『わが母の記』(2012年) | HALUの映画鑑賞ライフのBlog

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「文豪と認知症の母(12.5/2・劇場)」
 ジャンル:人間ドラマ
製作年/国:2012年/日本
配給:松竹
時間:118分
公式サイト:
http://www.wagahaha.jp/
公開日:2012年4月28日(土)
監督:原田眞人
出演:役所広司、樹木希林、宮崎あおい、南果歩、キムラ緑子、ミムラ、菊池亜希子、三浦貴大、真野恵里菜、三國連太郎
ほか

わが母の記・チラシ


滋賀県大津市のシネコンにて、私の母親からのリクエストにより、私の母親と叔母と一緒に鑑賞。

わが母の記3人

 率直な感想と致しましては、
<昭和の文豪の井上靖>の作品は読んだことはあるのですが、こと井上靖本人の自伝的な小説については読んだ事が皆無でしたので、「相当に泣かせられる映画なのかな?」と思って相当に覚悟して鑑賞に臨みましたが、実は、生前に何度もノーベル文学賞候補にも挙がっていたらしいほどの、あの<昭和の文豪の井上靖>と、その実母が老いて日増しに認知症を患って行く過程においては、その息子たる井上靖本人(小説の上では、小説家・伊上洪作)。そして、その井上靖の兄妹や、妻、三人の娘達。また書生に至るまでの周囲の家族との遣り取りなどには、実に、微笑ましいエピソードの描写シーンが非常に多くて、随分と笑わせられましたし、会場内も笑いの渦が起こるほどの愛くるしい映画でしたね。

<泣ける映画>というより<微笑ましい家族愛に満ち溢れた映画>でしたね。

あの本場ハリウッドの女優の本年度米国アカデミー賞主演女優賞受賞のメリル・ストリープのマーガレット・サッチャー首相の、あのサッチャー首相の晩年の認知症の過程の演技もさることながらも、
本作品において、特筆すべきは、その役柄において、そのほとんど、然したる特殊メイクも無しに、徐々に自然に老け込んで行き、日増しに認知症を患って行くといった姿を、小説家・伊上洪作の実母・八重役の樹木希林さんの迫真の自然な認知症の演技には本当に脱帽モノでしたね。

本当に、<日本映画界には樹木希林ここに有り。>って感じの映画でしたね。

また、役所広司さん扮する井上靖の分身である、小説家・伊上洪作役も、幼い時分に、実母の八重に捨てられてしまっていたといったトラウマを抱える息子役を好演していましたし、実母・八重(樹木希林さん)との、視点を変えれば、やや、ちぐはぐな母親への愛情表現も上手く表現されていましたね。

そして、また、当時の<昭和の文豪の井上靖>のその豪華な生活ぶりを投影する、本作品の伊上洪作一家の<昭和の文豪のブルジョアジーな生活ぶり>の一端も垣間見える様に、その昭和30年代から40年代当時の裕福な生活ぶりの数々のシーンを上手く再現してくれていた点は、ロケハンなど、ご苦労もあったでしょうが、非常に良かったとも思いましたね。

また、パンフレットによりますと、あの文豪・井上靖の東京都・世田谷にあった、本物の邸宅内を居間や書斎に至るまで、実際にロケに使用させてもらったらしいそうですから、さすがにそれらしく映るはずですよね。

あの『突入せよ!「浅間山荘」事件』、『クライマーズ・ハイ』などでも有名で硬派な社会派作品の映画監督というイメージがあった、原田眞人監督ご自身は、本作品においては、あえて、あの小津安二郎監督の遺された作品群などに向けてのアプローチ的な試みもあるそうですが、私の場合には、その辺りについては、不勉強なためか、残念ながらも、あまり気に留まらなかったですね。

むしろ、気になった部分を挙げますと、冒頭から前半部分にかけては、文豪・井上靖の分身たる、自伝的小説の主人公たる、小説家・伊上洪作とその一家や一族の人間関係や人物相関図が、その登場人物の多さや複雑な環境や、早口の台詞なども左右してか、観客サイドから致しますと、やや多少把握するのが難しい設定にもなりがちだったのか、早々に、数人イビキをかいて寝ている観客も居られたくらいでしたので、そこが自伝的小説の映画化作品という宿命でもあり、難点ではあったのでしょうね。

そこを、監督自ら脚本も手掛ける、原田眞人監督は、冒頭辺りの早々にも、観客サイドに、実母・八重の認知症の初期症状を見せ始めさせることで観客を飽きさせない工夫はされていた様でしたが、やはり、それでも、尚、当初は、やや登場人物の多さから生じる人物相関図が把握し辛い散漫な感は否めなかったですね。

そこを、中盤からは、伊上洪作本人の他に、伊上洪作の三女・琴子(宮崎あおいさん)と書生の瀬川(三浦貴大くん)とを中心に据えて、特にクローズアップさせることで、やや物語の筋道が解り易くなり、作品の中盤以降は持ち直して来た感も有りましたね。
その甲斐が有ったのか、中盤以降は、周囲の笑い声に起こされたのか、それまでイビキをかいて寝ていた観客も起き出して来ましたね(笑)。

ここは、やはり、昭和の文豪たる井上靖の遺した、ほぼ事実に基づいた自伝的小説を題材にしている手前上から、実在した登場人物の配置などは、設定上、省くことは出来なかったのでしょうし、致し方無かった点なのかもしれないですね。

但しながらも、一見致しますと、これまで硬派な気質の社会派作品の映画を撮り続けてきた監督とも思い込んでいた、原田眞人監督と同一人物の監督さんの映画とは思えないほど、<認知症の母親を看取る>といった、かなり重苦しい題材でありながらも、実に、微笑ましく、また愛くるしい家族の愛情に満ち溢れた映画に仕上がっていましたのが最大の驚きでも有りますし、今回、樹木希林さんの熱演が、劇場鑑賞をした際の最大の収穫でも有りましたね。

わが母の記ラスト



私的な評価と致しましては、
私の場合には、残念ながらも、不勉強なためか、本作品から小津安二郎監督の作品群に向けたアプローチ的な試みなどの難しいことまでは感じ取れませんでしたが、かなり重苦しい題材になりがちな<認知症の母親を看取る>という内容で有りながらも、実に微笑ましく、また愛くるしい家族の愛情に満ち溢れた映画に仕上がっていたね。

但しながらも、冒頭から前半部分にかけての登場人物の多さや早口の台詞などから生じる、人物相関図の解り辛さなど難点は有ったのは事実でしたし、ストーリー展開的にやや単調な感も見受けられは致しました。

しかしながらも、中盤以降は、登場人物を絞って、三女・琴子(宮崎あおいさん)や書生の瀬川(三浦貴大くん)などの数人に限って焦点をクローズアップさせながらお話しを進行させることにより、お話しの展開が解り易くなり、テンポも良くなり、主人公たる伊上洪作(役所広司さん)と母親・八重(樹木希林さん)を取り巻く環境もスゴく解り易くなり、実母・八重(樹木希林さん)が老け込んで行き、認知症が進行が進めば進むほど、より一層、微笑ましく、面白可笑しく、愛情溢れる映画に仕上がっていた点からも、実に、特に、樹木希林さんの好演が輝る作品とも言える作品でしたので、前半部分のストーリー展開上のテンポの悪さを差し引きましても、ほぼ満点の★★★★☆(90点)の高評価を付けさせて頂きました。

※私個人的には、「クールなダンプ男」役に、<劇団☆新感線>の橋本じゅんさんがチョイ役で出演されていたのもチョット嬉しかったですね。

<第35回モントリオール世界映画祭・審査員特別グランプリ受賞作品>

樹木希林さんの演技を観るだけでも一見の価値の有る、お勧め作品です。
 
この作品が、本年度の米国アカデミー賞の外国語映画部門・日本代表候補作に選ばれそうなそんな予感がするほどの傑作でしたね。

●映画『わが母の記』劇場予告編