フィッシュストーリー(2009)
なかなか面白かった「アヒルと鴨のコインロッカー」のスタッフが再結集して、同じく伊坂幸太郎の原作小説を映画化した本作。
こちらの方は、ストーリー的に荒唐無稽な作品となっているが、それでもよくできていると感じた。
数日後に彗星が地球に衝突して、全人類滅亡の危機が数日後に迫る中、あるレコード店では、そんな切羽詰まった様子もなく、セックス・ピストルズがデビューする一年前に日本でデビューしたという、逆鱗と名のパンクバンドによる「フィッシュストーリー」という曲が流れていた。
レコード店の店主は、この曲に大層思い入れがあるようで、レコード店に来ていた客に、この曲について解説を始める。
この曲には、途中一分ほどの無音箇所があり、その部分にいろんな思いが込められていることを語りだすのだが・・・
こういう風に書きだすと、ただのノスタルジィ物のように思われますが、いやいや、本作は、地球滅亡を阻止しようとする人間たちのスペクタクル作品と化していくのです。
「秘密戦隊ゴレンジャー」がブラウン管テレビで流れているところから始まる本作は、そこから、気の弱い大学生の雅史、修学旅行でフェリーに一人取り残されてしまい、シージャックに遭遇してしまう麻美、そのフェリーでシージャックを退治してしまう正義の味方、ノストラダムスの大予言を信じ終末思想を唱える変な宗教家、売れないバンド逆鱗、彼らを見出しレコードデビューさせようとする音楽プロデューサーなどの人物が、それぞれの時間軸で活躍し、物語はそれらのエピソードを交錯させながら、地球滅亡を止めるというエンディングに突き進んでいくのです。
これらの場面シャッフルはとてもうまくできており、この手の構成の作品にありがちな混乱もなく、自然にストーリーを追うことができる。
特撮も、大仰なCGは使っていないのに、絵空言ではない滅亡に向かう危機感を肌で感じることができるのは演出力が高い証拠だろう。
フェリーでのシージャックシーンでは、まるで香港クンフー映画のようなカッコいい格闘シーンを見せる。
そこで活躍する正義の味方が修行をする場面に、『ベスト・キッド』のオマージュが込められているのも楽しい。
「夜のピクニック」(2006)以来お気に入りの多部未華子も、地球滅亡阻止に向けて、意外な活躍を見せて魅力的。
パンクバンド、逆鱗の友情の描き方が、個人的にはちょっと泥臭くて気恥ずかしくなってしまったのがちょっと残念。
でも、それを差し引いても十分に面白い。
逆鱗のボーカル役、高良健吾が「蛇にピアス」(2008)同様妖しい魅力を放つ。
音楽監修、斉藤和義。
『フィッシュストーリー』(2009)
中村義洋監督 112分
2009年(平成21年)3月公開