こんにちは、HALです。
さて、補完食(離乳食)の疑問は山ほどあると思いますが、その中でも「卵」🍳の進め方にお悩みの方、多いのではないでしょうか。
というわけで、今回から数回に分けて卵の進め方について解説したいと思います。
今回は第3回。具体的な
前回、前々回の記事はこちらです。
食物アレルギーは血液検査じゃわからないの?
いきなり脱線しますが、大事な話なので書かせてください。
最初に強調したいのは、食物アレルギーは血液検査だけではわからない、ということです。
食物アレルギーが疑われる方に血液検査をすることはありますが、血液検査の結果だけでは食物アレルギーかはわかりません。
食物アレルギーは
①特定の食物の摂取により症状が誘発されること。
②症状誘発が、特異的IgE抗体など免疫学的機序を介する可能性があること。
の2点が揃ってはじめて「食物アレルギー」と診断されます。
血液検査のIgEという値が高くても症状なく普通に食べることができる子もいますし、逆にこれが低値でもアナフィラキシーを起こす子もいます。
ですので、食物アレルギーを心配して血液検査を希望されたり、保育園などから検査を受けるようにと指示(依頼?)されることもあるようですが、それで陽性だったからと言って「食物アレルギー」と診断もできませんし、「食物アレルギーかもしれないから、念の為除去」もおすすめできません(元々アトピー性皮膚炎など食物アレルギーのリスクが高く、アレルギー専門医等アレルギーに詳しい先生の元で経過を見てもらっている方は、先生の指示に従ってください)
要するに、実際に食べてみないとわからないのが食物アレルギー、ということになります(リスクがあまりに高い場合は病院で実際に食べて検査する「経口負荷試験」というものがあります)。
アレルギーを起こしやすいのは「卵白」
「卵アレルギー」と言いますが、実際にはほとんどの方は「卵白」のタンパク質(オボアルブミンやオボムコイドなど)に反応してアレルギーの症状が出ます(卵黄はアレルギーを起こさない、という意味ではなく、卵黄を食べてしばらくして嘔吐するといった消化管アレルギーもあります)
そして、食物アレルギーの症状は、ごくごく少量でも大量でも同じ症状が出る、というわけでもなく、少ない量なら全く症状なく、一定量超えたらいきなりアナフィラキシー! というわけでもありません。
たくさん食べると症状が強く出て、少なく食べると症状が軽く出ます。
ですので、食物アレルギーがあるにしろないにしろ、とにかく少量からスタート、少しずつ増やしていって途中で怪しい症状が出たら受診して相談、というのが、全ての食べ物のアレルギーチェックの基本となります。
少量というのは、単純な「量」ではなく、アレルギーを起こす元になるアレルゲンの強さ(アレルゲン性と呼んだりします)も考えた量になります。
わかりにくいので具体例をあげます。
卵白がアレルギーをおこしやすい、と話しましたが、この卵白のアレルゲンは加熱に比較的弱い性質があります。
例えば、生の卵白のアレルギーを起こす強さを「1」とすると、12分加熱したゆで卵では、なんと1万分の1まで強さが落ちます。20分加熱したゆで卵では2万分の1になります。(オボアルブミンで比較)
なので、卵を進めるポイントその①は「加熱」です。
単純に固まればいいのではなく、一定以上の温度&長時間加熱することで、卵のアレルゲン性を落とすことができます。
卵を進めるポイントその②は「できれば卵黄からはじめる」です。
卵黄は卵白じゃないんだから、別に安全なんじゃないの? と思われるかもしれませんが、卵白のアレルゲン、なんと卵黄に染み込むのです。
特に卵白中のオボムコイド(卵アレルギーを起こす成分の一つ)は水に溶ける性質があります。
12分間加熱したゆで卵の場合、ゆでたまごを作ってすぐに卵白と卵黄を分離した時、卵黄には同じ量の卵白と比較して3000分の1程度のオボムコイドがあります。染み込んでいるわけですね。
しかし、ゆで卵を作って1時間後に卵白と卵黄を分離すると、約100分の1程度、24時間後に分離するとなんと約10分の1もオボムコイドが検出されるのです。
表現がわかりにくかったらごめんなさい。
要するに24時間後に分離したゆで卵だと、卵黄10g食べたら卵白1g食べるのと変わらないだけのアレルゲンが染み込む、ということになります。
ただ、染み込んでいて構わないのです。少量卵白のアレルゲンが染み込んだ卵黄を少量からスタートすれば、「とにかく少量からためしてみる」という目的を達成することができるのです!
卵の具体的な進め方(やっと本題)
というわけで、具体的な進め方に入ります。本題まで長かった。すみません。
もちろん、これが絶対に正しい唯一のやり方! というわけではなく、食物アレルギーの視点から見て、できるだけ少量からスタートする一つのやり方、と思っていただければ幸いです。
- 長く茹でた卵がアレルゲン性が落ちる
- 卵黄に染み込んだものを上手に利用する
この2点から、まずはしっかり固茹でにした卵黄🍳からスタートすることをお勧めします。
一番おすすめは沸騰してから20分固茹で、少なくとも沸騰してから12分以上は茹でてもらえるとよいと思います。
ゆで卵を作ってから、冷水に取り、すぐに卵黄と卵白を分離します(熱いのでヤケドしないように気をつけて!)
ちなみにゆで卵白は刻んでマヨネーズと混ぜて、蒸したかぼちゃなんかに混ぜると美味しいかぼちゃサラダになりますので親御さんが食べてください。
そしてその卵黄の(できれば中心部分を)耳かき1杯程度取り出したものからスタートします。
即時型の反応であれば30分以内、多くは2時間以内に症状が出ますので時々様子を見てあげてください。
問題なければ、翌日(もしくは翌日以降)、耳かき2杯程度の卵黄をあげます。
問題なければ、翌日(もしくは翌日以降)、耳かき4杯……ではわかりにくいので、フィーディングスプーン(離乳食の時に赤ちゃんに食べさせる小さいスプーン)1杯程度の卵黄をあげます。
問題なければ……という風に、2倍程度を目処に増量していきます。毎日食べさせてもよいですし、数日あけても構いません。
この最初の量と増やす幅については難しいところになります(絶対これなら大丈夫という目安がないので……)。アレルギーが心配な方は1.2倍や1.5倍程度で増量してもいいですし、あまりアレルギーの心配がない方は最初を耳かきではなくフィーディングスプーンからスタートしても構いません。
耳かき1杯は多くの離乳食の本で書かれていて、それで問題なく進める方が多いようですので、耳かき1杯の表現をお借りしました(胡麻1粒分でも米粒1粒分でもいいと思います)
食物アレルギーがある場合、体調によって食べられる量が増減しますので、同じ量でも症状が出たり出なかったりする可能性はあります。心配であれば数日同じ量を続けてから増量……でもいいのですが、あまり慎重にやりすぎると、卵のアレルギーチェックだけで数ヶ月かかることになりますので、他の食べ物との兼ね合いも考えてある程度のスピードで増やすほうが現実的と思います。もちろん怪しい症状が出た時は無理せず受診しましょう。
一般的な離乳食の本のやり方で進めてもらっても大きな問題はないと思いますが、加熱をしっかりすることはお忘れなく!
卵黄1個分をまずは目標にします。が、結構卵黄はお腹にたまるので、もし1個食べられないようなら半分でも1/4でも、食べられるところまで進めてください。栄養は卵白より卵黄に詰まっているので、できれば卵黄をしっかり食べれるようになると嬉しいですね。
ちなみに卵黄は冷凍できます(1週間をめどに食べ切れば問題ないと思います)
そこまで症状がなければ、20分固茹で→12分固茹でにしてもいいですし、分離する時間を直後→1時間後とかにしても構いません。
それもクリアしたら、本丸であるところの卵白🍳にうつります。
すでに卵黄をある程度食べているということは、卵白もごく少量なら大丈夫であることが確認できている、ということになりますので、そこまで身構えずにスタートしましょう。
卵白のみだと栄養が微妙なので、これまで食べていた量の卵黄+少量の卵白、という風に食べさせると栄養的におすすめです。単純にアレルギーチェックだけなら卵白だけでももちろんOKですが。
20分固茹でにした卵白をごく少量、こちらも耳かき1杯程度からスタートします。
問題なければ、翌日(もしくは翌日以降)耳かき2杯食べさせます。
問題なければ……という風に、こちらも2倍程度で増やしていきます(増やす幅やスタートの量については上記の話も参考にどうぞ)
ある程度の量卵白が食べられるようになったら、茹で時間を短くする、生の状態で卵黄だけ取り出して加熱したものにするなど、徐々にいろいろな調理法にトライしてみてください。
ただ、加熱時間が短くなったり、加熱温度が低くなるとアレルゲン性が強くなります。レンジ調理はしっかり固まって見えても十分な加熱がなされていなくて症状が強く出ることがありますので、ある程度の量が食べられるようになるまでは避けたほうが無難です。
卵ボーロもアレルゲン性が高く、ゆで卵1個食べられても卵ボーロ1個食べられないことがありますので、こちらもある程度食べられるようになってから試すほうがよいでしょう。
今回のまとめ
- 血液検査だけで食物アレルギーとは思わないでね
- アレルギーを起こしやすいのは「卵白」
- 少量からスタート、徐々に増やす
- しっかり加熱
- 固茹での卵黄からがおすすめ
これで大体卵の進め方の話は網羅したかと思いますが、質問等ありましたらまた続きを書こうと思います。
食品中の抗原性の話になると伊藤節子先生の本がものっすごくマニアックで詳しく書かれていますし、今回の話はほぼここから作られていますので、食物アレルギーに興味があって詳しく知りたい方にはおすすめします(一般向けではありませんが、ものすごく勉強したい人なら読めると思う)
「赤ちゃんのための補完食入門」(彩図社)では今回話ていない話や別の視点からも解説していますので、気になる方はどうぞ。
出典
海老澤元宏, 伊藤浩明, 藤澤隆夫監修. 日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会作成. 食物アレルギー診療ガ
イドライン 2021. 東京: 協和企画;2021.
伊藤節子. 抗原量に基づいて「食べること」を目指す 乳幼児の食物アレルギー. 東京: 診断と治療社,2012
渡邊裕子ら. 調理による卵アレルゲンの変性.食品衛生学雑誌.2012;53(2):98-104