『恋人たち』(2015年) | HALUの映画鑑賞ライフのBlog

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「カルピスの原液の様な濃厚で重い主題の作品(16.3/8・劇場)」
ジャンル:人間ドラマ
製作年/国:2015年/日本
配給:松竹ブロードキャスティング=アーク・フィルムズ
公式サイト:http://koibitotachi.com/
上映時間:140分
公開日:2015年11月14日(土)
監督:橋口亮輔
出演:篠原篤、成嶋瞳子、池田良、安藤玉恵、黒田大輔、山中崇、内田慈、山中聡、リリー・フランキー、木野花、光石研、水野小論、高橋信二朗、大津尋葵、川瀬絵梨、中山求一郎、和田瑠子
ほか

PG12

恋人たち・映画チラシ表3 

恋人たち・映画チラシ表1 
   
恋人たち・映画チラシ裏1 

第70回毎日映画コンクールの日本映画大賞に、また、2015年度(第89回)のキネマ旬報・日本映画ベストワンに輝いた作品ということで、予てから観に行きたかった作品だったのですが、なかなか観に行くチャンスに恵まれなかったのですが、今年に入って、(一体どの劇場でならば『恋人たち』を、喜寿を越えた年老いた父親と一緒に観賞出来得るのかという点で、紆余曲折ありましたが)、ようやくながら、先日に、イオンシネマ京都桂川におけるセカンド上映にて、この『恋人たち』を観賞する機会を得られることが出来て良かったです。

恋人たち・映画チラシ表2

恋人たち・映画チラシ裏2

『恋人たち』の映画自体の感想としましては、
不条理この上ない、この世の中をもがき彷徨いながら、希望の光を見出そうとする、3組の恋人たちのカップルのエピソードを、オーディションで選ばれた、ほぼ無名の新人俳優さん達とは到底思えないほどの凄く自然な演技力に圧倒されっ放し状態でした。
映画の内容自体は、何の予備知識もなく観賞に臨みましたが、かなり深刻で暗く重いテーマでしたが、それ故にパンチの効いた濃度が濃い映画でしたね。あたかもカルピスの原液の様な濃厚な映画でした。

ぐるりのこと。映画チラシ表1 

橋口亮輔監督というと、何があっても離れない夫婦の十年を描いて、数々の賞を受賞した名作『ぐるりのこと。』が有名ですが、あれから7年。待望の長編映画最新作の今作。
通り魔殺人事件によって妻を失った男。
退屈な日常に突如現れた男に心が揺れ動く皇族好きの夢見がちな平凡な田舎主婦。
同性愛者で完璧主義のエリート弁護士。
といった、この不器用ながらもひたむきに毎日を送る3人を取り巻く”恋人たち”が、日々もがき苦しみながらも、人と人との繋がりを通して、ありふれた日常のかけがえのなさに気付いていくまでを、繊細に丁寧に描いた作品として、世に送り出したオリジナル脚本作がこの『恋人たち』。

最近の日本の映画業界的にも、商業主義映画が真ん中を陣取って、単に、監督がただ撮りたい映画を撮るということ自体が難ししくなりつつある中、あえて自主映画的な尖った内容の映画を撮ることに拘った作品らしく、そういった「いま、撮りたい」という題材を、新人俳優を起用して自由につくるという、”作家主義”×”俳優発掘”を理念に掲げる、松竹ブロードキャスティングによるオリジナル映画製作プロジェクトから生まれた作品とのこと。

そう言う意味合いでは、映画を芸術という視点から捉えますと、この作品は、社会派作品としても、なるほど評価に値する映画かも知れないですが、映画に単なる娯楽性のみを求めてしまうと、この映画とはおそらく相性が合わないかもしれないですね。
それほど絶望的な空気感とそこからの再生を見事に描いた映画でしたね。

恋人たち・篠原篤01 

恋人たち・成嶋瞳子01 

恋人たち・池田良01 

橋口亮輔監督の思惑通りと言いますか、篠原篤さん、成嶋瞳子さん、池田良さんの主役の3人が、いずれも、ほぼ無名な新人俳優の起用だったことにより、見事にドキュメンタリー映画っぽい感じを醸し出していましたよね。
そこに、光石研さん、安藤玉恵さん、木野花さん、黒田大輔さん、山中崇さん、山中聡さん、内田慈さん、リリー・フランキーさんなどのいずれも個性溢れる実力派俳優が彼らを支える様に配役されていることで、これがドキュメンタリー映画ではなくフィクションであることを再認識させる効果も上げていましたね。

恋人たち・成嶋瞳子02 

恋人たち・成嶋瞳子03

恋人たち・篠原篤03 
  
恋人たち・池田良02 

そういった側面からも、特に今回の映画は、ドキュメンタリー映画とも見紛うような、この彼ら新人俳優の圧倒的な演技力を見せつけられた訳ですが、私個人的には、通り魔殺人事件で妻を失った男と、同性愛者のエリート弁護士とはお話的にシンクロするわけですが、皇族好きの夢見がちな平凡な田舎主婦とは、まったく接点がなかったのが残念ではありましたね。

ベベル・映画チラシ 

その点で、あのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『バベル』の様に、全ての事象が絡み合って連鎖しながら存在するといった宗教的な韻の踏み方は、あえて回避させたのかなとも思いましたが、この『恋人たち』を観る観客の1人という立場としては、この3人の生き様が相互に絡み合ってシンクロしている方が、より解り易くて親切な作りだった様にも感じましたね。

でないと、何故に、通り魔殺人事件で妻を亡くした男のお話と、皇族好き夢見がちな平凡な田舎主婦との全く異質なお話を並列的に活写するのかがイマイチ理解に苦しみながら観賞せざるを得ないとは思いましたし、事実、その点が観賞中ずっと私が腑に落ちなかった点でしたね。

恋人たち・篠原篤04

また、巷間では、篠原篤さん演じる通り魔殺人で妻を亡くした男の絶望感に浸る演技ばかりがクローズアップされがちな様ですが、惜しげもなくヌードを披露し、タバコの火を放尿で消すといったシーンもやってのけた成嶋瞳子さんの平凡な田舎主婦の演技も、もうちょっと評価されても然るべきかとは思いましたね。

恋人たち・篠原篤02 


ただ、正直な感想から致しますと、
たしかに、ほぼ無名の新人俳優とは思えないような圧倒的な演技力を見せつけられた点は凄かったのですが、不条理極まりないこの世の中をもがき苦しみながら、日々を生き抜く絶望的な姿から、その再生に至るまでの日常を切り取った作品という点から、かなり濃厚で重い主題の映画であった事から、常日頃、閉塞感に満ちあふれた毎日を過ごしている自分としては、あくまでも映画を観る動機付けにはどこかしらに<娯楽性>を求めている部分があったので、かなり<演技力・役者力>が凄い作品だとは思いつつも、観続けていくのが、かなりしんどい映画だという印象は拭えなかったですね。

私的な評価と致しましては、
たしかに、ほぼ無名の新人俳優による演技とは到底思えない様な<演技力・役者力>に満ちた映画でしたね。
ですが、各登場人物の背景が絡み合うことなく進行していましたので、その点で、何故に、彼らの人間模様を並列的に活写するのかという疑問が生じていたのも事実であり、出来ますれば、彼ら3組の”恋人たち”のそれぞれのエピソードを結びつける繋がりが欲しかったですね。
その点が残念だったのがひとつ。
また、私自体が、映画を観る動機付けとして、非日常性といった<娯楽性>を求めている部分が大きいので、その点ではテーマが濃厚で重過ぎて、観続けるのが、しんどい映画だったというのが正直な感想であり、その点から、残念ながらも、常日頃、閉塞感にさいなまれている私には不向きな映画だとは思いました次第です。
ということから、映画を芸術という側面から観れば、今回の橋口亮輔監督のこの『恋人たち』も、かなりの評価に値する作品なのかも知れないですが、私的評価と致しましては、それ相応には高評価ではありますが、★★★★(80点)止まりの評価とさせて頂きました。


●映画『恋人たち』予告編

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