番組の「はじめてのおつかい」のロケの如く、ハラハラドキドキし通しになってしまいます。

 

 

とは言え、その旅を通して自閉症そのものを否定的に見たりはしない。

単なる<足かせ>だけにしていない点が、今では懐かしいあの『レインマン』や『ギルバート・グレイブ』や邦画では『音符と昆布』など、障碍を持った<きょうだい>に振り回される側を主体に描いた映画は多かったのですが、本作は、あの快作『セッションズ』のベン・リューイン監督だけあって、あくまでも自閉症という障碍を背負った側の視点で描いており、自閉症の強い拘りや執着心がプラスに作用することもあり、旅を通して「彼女はこんなことも出来たんだ」と、その障碍者の可能性を広く肯定する内容になっている点が本作の美点でもあるかとも思います。

 

因みに、自閉症の女性役を演じるに当たって、ダコタ・ファニング自身、自閉症について大量のリサーチはしたものの、演じるキャラクターについては、「自分だけの解釈や拘りをなるべく残す様にしていた」と語っているだけあって、お蔭で、主人公のウェンディ像は画一的な自閉症のキャラクターではなく、1人の魅力的な人間として描かれていました。

 

 

本作の最大の特徴は、主人公ウェンディが『スター・トレック』の知識ならば誰にも負けない<オタク>であり、旅に出る動機も『スター・トレック』の脚本コンテストにオリジナルの脚本を届けに行くというものであって、物語の上で不可分なものとなっています。

 

 

この『スター・トレック』では劇中で黒人女性やゲイの人物設定がいる他、最初のシリーズの(日本では『宇宙大作戦』という邦題で呼ばれていた)SFドラマシリーズの登場人物の地球人のカーク大佐(艦長)と、バルカン星人と地球人のダブル(ハーフ)のミスター・スポックの2名が特に有名で、また、ドラマ自体も『スター・ウォーズ』などの戦争モノのSF映画とは大きく異なり、未知の星域への宇宙探査に行くことを主たる目的とした多種族を擁する艦隊の冒険譚の体裁をとっている惑星連邦によるSFアドベンチャードラマであって、あたかもこの『スター・トレック』自体が、人種・民族の多様性を重んじるアメリカという国家・社会そのものの隠喩とも言えるかも知れないですね。

 

 

ここで重要なのは、その『スター・トレック』に登場する、感情の抑制が効きにくいバルカン星人と地球人とのダブル(ハーフ)である人気キャラクターのミスター・スポックが、地球人を見習って感情表現を上手くコントロールしようと図っている種族であり人物であることから、ミスター・スポックも、謂わば、ある種の発達障碍または自閉症の様な傾向もあり、このお話しの主人公ウェンディ自身も、自閉症である自分の姿をそのミスター・スポックにも投影しながら、脚本コンテストに投稿するオリジナル脚本の内容にもその性格なども活かしつつ、その脚本のテーマ自体が、現在の仮の宿の自立支援施設や自立支援としてアルバイトに従事しているシナボンロールのお店などではなく、本当の自分の居場所探しという事にも繋がってくるであろう点ですね。

 

 

更に補足すれば、本作の原題の『PLEASE STAND BY』は「そのまま待機せよ」に相当する言葉ですが、女性ソーシャルワーカー役のトニ・コレットの役名はスコッティですが、これは『スター・トレック』のエンタープライズ号の機関主任モンゴメリ・スコッティの名前と同じであり、エンタープライズ号の艦長若しくは機関主任から、状況が把握出来ない時に、乗組員への指示によく使われる言葉であって、「そのまま待機」という状態自体が、<曜日毎に決まった色のセーターを着る>と言った拘り・ルーティングの生活から脱却した自閉症の女性ウェンディが、旅の途中でパニックにならずに落ち着こうとする際に、床に伏せながら、おまじないをかけるかの如く唱えている姿と、『スター・トレック』の乗組員たちの非常事態における状況とがシンクロしているかの様でもありますね。

 

 

 

またミスター・スポックがキレて凶暴化すると地球人は太刀打ち出来ないところは、パニックに陥ったウェンディの暴れようともシンクロするかもしれないですね。

 

 

また更には、米国本国版のポスターでは、片手を挙げて、人差し指と中指、薬指と小指をくっつけて、その間を離して、「V」の文字を作る仕草は、『スター・トレック』のバルカン星人の間での<長寿と繁栄を>を意味する挨拶を表す意味もあったりします。

 

 

この様に劇中ではこの他にも『スター・トレック』のファン層(トレッキー)であれば大いに納得出来たり、クスッと笑える様な小ネタやオリジナル・サウンドトラックからの劇伴の引用なども多い本作なのですが、実のところ、『スター・トレック』を観た事がない人でも全く問題無く楽しめる様な簡単な説明がなされますのでご心配無用です。

 

 

予告編や宣伝などでは、『スター・トレック』本編では台詞でしか出て来ないドクター・マッコイの娘の名前を、主人公ウェンディが直ぐに答えてしまうシーン等、マニアックな部分が妙にクローズアップされてしまいがちでしたが、そこはさほど重要でもありません。

 

 

要は、大切なのは、<主人公にとって大切な生き甲斐的な作品がある>という事。そして『スター・トレック』がアメリカの社会・国家の<多様性を示す作風のSFドラマシリーズ>である点。その劇中に発達障碍や或いは自閉症の様な傾向のある人気キャラクターが活躍しているということなのですから。

 

 

 

また本作では、姉のオードリー役にアリス・イブ。彼女は、J.J.エイブラムス監督によるREBOOT版の本家『スター・トレック』の新シリーズの第2作目の『スター・トレック イントゥ・ダークネス』(2013年)でアレキサンダー・マーカス提督の娘キャロル・マーカス博士役を演じ、レギュラー並みの活躍を見せていた彼女が、続編の第3作目の『スター・トレック BEYOND』(2016年)では登場する機会さえなかったので、今作でこうやって登場してくれるのは実に感慨深かったですね。

 

 

また愛犬のチワワのピートの制服に編み込まれていたワンポイントやウェンディの愛用のブルーのディパックに付いていたロゴは、惑星連邦宇宙艦隊のマーク。

ウェンディの愛用のディパックのロゴマーク入りのカバンがカッコ良くて、ついつい欲しくなりましたね。

 

 

また、パニック気味のウェンディに、クリンゴン語で話しかける粋な巡査がいましたけど、これも『スター・トレック』に出て来るクリンゴン人の公用語。『スター・トレック』シリーズの中では、DVDなどでクリンゴン語も選択出来るバージョンのドラマのシリーズもあるらしいです。

 

また、本作では「フィクションである娯楽の物語がその人の現実世界も救済することになるかもしれない」と言ったメッセージも投げかけられているのかも知れないですが、その意味合いでは、『ブリグズビー・ベア』(2017年)の中で提示された価値観とも多少似ている点もあるやも知れないですね。

 

 

私的な評価としましては、

主演のダコタ・ファニングに対して、辛口評価している映画ブロガーも散見しているみたいですが、極々、自然な演技で、広義の自閉症の女性といった難役を演じて見せてくれて、凄くハートフルな作品で、パニックの発作を伴うPTSD障碍を現在も患い数年に亘り加療中の私には、かなり勇気づけられましたし、『スター・ウォーズ』のファンのロードムービーの『ファンボーイズ』(2008年)という青春映画もそうですが、ファンが観た小ネタ的にも面白いし、映画としても立派に成り立っている点は流石だなと思いました。

 

また、障碍を持つきょうだいに振り回される側を主体に描くのではなく、障碍を背負った側の視点で展開する映画という点でも好感が持てましたね。

ですので、あくまでも私見ですが五つ星評価的には★★★★☆(90点)のほぼ満点の四つ星半評価でも相応しい作品かと思いました。

 

 

 

 

 

●映画『500ページの夢の束』予告編(ロングVer.)

 

 

●映画『500ページの夢の束』(ショートVer.)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回も最後までブログ記事をお読み下さり誠に有り難うございました。