狼は天使の匂い | あの時の映画日記~黄昏映画館

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あの日、あの時、あの場所で観た映画の感想を
思い入れたっぷりに綴っていきます

 

 狼は天使の匂い(1972)

 

クライムメロドラマとでも形容いたしましょうか。

監督は、『禁じられた遊び』(1952)『太陽がいっぱい』(1960)などの名匠、ルネ・クレマン。

 

飛行機事故で大勢の子供たちを死なせることになってしまったトニー。

 

この事故に怒り狂った大人たちが、執拗にトニーノ命を狙うために執拗に追ってくる。

 

退路を断たれたトニーは、偶然目撃した殺人事件の犯人たちのアジトに身を寄せることになるのだが・・・

チャーリーと名乗る男が構えるこのアジトに身を寄せる犯罪者たちや情婦たちのキャラクターが、個性があって楽しいのだが、その際立つ個性を活かせる演出ができていたかというと、少し残念だったかな。

 

各人それぞれ、本名を名乗らず、ペッパーやらシュガーやらというあだ名で呼び合うところなどは面白いが、トニーと恋仲になりそうなチャーリーの情婦と、実の兄を殺されたのにトニーを愛すようになるペッパーの三角関係がうまく捌ききれずスカッとしない。

 

最初はトニーを敵か味方かと疑っていたチャーリーが、次第にトニーを信用するようになり、トニーもチャーリーに対し友情を超えた信頼を寄せるようになる経過も、面白いのだが、まだるっこくもある。

トニーを執拗に追うジプシー集団の描き方が曖昧だからだろうと思う。

 

チャーリーが一世一代を懸けた計画も、スケールは大きいのに、どうも隙間風が吹き込むような隙のある演出。

 

サブリミナル的にトニーの過去が場面に数回挟まれるのだが、その演出も空回り感を覚える。

 

穏やかだったり荒れたりする川や、けだるさを感じさせる太陽など、自然の描写で登場人物たちの感情を表現するのはクレマン監督らしい演出ですが、『太陽がいっぱい』ほどのキレはなくなってしまっている。

 

冒頭に、クライムメロドラマと書いたように、男女関係はとてもおセンチに描かれていて照れ臭い。

 

チャーリーが見事なハードボイルドな存在感を見せるだけに、恋愛要素は排除して、こちらに振り切った作品にすれば、ひょっとしたら面白いアクション映画になったかもしれない。

 

『雨の訪問者』あたりから、クレマン監督は技巧に溺れてしまい酔ってしまうよになってしまったようです。

 

フランシス・レイの音楽はGOOD。

 

 

『狼は天使の匂い』La Course du lievre a travers les champs (1972)仏

ルネ・クレマン監督 141分

1974年(昭和49年)2月日本公開