よく芸能人やテレビに出るような人が、恩師の話をしたりする。
「あの時あの先生がなんとかって言ってくれたから…。」的な話。
どれも素敵な話だけど、正直私にはない。
そんな素敵なエピソード。
結構、…欲しい。かも。
今も変わらないけど、学校ではだいたい影が薄くて、いるかいないかわからないけど、ギリギリいるのがわかるくらい。
担任の先生でも私の事を覚えている先生なんているんだろうかとたまに思ったりもする。
その私が名指しで職員室に呼ばれた事があった。
中1の頃、放課後だったと思う。
何だろうとドキドキしながら直立不動の私に、宿泊研修の参加費をまだ納めてないだろうと先生は聞く。
え!何ですって!
「持ってきました…けれども…。」
思いもしなかった質問に驚いた。
「持ってきてないよ。」
「でも、持ってきました。」
他に何とも言い様がない。
「持ってきてないよ。持って来たって言うなら、何月何日?」
先生はやたらと威圧的だった。
そんなの覚えてない。
どうしよう。
周りは敵だらけに見えて、取り調べでも受けているような気になってきた。
私は、声も小さくなってしどろもどろ。
でも私は嘘をついてはいない。
きっと信じてくれるはず。
しかし、話は平行線。
すると先生はこう提案してきた。
「誰か友達を連れてきなさい。」
なぜ今友達が必要なのか。
よく分からなかったが、指示に従いまだ教室にいたクラスの女の子に頼んで職員室まで来てもらった。
先生の前に私とその子の二人を立たせて、また先生は質問をする。
「宿泊研修のお金は持ってきましたか?」
「持ってきました…。」
小さい声で答えた。
「持ってきてないでしょ?」
もしかして、これは…有罪確定!?
そんな…。
持ってきてないお金を、持って来たって嘘をついて、うちはどんだけ貧乏なんだ。
だけど、どうやって疑いを晴らしたらいいのかもわからない。
だってお金はみんなの分と一緒になっているはず。
その中から、これを持ってきました。なんて、選び出せるわけもない。
お札に名前を書いておけば良かったと、真剣に後悔した。
そのうち、何度も「持ってきてない。」と言われ続けて、なんだか自信がなくなってきた。
何故私の言う事は信じてくれないのか。
それに友達の前で「君は嘘つきだ。」と言われているようで、恥ずかしくて、もう、辛かった。
先生は連れて来た女の子に聞いた。
「君、彼女が何を言っているかわかる?」
その子は気まずそうに首をかしげた。
すると先生は痺れを切らしたように、
「何言ってるかわからないよね!」
それから私に向き直り、
「君は何を言ってるかさっぱりわからないよ、持って来てないからそんなしゃべり方なんだろう…。」
その後はよく覚えてない。
ただ逃げ出したかった。
職員室で、大声でこの子は貧乏で嘘つきなんですって言われた自分を帳消しにしたかった。
個人的にどうこうなるお金を持っているわけでもなくて、親に話して次の日また持って行くしかなかった。
次の日は、朝のホームルームの後に呼ばれた。
今度はクラスの男の子と一緒。
階段脇の人気のないところで、先生は囁くような声でこう言った。
「彼は今日宿泊研修のお金を持ってきました。彼は持ってきてなかったと言い、あなたは持って来たと言い、これで数が合いましたからもういいです。」
そして、最後に付け加えた。
「お母さんには言わないでね。」
…。
私への疑いは晴れたが、なんだか、なんだか納得がいかなかった。
昨日の職員室での出来事は何だったのか。
そして、先生は自分の否を認める時は、なんでこんなに人気がないところなのか。
そして、クラスのみんなにも内緒でと付け加えて解散。
それだけだった。
結局、それはちょっとした手違いから起こった勘違いだった。
けれど、
その日から先生は、普通の人になった。
そして、帳消しにしてしまいたい自分はそうはならず、どうしていいかもわからず、いつものようにただ、黙っていた。